第12話
「姉ちゃん、いきなり過保護すぎるんだよ…。」
ブレイズがぶつくさと文句を言っていると、ゲンが苦笑した。
「仕方ない。あの子はお前の姉として、お前を守りたいと思っているんだ。」
ゲンの言葉に、ブレイズはふと立ち止まった。
「あのさ、姉ちゃんは、父さん達が死んだ時のこと、覚えてるの?」
ゲンは動きを止め、ブレイズを見た。
「……ああ。」
「父さん達が、魔術師だったことも、知ってたんだよな。」
「そうだ。」
「そっか……。」
俯いたブレイズを見て、ゲンは頭を下げた。
「ブレイズ、今まで黙っていて、すまなかった。」
「な、何だよ、いきなり。」
「お前に、きっちり謝っておかなければならないと思ってな。」
「そんなこと……。」
「そんなこと、ではない。俺は、お前を守るためと思って、こんな街外れに引きこもって暮らしてきた。だが、結局のところ、ただのエゴに過ぎなかったのかもしれん。本当にお前の将来を考えれば、信頼できる魔術師に魔力の扱い方を教えてもらうべきだった。だが、イェール達を失って、お前にまで何かあったらと思うと、出来なかった……。」
ゲンは溜息をついた。
「お前が十八になれば封印が完成すると知っていたから、その時まで魔術師と接触さえさせなければお前に危害が及ぶことはないと自分に言い聞かせた。俺は、自分が取るべき選択肢を知っていながら、それから逃げた。……昨日の事件で、間違っていたと痛感させられた。」
「………。」
「本当に、すまなかった。許してくれ。」
ゲンはもう一度頭を下げた。ブレイズは、しばらく黙ったままだったが、気まずそうに頭をかいて溜息をついた。
「別にいいよ。許すも何も、ゲンじいは俺や姉ちゃんを育ててくれたんだし、封印が解けるなんて思いもしなかったんだろ。ずっとここから出られなかったのは確かに不満だったけど、ちゃんと説明してもらって納得したし。もういいさ。」
ブレイズはそう言って笑った。
「それより、早く行こう。あまり遅くなると姉ちゃんに怒られる。」
「……そうだな。」
◇◇◇◇◇
練習場へ行くと、ブレイズはフォン達を読んだ。
「フォン、レスタ、トア!いるんだろ?」
〈ブレイズ!〉
ブレイズが声をかけるや否や、姿を現したフォン達はブレイズに飛びついていた。
「うわ!危ないだろ。」
〈だって昨日やばい魔力の人間がいたんだぞ!〉
〈ブレイズに何かあったんじゃないかって心配してたんだよ~。〉
「ごめんな、心配させて。もう大丈夫だ。」
ブレイズは少し申し訳なさそうに言った。その様子を見て、ゲンが強張った表情で訊ねた。
「ブレイズ、そこに何かいるのか?」
「何か、って…魔物だよ。俺に魔力のことを教えてくれた奴らだ。」
〈ブレイズ、この人、だあれ?〉
「俺のじいさん。ゲンじいだ。」
〈普通の人間だよな。なら、俺達の姿は見えてないはずだぜ。〉
「え、そうなのか?」
〈うん。魔物の姿は魔術師じゃないと普通見えないよ。君もそうだったでしょ?〉
「あ、そっか。」
そう言われて自分も最初はフォン達の姿が見えていなかったことを思い出した。
〈僕達に君の魔力を与えてくれれば、他の人にも見えるようにできるよ。〉
「いつもみたいに魔力をあげればいいのか?」
〈それで大丈夫だよ~。〉
言われて、ブレイズは三人へと魔力を与えた。次々に姿を現す小さな小人の姿に、ゲンは目を丸くした。
「ゲンじい、こいつらが俺に魔力について教えてくれた、フォン、レスタ、トアだ。」
〈初めまして、ブレイズのおじいさん。〉
「あ、ああ、初めまして…。」
ゲンは驚きながらも挨拶に応えた。
「随分と可愛らしい魔物だな。」
〈そりゃ、色々な魔物がいるからな。〉
レスタがうんうんと頷いた。
フォンがブレイズの左胸に触れながら訊ねた。
〈封印、新しくなってるけどどうしたの?〉
「ああ。一度外れたんだ。」
〈外れたの!?いつ!?〉
トアが驚いた。その様子にブレイズのほうが驚かされた。
「昨日の晩に、心配しなくても、もう大丈夫だよ。かけ直してもらったから。」
〈昨日の晩!?一体何があったのさ?〉
ブレイズは昨日の顛末をフォン達に話した。フォン達はそれぞれへーとかうひゃとか色々な声をあげながらも大人しく聞いていた。
〈とりあえずブレイズが無事だったから良かったけど。〉
〈危ないことあったら俺達を呼べっていったじゃないか!〉
「ごめん。精一杯で気が回らなかったんだ…。」
フォン達の言葉に、ブレイズは申し訳なくなった。
〈でも。封印が外れたのに僕達が全然気付かなかったなんておかしいよね~。〉
トアの言葉にフォンはふと何かに気付いた様子で訊ねた。
〈ねえ、ブレイズ。もしかして屋敷のまわりに魔法陣が書かれてなかった?〉
「魔法陣?」
〈うん。昨日の晩、地面に不思議な模様とか文字とか書いてなかった?〉
「そう言えば、助けてくれたライって魔術師が書いてたような…。あれって何か意味があったのか?」
〈多分、ブレイズの封印が解けても周りの魔物や魔術師にわからないようにしてたんだよ。〉
「何でまたそんなことを?」
〈ブレイズの魔力を狙って別の奴らが来るのを避けたかったんだろうな。〉
〈ブレイズの魔力は最近駄々洩れだったからすぐわかっただろうしね~。その魔術師、これ以上面倒なことにならないように、対策してたんだろうね~。〉
フォン達に言われて、ブレイズは納得した。
「じゃあ、フォン達は俺の封印が解けたこと、全然知らなかったんだな。」
〈うん。全然わからなかったよ。〉
〈それにしてもすごいな、その魔術師。〉
「え、何で?」
〈普通、封印とかの儀式は大量の魔力を消費するんだって~。〉
〈一人でやるのは魔力が足りなくて出来ないみたいだよ。魔物から魔力を供給してもらえば大丈夫みたいだけど、それでも高位の魔物じゃないと不足するみたい。〉
「そうなのか。」
ブレイズはふと疑問に思ってゲンに訊ねた。
「ゲンじい、父さん達はどうやって俺の魔力を封印したのか知ってる?」
「イェールとフェアリ、二人がかりだったと聞いている。二人とも使い魔から魔力をもらって、どうにか出来たそうだ。」
「そんなに大変だったんだ………。」
ブレイズは感心した様子で呟いたかと思うと、考え込んでしまった。その様子を、ゲンは黙って見ていた。
〈ブレイズ、どうかしたか?〉
「ああ、ちょっと考え事。」
「……これからのこと、か?」
「!」
ゲンに言い当てられて、ブレイズはびくりと肩をすくませた。
「…よくわかったな、ゲンじい。」
「それくらいわかる。」
ゲンは溜息を吐いた。
「…お前は、どうしたいんだ?」
「俺は…。」
ブレイズは空を見上げた。そのまましばらくじっとしていたが、うん、と頷いてゲンを真っ直ぐ見つめた。
「ゲンじい、俺は―――。」
ざあと風が吹いた。ゲンは静かにブレイズの言うことを聞いていたが、話し終わると同時に、頷いた。
「わかった。フェアリには、俺から話しておこう。」
「反対しないのか?」
「お前のこれからを考えれば、それが今できる最善の選択だ。―――自分の思う様に生きろ。」
「ありがとう。」
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