第9話

 ブラックが、呆れたように言った。


「たった二人で何ができるって言うんだ?こっちは二十人以上いるんだぞ。」

「は。そのほとんどが雑魚だろ。この前俺一人に二十人倒されたのを忘れたのか?」


 完全に調子が戻ったブレイズが言った。その言葉に、ブラックはこめかみにピクリと青筋を立てた。盗賊達もブレイズに馬鹿にされ、殺気だった。


「おい、怪我はさせるなってことだったが、多少の怪我は有りに変更させてくれ。」


 ブラックの言葉に、ウェストが頷いた。


「ああ。それでもいい。」


 ウェストがそう言った瞬間、盗賊達はブレイズに向かって襲いかかって行った。ブレイズも低く屈んで、盗賊達の中に突っ込んで行く。


 最初に襲いかかって来た盗賊の一人から剣を奪うと、ブレイズはあっという間に盗賊達を三人倒していた。


「このやろう!」


 小太りの一人がブレイズの後ろから斬りかかった。だが、剣を振り上げた瞬間、ライに斬られて床に倒れ込んだ。


「ナイス。」

「集中しろ。」


 にやっと笑って言ったブレイズに、ライは眉一つ動かさずに言った。


「剣がダメなら銃でやれ!」


 その指示を合図に銃口が一斉に二人に向けられた。


「やべ…!」

「下がっていろ。」


 ブレイズより一歩前に出ると、ライは剣を前にかざした。

銃声がなるのとほぼ同時に、炎の弾幕がライの前に広がった。盗賊達とブレイズは驚きに目を見開いた。


「何!?」

「すげえ!」


 放たれた銃弾は全て炎に包まれ、ずぶずぶと溶けて床に落ちた。

 空中に残ったいくつかの火の玉はそのまま盗賊達の方へと飛んで行き、盗賊達の持っていた銃にへばり付いた。


「うわあっ!」

「あちいっ!」


 盗賊達は驚いてあまりの熱さに銃を取り落とした。地面に落ちた銃は、さっきの弾丸同様ただの鉄クズとなった。盗賊達の隙を見てとると、ブレイズはすぐさま攻撃に転じていた。

 十分もしない内に、ブレイズとライは盗賊達を倒してしまった。残るはブラックとウェストだけである。


「魔術師は任せた。」


 ブレイズはそう言うと、ブラックに斬りかかっていた。ブラックもナイフを取り出し、応戦する。金属同士がぶつかり合う音が鋭く空気を震わせた。


「おい!」


 ライが声をかけたが、ウェストの方から煙が凄まじい勢いで流れて来た。素早く身をかわすと、ウェストが凄まじい形相で睨んでいた。


「長髪、貴様は俺が相手だ。よくも儀式の邪魔をしてくれたな。」


 どう見ても見逃してくれそうにないウェストの様子を見て溜息を吐くと、ライはぽつりと呟いた。


「仕方がないな…。」


 そして、ライは剣を構えなおし、目の前の敵に集中する。

 

 一方、ブラックはブレイズに押されていた。先程怒り狂って襲いかかって来た時とは違い、ブレイズの動きには一切無駄がない。


(何だコイツ!動きがさっきまでと別人じゃないか。)


 ブレイズの重たい剣にブラックはナイフで応戦しているため、武器の質量分だけブレイズの一撃が重たくなっている。少しずつだが、ブレイズの攻撃を受けるたびにブラックは体力を奪われていた。


(くそ、このままじゃ不味い。)


 そう考えたブラックはナイフをブレイズの顔面めがけて突き出した。ブレイズは剣の腹でナイフを受けて防いだ。ブラックはその瞬間服の左袖に仕込んでいた小銃を取り出しブレイズに向けた。


「喰らえ!」

「!」


 銃を見た瞬間、ブレイズは素早く後ろに飛び退いて距離を取った。ブラックが銃を撃つと、剣を動かす。

 

 ギィ―…ン!

 

 激しい金属音がした。ブレイズの肩を狙ったはずの銃弾はブレイズに当たることなく天井へと飛んで行った。


「何!?」

「あぶね…。今のは焦った。」


 ブレイズがふう、と息をつきながら言った。その剣の腹に、薄く傷がついている。ブラックの目が驚きで見開かれた。


「まさかお前、剣で弾いたのか!?」


 その質問にブレイズはああ、と答えた。


「俺いつも銃使うからさ、撃つ時の目の動きとかで何処に撃ってくるかわかるんだよね。」


 そう言って、ブレイズはニイッと笑った。


「悪いけど俺、どんな相手だろうと一対一で負けた事無いから。」


 ブラックはフンと鼻で笑った。


「今に吠え面かくことになるさ…。」


 そう言ってナイフで再び襲いかかった。だが、剣とナイフではやはり一撃の重さが全く違う。自分が不利な状況に追い込まれている事を感じて、ブラックは焦っていた。


(どうにかしてこいつの剣を叩き落とせれば…!)


 ブラックは再び左手の銃を構え撃った。ブレイズが銃弾を弾き飛ばそうと構えた時に、右手のナイフでブレイズの手を叩いていた。弾みでブレイズは剣を落とした。


(もらった!)


 勝利を確信してブラックがナイフを突き出した瞬間、銃声が響いた。ブラックの右腕から力が抜け、ナイフが手のひらから滑り落ちた。


「何故…?」


 白煙をあげる拳銃がブレイズの右手に握られているのを見て、ブラックは呆然と呟いた。ブラックの右腕は撃ち抜かれ、傷口から血がどぷどぷとあふれ出している。ブラックの問いには答えず、ブレイズはブラックの左肩も撃ち抜いた。


 ガクンとブラックが膝から崩れ落ちた。信じられない物を見るような目でブレイズを見る。


「お前、何処からその拳銃を出した?」


 ブレイズは静かに答えた。


「最初にお前に襲いかかった時、蹴られてテーブルごと倒れただろ?あの時、引きだしにしまってあった拳銃をズボンのポケットに隠したんだよ。万が一に備えて置いてたんだけど、まさか本当に使うことになるとはね…。」


 そう言って、ブレイズは頭をかいた。ブラックは怒りで歯を食いしばった。


「こんな、ガキ一人に『ブラック・スネーク』がやられるなど、あってたまるか!」


 ブラックは叫ぶと、猛然とブレイズに向かって突進してきた。ブレイズはそれをひょいと躱すと、首の後ろに手刀を叩きこんだ。ブラックはそのまま意識を失い、床に倒れた。


 ブレイズはブラックの側に屈みこむと、完全に意識を失っている事を確認し、勝手に動けないよう腕と足を縛った。そのまま他の盗賊達も同じように縛りあげていく。


 全員を縛りあげると、ブレイズは上から聞こえてくる騒音に耳を澄ませた。いつの間にか、ライとウェストは二階へと戦いの場を移していた。


「どうなってるんだ、今?」

(もしライが押されているんだったら、加勢しないと…。)


 ブレイズは二階へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る