第14話 嵐の丘で
【語り手:レイズエル】
「さて、レベルも上がったし、イザリヤ」
「何だ、レイズエル」
「サイと黒ローブの母体組織、潰しに行くよね。村を襲った連中の仲間だよ」
「当たり前だ、恩ある村の人々を無秩序に殺した。悪魔は恩も恨みも3倍返しだぞ」
「念を入れてこのレベルまで上げた。そろそろ出発しよう」
イザリヤは頷いて亜空間収納に必要なものを放り込み始めた。
「明日の朝出発ね」
先に言え、というイザリヤの顔を見て、私は思わず爆笑した。
殴られた。
「えーと、まず目的地のラクーンデス王国王都のルーディドに行くにはクレスの町を経由していかないといけないね。ギルドの受付で情報があれば聞こうか」
「そうだな」
宿泊しているのはギルドのスイートルームなので、受付はすぐである。
クレスに行きたい、と言うと、受付嬢は渋い顔になった。
「あそこ、謎の竜巻が頻発してまして、結構酷い有様ですよぉ」
「通り過ぎるだけだから。それでも行きたいの」
「そうですかぁ………お二人なら大丈夫だと思いますけど気を付けてくださいね」
そう言ってクレスまでの地図を手渡してくれる受付嬢。
部屋に帰って。
「竜巻とやら、同族が関わってるような気がする」
「悪魔か?」
「この感じは、人からの堕天系悪魔だと思う」
人も悪徳を犯せば悪魔に堕ちる。
その悪魔が何の罪業で堕ちたのかは、堕ちた領地で分かる。
何にせよ、行ってみれば分かる事だ。
私たちはクリムゾンにコンテナハウスに車輪をつけたようなもので出発した。
なにせお金はこの町では使いきれないほどあったので改造したのだ。
例の騒ぎの他、後のレベル上げでシャレにならないほど財貨は手に入れたのだ。
進む速度は、クリムゾンに合わせて早い。通常の3倍と行った所か。
………4日ぐらいで着くかな?
ちなみにコンテナハウスは赤と金に塗っておりとても派手だ。
道を行く皆さんが皆さん、なにがしかの反応をしてくれる。
乗り心地はお金をかけただけあってとってもいいんだけど、少し恥ずかしい。
イザリヤは(母親の制止を振り切って)駆け寄ってきた子供に飴を与えたりして余裕だけど。私もついついカップケーキとか差し出してしまったけど。
うーん、現地に着いたらクリムゾンとコンテナハウス、どう隠そうか。
【語り手:イザリヤ】
馬車?の見た目と性能のせいか、目的地には3日でたどり着いたな。
まあ快適な旅だったぞ。
馬車の隠し場所をレイズエルが心配していたが郊外の森で構わんだろう。
見つけたところでどうこうしようという奴が現れるかの方が疑問だ。
それより今は、町はずれの丘から漂って来る、濃密な瘴気の方が問題だ。
この距離なら分かる。
「嫉妬」を司るレヴィアタン領民の瘴気だ。
「レイズエル、行ってみよう。まともな召喚で呼び出されたのか「堕天の原因」になった原因があそこにあるかでないと、竜巻で人間を害すのは魔界法違反だ」
悪魔は召喚されたか、その人間に危害を加えられたか、人間に依頼されたか出ない限りは人間に危害を加えられない。
その例外が「堕天の原因」になった原因に対する攻撃だ。
わたしたちも法は犯してないはずだ。
ちなみにわたしはわたしへの「殺気」を放って来た段階で、わたしへの攻撃とみなしているがな。
魔界法のグレーゾーンと言えるだろう。
町はずれの丘に辿り着いた時、わたしたちが見たのは意外な光景だった。
丘の草原で、元凶と思しき悪魔が瀕死で倒れ込んでいたのである。
慌ててレイズエルが治癒魔法をかけ、喋れるようにはなったものの………
いまいち事情が聞きにくいな。
レイズエル、パス!
【語り手:レイズエル】
………なるほど、そうなのね。
海魔(レヴィアタン領民の事)の少女を『絶対能力:マインドリーディング』で精神的に丸裸にした私は、少女に安心感を与える波動を発しながら問いかける。
「私はレイズエル、彼女はイザリヤ。故あってこんな所にいるけれど、2人共魔界のお偉いさんよ。あなたは「堕天の原因」を解消するためにここにいるのね」
「はい………彼に振り向いてもらいたくて」
「それでこの丘から毎日竜巻を放っているのか?逆効果じゃないのか?」
「私が大人の姿を保っていられるのは竜巻を放っている間だけなんです………」
「そうなのか………」
「はい、一緒に走って、寝転んで笑い合ったこの丘で、もう一度彼に会いたい。別々に旅に出たけど成長した私の姿ぐらいわかるはず」
「でも彼は外の町から連れて帰って来た女に夢中………気付いてくれないのね。それで嫉妬心から海魔にまで堕ちた………かわいそうに」
「レイズエル、その男の襟首ひっつかんでここにつれてこよう」
その途端ビクンとした少女―――マルシルの顔を覗き込む。
「竜巻は放たずにそばに置く形で大人の姿を取って構えていなさい。イザリヤは言い出したら聞かないから」
「こ、心の準備がぁ………」
イザリヤに男の外見、と念話を通じて送る。現在の居場所も感知したものを送る。
イザリヤは間髪おかずに損傷の目立つ町の方へ飛び立って行った。
しばらくして、イザリヤは男と女を一人づつ連れてきた。
女の方が「他の町から連れて来た女」なのはマルシルの記憶を読んでいる私には分かる………マルシルが青髪を肩まで切り揃えた美女なのに対し、その女―――モモはフワフワの羊のようなピンクの髪で可愛い顔立ちだった。
男の方は、人間ならかなりの色男の分類に入るだろう、黒髪の青年だった。
「い、いきなりかどわかすとはどういうことだ!お前たちは誰なんだ!」
「私とあんたをかどわかした子はどうでもいいのよ。この女性に見覚えは」
は?といってマルシルを見る男―――リック
あ、しまった、堕天時は全能力が10倍になるから、魅力も上がりすぎてるか!
そっとマルシルの魅力度を落としてやる。
驚愕するリック。
「その可愛げのない顔、まさかマルシルか!?2度と会わないと思ってたのに!」
マルシルの顔が凍り付く。
「女はさぁ、可愛げが全てだよ。家庭的で男には全奉仕!モモちゃんみたいにな!」
「やだあ、あなたったらぁ」
モモと呼ばれた女のセリフに、マルシルがぎこちなく言葉を発した。
「………あなた?」
「俺たち、明日結婚なんだ」
マルシルから衝撃波が飛んで(私たちにしてみればそよ風だが)モモの胸を貫く。
ぽっかりと胴に穴の開いた彼女は明らかに即死だった。
【語り手:イザリヤ】
リックはしばらく事態が理解できてないようだった。
死んだモモの腕を取り懸命に―――泣きそうにか?呼びかけている。
まぁ、滑稽とは言ってやるまいが、早く事態を認識した方がいいと思うぞ。
「リック、私との思い出を忘れたの?この丘で………」
「あああああああ!このクソ女、モモちゃんをモモちゃんを返せ!俺のお嫁さん!」
「………忘れてないわよね、結婚しようって言った事」
「はぁ!?そんなの旅に出たんで白紙だろ白紙!俺は旅先でお前なんか全然趣味じゃない事に気付いたんだよ!モモちゃんを返せ!」
マルシルは何かが突き抜けて、泣きながら笑っていた。
吹っ切れたか。
「この男は命尽きるまで奴隷として魔界に連れて行きます。法の範囲内ですよね?」
「この場合、全く問題ないな(ね)」
悪魔に変じさせて寿命を延ばした上で、同じことをやる奴なんかよりよほど良心的ではないだろうか?
「ではお二人とも、私は先に魔界に帰ります。魔界でお会いした時は、よしなに」
今の私たちには使用不可な「魔界帰還陣」が地面に描かれてゆく。
抵抗するリックを鉤爪で掴むと、マルシルはリックを引きずり込む形で陣の中に消えていった。
ひと段落したな。
「で、レイズエル、隠して置いたクリムゾンを出して来るにしてもだ。ここのギルドに挨拶するのか?町はこんなだぞ」
双眼鏡で町を見ていたレイズエルが振り返る。
「竜巻、ギルドにも当たってるみたい………もう解決したって報告しないとややこしいことになりそうだよ。なんて説明しようね」
「悪魔が生贄を使って大きな竜巻を繰り出そうとしていたところを撃破、でいいだろう。難しく考えるな、そのうち頭から火を噴くぞ」
「むー。まあ………それでいいと思うけど、根掘り葉掘り聞かれるよ?今回はそれに答えるの任せていいの?」
「む………言い出した以上引き受けてやろう」
その後、ギルドに行ったがギルド長が無事だったおかげで混乱は避けられたようだった。話は長かったが。
この町、クレスは今から復興に入るそうだ。
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