第13話 むくろの都市:ブレウラーケ④

【語り手:レイズエル】


「『中級:無属性魔法:フライト(飛行)』『上級:無属性魔法:物理個人結界』『上級:無属性魔法:魔法個人結界』まずは定番だね」

 慌て気味に私は機動力と防御力を確保。

 『教え』でも対応できるけど魔法の方が私はやりやすい。

 さて、この2体の骨巨人、どうやって片付けようか?

 うん、骨の髄まで焼いて脆くして崩してしまおう。

 MPを結構使うけど、一撃でカタがつくはずだ。


「最上級:火属性:ニュークリアフレイム(核撃) 範囲×2(1体ずつに)!!」

 ボロボロボロ………と何もできずに業火に崩れ去るボーンジャイアントたち。

「次はその魔法陣を崩さないと危ないかな?―――『上級:地属性魔法:クラック(地割れ)』」

 地面が割れ、魔法陣は無残な状態になった。

 ちなみに魔法陣の上の黒ローブたちは、殺さないよう調節した。

 私の戒律「攻撃されない限り攻撃してはいけない」を守ったのだ。

 でも、次で終わりかな?

「『中級:無属性魔法:挑発 範囲×5』」

 引っかかった黒ローブたち(親玉も含めて)は、『挑発』に引き起こされた怒りで、私に攻撃魔法を放って来た。

 私は魔法個人結界でそれを容易く弾く。

 世界上限の精神力を持つ私の結界を貫通できるのは、同格の者だけだ。

 そして当然黒ローブたちは、同格ではない。

 それはさておき、これで私は「攻撃された」よね?

「戒律の抜け穴で悪いけど………『最上級:無属性魔法:デス(一撃死)』」

 眼下で黒ローブが一斉に地に倒れ伏した。

 完全に絶命していると見ればわかる。

 ちなみに今のレベルではボーンジャイアント共々強敵扱いだったらしく、冒険者タグがレベルアップを示し輝いた。20レベルアップ。

 (レイズエル:LV35 HP1750、MP1750)


【語り手:イザリヤ】


 短剣は確実にわたしの胸に突き刺さった。

 心臓のある位置に。


 わたしはグルンと体を回して、短剣が投じられた方向に向き直った。

「心臓を貫いたはずだけど、ずいぶんとタフだねぇ?」

 ぱちん、という音と共に部屋に光が戻る。

 わたしは平気だが、この声の主は光があった方がいいようだ。

 まあどっちでもわたしは構わない

 振り向いた私と正対するのはエトナから聞いた「奴」そのものだった。

「殺気を出さないで攻撃できるとは、なかなかの使い手だな」

 ………ところで私は目がいい。言うまでもなく超人的にだ。

 「奴」のマントは、何かの術で縮小された生首を、ビーズのようにつなげたものだった。何故か腐らずに「奴」のマントの一部になっている。

 腐るかわり乾ききっているようで、要はミイラだ。

 ジーンたちを見分けるのは無理だな。

「だが残念だな、私の心臓はここにはないんだ」

 心臓への一撃で、わたしはヴァンパイアに戻っていた。

「へーえ、面白い」

「お前のマントの方が面白いだろう?」

「………すごいね、初見で見破ったのは君が初めてだよ」

 にたりと笑う少年。

「当然君にも仲間に入ってもらうけど。あっ、自己紹介がまだだったね、僕はサイ」

「………ご丁寧にどうも。わたしはイザリヤだ」

 わたしは「超剣」を亜空間収納に放り込み、ナイフを2本取り出す。

 この方がサイとやらの相手に向いていると判断したのだ。


 戦闘は唐突に始まった。

 サイが先手、スピードで翻弄しようとしてくる。

 だが私の敏捷力は1000、世界上限だ。動体視力もしかり。

 サイの短剣での畳みかけを全て受け流して、足払いで体勢を崩させる。

 そのまま神速の突きで両手両足の腱を断った。

「………一体何が………?なっ!手足が!………僕をどうする気?」

「何をしようとしたのか、この国の司法に吐いてもらう事になるだろうな」

「………それは困るなあ、裏切り者は死ぬより酷い目に合うんだ」

「諦めるんだな」

 そう言ってわたしはサイの口に、亜空間収納に入れていた小さい頃の服を取り出し裂いて丸め、突っ込む。

 舌を噛まれたりしては困るからな。

 そしてサイを目の端には入れつつ放置して、アーケの居る祭壇に戻った。

 ダークマターを、今度こそアーケから取り出す。

 そして握りつぶす―――と見せかけてわたしのダークマターに吸収させる。

 サイの呻きが聞こえる。ダークマターは普通破壊出来ないからだろう。

「悪徳の塊だ。誰に渡ってもいい事はないだろうからな」

 まあその通りだろう。わたしもいい事に使う保証はないからな。

 とりあえず闇の成分を取り込んで私は気分がいい。

 『定命回帰』をかけ直し、アーケは肩に担ぎ、サイは髪を掴み引きずって行った。

 もごもごという抗議?悲鳴?もちろん無視だ。

 ちなみにサイを倒したと認定されたらしく、冒険者タグがレベルアップを示し輝いた。20レベルアップ。レベル的にはかなり格上だったんだな。

 (イザリヤ:LV35 HP1750、MP1750)


【語り手:レイズエル】


 私が黒ローブたちを倒した後、2方向から動きがあった。

 一つは地下へ続く階段から、イザリヤが上がってくるのであろう気配。

 もう一つは後方からやってくる人間の兵士たちの気配だ。


 そこから後は兵士たちが担当してくれた。

 イザリヤが引きずってきた聞くからに変態な少年も国軍に引き取ってもらう。

 イザリヤがマントの説明をしたら、皆さんドン引きでした。

 私もドン引き。人間にも悪趣味なのはいるからなぁ。

 ジーンたちの頭は、見つけてもこれじゃ役に立たないだろう。

 だから屋敷に戻ったらまた儀式魔術だね。

 兵士たちは私たちを絶賛し、アーケの屋敷に帰る事を許可してくれた。

 もちろん後日の正式な聞き取り調査は約束させられたが。

 とりあえず、エトナさんを安心させ、ジーンたちを蘇生させないと。

 あ、国軍にはエトナさんとジーンたちは重傷だと話してある。

 もう治したことにしてるから、帰ったらすぐ蘇生を儀式魔術にして行使しないと。

 MPが辛い………イザリヤから『神聖魔法:トランスファー・メンタルパワー(精神力融通)』で融通してもらおう。


 そしてジーン、ゾンバ、アミルの蘇生に成功した。

 事情を聞いてみると、ほとんど抵抗の余地なく心臓を穿たれ、首をもがれた様子。

 重症だったことにしてあるから、蘇生の秘密を守ってね、と言い聞かせた所、もちろんです、命の恩人なのですから、と言ってくれた。

 彼らの性根がいいことは知っているし………誓いまでは強制しなくていいか。


 翌日、ブレウラーケの領主に事情を話しに行った私たち。

 親玉が話したラクーンデス王国の秘密組織に関してと、エトナさん達が首をもがれていた事は、サイを拷問でもすれば手に入るだろうから、昨日は耳が多すぎたので話しませんでしたが………と全部話す事にした。人払いしてもらってだ。

「まさかそのような事になっていようとは………これは王宮に知らせねばなるまい」

「私たちは自由にしていていいですか?」

「冒険者に強制することはできぬ。これは各国の暗黙の了解だ。冒険者ギルドでしかるべき報酬を受け取った後、自由にするがいい。我からの報酬もそこに含めてある」

 なぜ冒険者に強制する事ができないのか?

 強制を厭う冒険者は、場合によっては国を捨て所属を移してしまうからだ。

 下位の冒険者ならともかく、ミスリル、オリハルコンの冒険者は戦場でも決して侮っていい存在ではない。

 とにかく面倒な報告を終わらせた私たちは、冒険者ギルドに向かう事にした。


【語り手:イザリヤ】

 

 領主館からそれなりに歩いたところに冒険者ギルドはある。

 お上から干渉をされにくくするためか?

 あるいは衛兵と喧嘩させないためか。

 領主とギルドマスター、両者の頭上で決められた配置なんだろうな、とどうでもいいと思いつつもなんとなく思う。

 さて、話を早く持って行こう。

 報酬は10000金貨だった。うむ、1億とは恐れ入った。

 それとランクアップ。オリハルコンランクに一気に昇格した。

 これはゾンビの軍団を薙ぎ払った事と、レイズエルが倒したボーンジャイアントが遠目からでも視認されていたことが大きい。

 金はレイズエルと折半して、亜空間収納に突っ込む。

「仕事はあるなら、明日にでも受けに来るが、どうか?」

「はっ、はい!緊急の案件がありますので………今ではいけませんか?」

((レイズエル?))

((私はいいよ))

 軽い念話での確認、わたしは受付嬢に軽くうなずいてみせた。

「ありがとうございます!まずはこれなんですけど………」

 まずは?

 この国、実はいろいろ抱え込んでいるのか?


 休みを挟みながらだが、わたしとレイズエルは、高難度の依頼を続けて受けた。

 邪悪な巨人の根城の殲滅から、高位の魔女の排除、ギガントサラマンダーという攻城兵器のような巨大なモンスター。

 トドメに人間に敵対的な竜の里の殲滅だ。


 変わった事と言えば、わたしの武具が全部オリハルコンになった事。

 それにレベルが劇的に上がった事だ。40レベルも上がったのである。

 レイズエル・イザリヤHP/MP 3750/3750。

 大抵の事には対処できるHP/MPになったと思う。

 周囲はドン引きだったが、わたしたちは満足だ。


 これでわたしたちが本当にやりたいことができるだろう。

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