第12話 むくろの都市:ブレウラーケ③

【語り手:レイズエル】


 私たちはとりあえずエトナさんが落ち着いたのを確認して、家の外に出る。

 蘇生魔法について奇跡だと呟いていたが、その辺はまた後で聞こう。


 私はとりあえず玄関先で『ロケーションそうさくのまじゅつ』を使った。

「それで?『ロケーション』の結果はどうだ?」

「それがね………ブレウラーケの地下墳墓カタコンベの一番奥なの」

「は………?前にジーンたちから聞いたが、そこはアンデッドが発生しても出てこないように、この町で最も強固な門があるんじゃなかったか?退治のために詰めてる衛兵も精鋭と聞くし………なぜそんなところに」

―――さらったのか、といいたいのだろう。

「イザリヤ、仮にもあなたもアンデッドなら、感じない?」

 む?と意識を集中し始めるイザリヤ―――結果は。

「………地下墳墓らしきあたりに無数のアンデッドの気配を感じる。ゾンビだな。門は複数あるはずだがこの距離まで気配が近づいているようでは途中の門はもう破られているだろう、最後の扉を残すのみだ」

「でしょう?アーケの死の神レイルロードの巫女としての力にポイントがありそうだね。最後の扉に応援に行くよ。というか臭いのを蹴散らしにいくよ!」

「いいだろう!」


 最後の門の前では、及び腰の兵士たちがずらっと並んでいた。

 門の上には火矢を放つ弓兵。

 地上部隊の装備はアンデッドに効果のあるこん棒だ。

 それでも及び腰は当然、町の外周にずらりとうずもれたミイラまでカタカタ動いているのだから。しかしそんな事は関係ない。

 指揮官と思しき男性に、門の中に入れろと言ったら拒否された。

 まあ、あたりまえである。

 だが、私たちがミスリルプレートを見せると少し態度が変わった。

「入ってもらってもいいですけど、命の保証はありませんよ?」

 イザリヤは亜空間収納から超剣を取り出して。

「命の保証ならここにあるぞ?」

 と言い放った。


【語り手:イザリヤ】


 僅かに開いた大門を、レイズエルとくぐりぬけ、門の中に。

 アンデットは思った以上に近くまで迫っていた。

 歩兵が隊列を組むように、15列ぐらいになって、門へ向かっている。

 派手に一撃行くか。

 というか今しか見せ場がない。

 大門の上の連中が派手に噂してくれるようにと、ランクアップ申請を通すためのアピールと、純粋に実力のアピールもしておかなければならないからな。

 私は超剣を構える。

「戦技:薙ぎ払い・超!!!」

 敵の戦列のうち4列が派手にバラバラとなる。

 大門の上の連中が騒いでいるな。

 奇跡だとか救世主だとか。

 だが、それはレイズエルの術を見てからの方がいいかもしれんぞ?


【語り手:レイズエル】


 先手をとったイザリヤは、次はおまえだと視線を送って来る。

 ん~。どうしようかな?

 血の麦の備蓄は十分だだな………

 魔法の方を使うといざという時にMP切れはいやだし。

 ここは血の麦でエネルギー補充できるヴァンパイアの『教え(ヴァンパイアの特殊能力だが魔法のように習得する)』でいこう。

 となると………あれしかないか。

「『『教え:血の魔術:呪いの業炎 範囲×MAX(10)』!!」

 呪いの炎の業火(範囲MAX)は敵5列を焼き尽くした。


 倒した分だけ前進すると『ロケーション』の効果の感覚が強まってきた。

「イザリヤ、ゾンビの戦列の奥の方にアーケちゃんがいる」

「だがゾンビの大群の術者の気配も、当然かもしれないがそちらからのようだが」

「でも少し離れてる。イザリヤも『ロケーション』して。アーケちゃんは任せる」

「なら、術者は任せるぞ」

「OK」


 もう一度2人で技と術を放ったら、ゾンビはほぼ全滅した。

「なん、なん、なんじゃと!この儂のゾンビが!」

 奥には大きな魔法陣の主要部に、死霊術師(多分)が5人配置されたものがあり、術をしているようだった。

 そう、あくまでコントロール。発動は別の所からしている。

 おそらく―――

「死の神レイルロードの巫女であるアーケちゃんが、術の源である可能性が高いな」

「私もそう思う。『ロケーション』の反応はあそこからだよね」

 魔法陣の奥に地下に続いてそうな階段がある、反応はそこからだ。

「そっちはイザリヤ、任せた。私はこの場を制圧する」


「おい!貴様ら儂を無視とはいい度胸―――」

「無視はしてないよ。私が相手してあげるから」

 私はにっこりと極上の笑みを黒ローブの男たちに向けた。

 それはもう、たっぷりと。


【語り手:イザリヤ】


 レイズエルが敵の全員に微笑みかけた。

 あいつの微笑みは―――特に相手をオトすことを意図したモノは―――凶器だ。

 親玉も部下も見惚れてポカンとしてしまっている。

 今回レイズエルが「微笑んだ」のは、わたしを奴らの背後に行かせるためだ。

 わたしは連中をすり抜けて、地下へ続く階段へ飛び込んだ。


 階段は、途中で折れ曲がったりしたものの一直線に地下深くへ続いていく。

 光源は無かったが、わたしは闇視できるので問題ない。

 ………と、底が見えてきた。

 『ロケーション』の反応はもうすぐそこだ。

 どん詰まりのとびらをあけると、そこはそこそこ広いドーム状の部屋だ。

 中央に祭壇があり、アーケがそこに上半身裸で横たわっている。

 眉をひそめ、上半身裸な理由を考えたが、すぐにわかった。

 闇の結晶―――ダークマターがその胸に埋まっていたのだ。


 ダークマターとは。

 性能に差はあるが、最高品質のものは簡単に言えば持つだけで死霊術の奥義が使え、無尽蔵にアンデットを生み出す事ができるものだ。

 ただ、誰でもいいという訳ではない。

 今回はアーケがその適合者で、さっきの魔法陣の親玉はアーケから強引に力を吸い上げているのだろう。

 だからあの程度の騒動で済んだのだ。


 わたしはアーケに近寄り、無造作にダークマターに手を触れる。

 その途端、とアーケの胸に埋まったダークマターが共鳴を始める………

 

 共鳴の結果………私のダークマターが質で勝ったようだ。

 長い年月、私の体の中で練られてきたダークマターなので当然だろう。

 アーケのダークマターの支配権を奪い取った私は、アーケのダークマターに分離するよう指示を出す。

 ごぷり、と、ダークマターがアーケから分離しかかった時、殺気もなく短剣が私の胸に刺さった。


【語り手:レイズエル】


 微笑みの効果がなくなる前にまずは1手。

「上級:火属性:ファイアストーム:アレンジ・円形」

 魔法陣全体に炎の嵐が吹き荒れる。

 ただ、中級魔法なので死にはしないはず………と思っていたら。

 魔法陣から伸びた骨の手が彼らを包み込み、守っていた。


 魅了状態から何とか復帰したらしい親玉が、骨の手の中から何か喚いている。

 私を指さして

「ターゲットネーム「黒の堕天使」がなぜこんな所にいる?!」

「………なにそれ?詳しく教えてよ『邪眼:恐怖』」

 『邪眼』は強力すぎたかもしれない、親玉は小便を漏らしてしまった。

「は、話す!話すから止めてくれ!」

 かすれた声で乞われたので、威力を限界まで緩めてやる。

「さあ、話して」

「はい………」


 親玉の話したことはこうだった。

 自分たちは至高神カリオステを奉ずるラクーンデス王国、色彩花刃・色(黒赤白黄)と呼ばれる各種工作員の一員であること。

 自分たちは色彩花刃・黒(アンデットをあやつる術者の集まり)のメンバー全員だ。

 「赤」は一人一人が高能力者。5人いる。

 「赤」の一人が階段の下の地下に待機している。

 「白」は高位の神聖魔法使いの集まり。

 私たちのいた村を襲ったのはこいつらの一部らしい。

 「黄」には情報収集に長けた異能者が何名か在籍している。

 私が蘇生魔法を使うのを感知したのもそいつらだったとか。


 意外と大きな情報だ………まてよ、嫌な予感がする。

「あんたたち、私たちの居なくなった村に何かしてないでしょうね?」

「………情報収集が行われたとは聞いておる」

 今更帰る気は無いが、嫌な気分にはさせてくれる。

「そう、あんた達に容赦する気は最初からなかったけど、さらに積極的に殺意を与えてくれてありがとう」


「え、ええい。ワシとてやられる気はないぞ!皆、魔法陣の力をすべて使ってボーンジャイアントを召喚するのだ!」

「「「「は、はい!」」」」

 邪魔してやろうと思ったのだが、予想外に魔法陣の発動は早かった。

 多分私との会話の間、魔力をため込んでいたんだろう。

 この魔法陣、早めに崩さないとまずいかも。

 目の前に5階建ての建物ぐらいの巨大なスケルトンがわいて出たからだ。

 それも、2体。

 仕方ない、破壊しましょうか!

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