第7話 ブレウラーケへの旅路①
2人は荷物の入っていない幌馬車を1つ与えられて、ガタゴトと揺られていた。
暇つぶしになるものも持っていないので、ひたすら景色を見ていたのだが。
唐突にイザリヤが、レイズエルにボソッと尋ねた。
「なあレイ、啓示はまだか?」
レイズエルは超常の存在から時折、現状の打開策になる啓示を受けることがある。
レイズエル自身超常の存在だがそれは置いておいて。
イザリヤはそれがまだ来ないかと聞いているのだ。
「ああ………そろそろ下りてくるかもね、丁度いいからやってみる?」
「えらく軽いな、おい。まあいい、私が聞き取り役になればいいんだな?」
「うん、お願い。じゃあ瞑想に入るからよろしく」
レイズエルは座禅を組むと、即瞑想に入る。慣れである。
ほどなくしてレイズエルの体が黄金色に輝き、唇から言葉が漏れ出す。
<汝らの願いを叶えるには、神の持つ聖器を集めよ>
この状況に慣れているイザリヤは臆さずに質問する。
「方法は?」
<神を召喚せよ>
「召喚するための手段は?」
<セタンマリー王国の第2王女がカギである>
「召喚して呼びかければ聖器が貰えるんだな?」
<然り>
「全ての聖器を集めれば帰れるんだな?」
<然り………啓示は以上である>
「んん………」
レイズエルが目を覚ます。
「イザリヤ、どうだった?」
「神の持つ聖器というものを集めなければいけないようだ。神を召喚しないといけないそうだが、方法はセタンマリー王国の第2王女が持っているという。召喚して呼びかければ聖器をよこすらしい。神は8柱だから8つだな」
「なるほど………いつもより厄介な条件だね」
「そうなのか?」
「いつもは○○年まで生きろとか、○○と出会えとかそんなのだよ。今回は………まずは王族に会える身分を取得しないといけないね」
「冒険者の最上位を目指してみるか?」
「そうだね、て、いうかそれしか可能性がないだろうともいう」
「そうだな、わかった」
「今は旅を楽しもうよ」
「………お前は気楽だな」
「こういう事態に慣れてるからね」
♦♦♦
城塞と石材の都市:クレスに到着した。
町自体が岩で覆われた要塞のようなところで、全てが岩で覆われている。
そして、その岩を産出しているのだろう巨大な岩山。
この世界にも火薬があるらしく、時折発破の音が聞こえてきた。
同乗させてもらっている隊商は、ここで良質の岩石を仕入れるらしく、レイズエルとイザリヤが乗ってきた荷車は埋まってしまった。
隊商のリーダーは、他の奴らとすし詰めでよかったらこの先も乗って行っていいと 言ってくれたのだが、レイズエルとイザリヤはここで隊商と別れることにする。
レイズエルが『勘』でそのほうがいいと判断したからだ。
レイズエルの『勘』が超常的なものであることを知っているイザリヤは反対しなかった。
そういうことなので、隊商の人たちに礼を言って町の入口で別れた。
仲良くなった人たちもいたので、やや後ろ髪を引かれながら、手を振って別れる。
「どこへ行く?」
「冒険者ギルドは、飛び級制度があるのは大きな支部だけだから、行くのはブレウラーケに行ってからの方がいいと思う。だからまずは武具屋かな?それと私たちはこの世界の事を知らなさすぎる。図書館があれば図書館に行こう。あとは旅の荷物を買いにいこう」
「そうだな、わかった」
2人は入口の衛視にお勧めの店を聞いた。図書館の有無もだ。
衛視は2人を見てしばらくぼうっとしていたが、急かすと慌てて答えてくれた。
武具屋はこんな町だから普通にある。図書館も小さいけれどあるそうだ。
場所を教えて貰えた。
こんな女の子が武具屋?というのは後から来たらしく、視線を背中に感じる。
まああの態度だと、変な所は教えられてないだろう。
2人はまず武具屋に行くことにした。
さすが岩の採掘が主な産業。
筋骨たくましい男性が通りには目立つ。
武装している人も多くおり、城塞都市でもある事を実感させてくれた。
そして城塞の町で、女神レテンマを奉ずるセタンマリー王国の武具屋だけあり、品質のいいものが多種類揃っている店がすぐ見つかった。
イザリヤは、真っ先にこの店で最も大きな剣に向かった。
クレイモアと呼ばれる最大190cmある剣である。
一番長いのを手に取ってぶんぶんと振り回す姿に、店主が顎の落ちそうな顔をしている。見た目は14歳の少女なのだから当然だろう。
レイズエルは額に手を当てている。
「店主、これ(クレイモア)が気に入った。これと、そこのショートソードを貰おう」
「あ………え………はい。金貨15枚です」
「わかった、それと、私の体に合うようにプレートメイルを調節してくれ」
「プレートメイル!だ、大丈夫なのかい?」
「うむ、問題ない」
「わ、分かりました」
ちなみにレイズエルはもう一人の―――イザリヤの方を見て驚愕している―――従業員にショートソードを渡し、レザーアーマーのサイズ調節を頼んだ。
慌てて承りました、という従業員。店主の方を気の毒そうに見ている。
(まあ、イザリヤの生者として成長した姿は、本来クレイモアの二刀流だからねえ)
などと思いつつ、店主とイザリヤをマッタリ見ているレイズエルである。
武具屋での購入が終わって―――2人は今度は旅の荷物を購入しに行く。
旅人用セットというものがあったので、それを2人分購入する。
内容は水袋、毛布、たいまつ6本、火口箱、ロープ10m、ナイフ。
本当は背負い袋もあったのだが、亜空間収納があるので店主に返した。
あとは保存食だ。
堅く焼いたパン、蜂蜜、干し肉、塩、乾燥野菜、などなど。
「こんなものか?」
「(服は『クリエイトマテリアル・ラージ』で作れるけど………)」
「(ああ、参考にするのに服屋をのぞいた方がいいか)」
「(うん)」
2人は店主に服屋の集まる界隈がどこか聞いて、そちらに足を向ける。
やがて辿り着いた市場は、こういう町だからか、女性ものが少ない。
男物も妙にいかついものが多かった。
仕方ないので普通の服を、と田舎者なのでと言い訳して店員に聞いてみる。
出て来たのは普通に町娘が着そうなものであまり参考にはならない。
冒険者志望なのだと言うと、ようやくシンプルな動きやすそうな服が出て来た。
こういう服もあるのだと2人でホッとする。
とりあえず役に立つこともあるだろうと、サイズの合う服を購入しておく。
「次は、どこに行く?」
「もう夕方だし宿屋でしょう。図書館にはあさイチで行こう」
「わかった」
レイズエルとイザリヤは表通りの、活気のある1階が食事処の宿屋を選んだ。
容貌のせいで視線が大量に集まっているが、ここまでの美貌だと声をかけるどころか近寄りがたい。2人はすんなりと受付をすませて2階に行った。
2人が部屋に引っ込んだあと、ちょっとした騒ぎになった。
「おい、見たか!あの2人。特に黒髪の方!女神の降臨か?!」
「見たかも何も、見たくなくても視線が外せねぇよ!金髪の方もどっかのお姫さんみたいだったぜ!」
「後で下りてくるかもしれねぇぞ」
「どうしよう、話しかけてみようかな?!」
その騒は部屋まで聞こえていたが、聞いても2人は平然としている。
慣れているのだ。
「あまり声をかけてきてほしくはないな」
「私もだけど、無駄だと思う」
下に下りていったら案の定複数のお誘い―――決死の覚悟と顔に書いてあった―――があったので、全員での飲み会を提案し、受け入れられた。
宴は、遅い時間まで続き、全員を酔いつぶしたレイズエルとイザリヤは、満足して部屋に帰った。
不死者でもある2人はウワバミであった。
30人近くを酔いつぶしたのにケロッとしている。
次の日の早朝、2人は図書館に向かうべく宿から出た。
昨日の連中は、何とか解散してそれぞれ家路についたようであった。
まだ机に突っ伏して寝ている者もいるにはいるが、そっとしておく。
宿は迷惑そうであったが。
石造りの静かで意外と大きなな建物が、目指す図書館だった。
図書館の利用は自由で、利用料や身分証は必要ない。
「まずは魔法について調べよう。復活魔法とかと同じような地雷があったら困る」
「そうだな、『クリエイト』系はどうも普及してないようだし………」
レイズエルとイザリヤは、手分けして本を探し始めた。
「どうだ?私は生活魔法があまり普及してないように思うんだが」
「うん………『キュア』とかは普及してるんだけど他のは珍しい魔法扱いだね。特に『コピー』とか『クリエイト』系は人前で使うとまずいような気がするね」
「その他は………『復活』『アライヴ』は使い手が恐ろしく少ないといったところか。ほとんどは国家に所属するとあるな」
「使い手を巡って小規模ながら戦争が起きた記録があるね………はぁ」
他には、儀式魔法や神聖魔法も使い手が少ないようだ。
これも国家が囲い込んでいるらしい。
「儀式魔法は時間がかかるからあまり使わないけど、神聖魔法もかぁ………」
「普通の魔法は冒険者ギルドで引く手あまたのようだがな」
「神聖魔法の代わりにふだんは治癒魔法を使うしかないね、手に負えないアンデッドとか出ない限りは、だけど」
その方がいい、とイザリヤが差し出してきた本を見てレイズエルはうんざりする。
この世界では、国家ごとに違う神を祀り、国王は総司祭を兼ねていると書かれているからだ。大きな街には必ず神殿がある。もちろんこのクレスにも。
ライク村のような辺境はともかく、基本信仰心に篤いのがこの世界の町であった。
それはいいにしても、神を召喚するには各国を回っていちいち王族の協力を得て召喚しなければならない可能性が高い。
この世界の国家は8つもあるとこの図書館で判明している。
まだそうと決まった訳ではないが、全ての国の王族と交渉するなど、うんざりする話であった。
ライク村に兵を送り込んできた国もあるとなればなおさらだ。
2人は、図書館で頭痛の種を抱え込んだのだった。
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