第8話 ブレウラーケへの旅路②

 夕方、図書館の閉館まで図書館にいたレイズエルとイザリヤは、その足で町の大門に向かった。

 旅の足―――馬車を得るためだ。

 話し合って、自分たちで買おうという事になったのだ。

 主に朝日でダメージを受けるのを防ぎたいというのがある。

 『教え』で防ぐ方法があるが、『教え』だけではいろいろと問題もあるのだ。

 なので、遮光性に優れたいい馬車が必要だった。

 夜と昼に進んで、明け方休むのだ。


 馬車店で店長に相談した結果、金貨200枚のしっかりした幌馬車で荷台の前後にカーテンがついている物を勧められた。

 カーテンは遮光がしっかりしているものに取り換えてもらう。

 夜明けのわずかな時間、イザリヤはヴァンパイアに戻るので、光は凶器なのだ。

 いつも早く起きて『定命回帰』の術をかけ直しているのであくまで念のためだが。

 それと金額は2頭の馬も含めての値段だ、多分良心的な値段だと思う。

 店主は2人に鼻の下を伸ばしていたので甘くなったのかもしれない。

 

 2人は幌馬車を気に入ったようだ。

「結構大きいな。2人で旅するには十分じゃないか」

「イザリヤ御者できる?ヴァンパイアは動物に嫌われるから………」

「一時的に戻る明け方以外なら大丈夫だ」

「確かにそうだね。じゃあ御者は交代でやれるね」

「最近扱ってなかったから、ちょっと不安だがな」

「そこは頑張って」


 荷物は全部亜空間収納に入れてるので、武装だけ身につけて馬車に乗る。

 店長に料金を支払って、馬をつないでもらい、そのままクレスを発つ事にした。

「お嬢さんたち!夜の街道を進むのは危険ですよ」

 そう言われても2人共夜の方が慣れ親しんでいる。

「大丈夫!腕は立つので」

「はあ………」

 何とも言えない顔をした店主に見送られて出発したが、門番にも同じことを言われたので、一応門番に街道の情報を尋ねてみる。

 すると、護衛の少ない馬車を狙って襲って来る盗賊団が出没しているとの事。

 レイズエルとイザリヤも当てはまる。

 ちなみに、宿屋での騒動を繰り返したくなかったので、レイズエルはイザリヤと同じレベルにまで魅力度を落としている。

 イザリヤと同じでも十分お姫様のような美貌だが、話しかけた相手が見とれて会話にならないという事はなくなったのでそれでよしとする。

「君たちも気をつけなさい。一応王都から討伐隊は出ているけど、先日の事らしいから。今から出発じゃ討伐隊は間に合わないだろうからね」

「ありがとうございます。それじゃ行こうか、イザリヤ」

「そうだな、ありがとうございました」

 門番は心配そうに2人を見送るのだった。


 じゃんけんで御者を決め、夜になるまではイザリヤが御者をする。

 レイズエルもイザリヤも、闇視ができるので、どれだけ夜が更けようとも進める。

 真夜中まで進んでから休もうという事になった。


 そしてちょうど真夜中ごろ。

「きゃああああ!!」

 という女性の叫び声が聞こえてきた。

 剣を交えるような音が聞こえてくるが、音から察するに数名対多数だろう。

「………どうする?放置しても構わないが、近くだから私たちも見つかるか?」

「それもあるけど、助けておけって『勘』が言ってる」

「『特殊能力:危険感知』にも反応なし………決まりだな」

 レイズエルとイザリヤは幌馬車を止めて、幌馬車から飛び下り、走る。

 馬車より走った方が早いのだ。


「あそこだ!」

 見えてきた現場では、2人の女性が戦っていた。戦士が一人と神官が一人か。

 1対1なら彼女たちの方が強いのだろうが、数の暴力で押されている。

 イザリヤは、戦士の女性と戦っている―――いたぶっている連中の背後に超スピードで回り込み、クレイモアを一閃。5、6人の首が落ちた。

 レイズエルは戒律の関係で、そこまで直線的にはいけない。

 神官の娘を手籠めにしようと狙っていた連中と、神官の娘の間に入り、『下級:無属性魔法:挑発』を全方位に。

 引っかかった連中が………十二人。

 走り寄って来てレイズエルに向かって一斉に剣を突き出す。

 だが、レイズエルはもうそこにはいない。

 垂直に大ジャンプして、敵の真上に出たのだ。

 これで戒律の「相手より先に攻撃してはならない」はクリアした。


 レイズエルは空中なので動けないだろうと、盗賊の何名かが剣を突き上げてくる。

「『下級:無属性魔法:浮遊』」

 レイズエルはそれをかわして高度を上げる。

 今の盗賊たちは固まっていて、絶好の得物だ。

 レイズエルは容赦なく死をふりまいた。

「『上級:火属性魔法:呑み込む火柱』」

 固まって立っていた盗賊は、足元から吹き上がった火柱によって炭の柱になった。


 イザリヤの方も順調に盗賊が駆逐され、今最後の―――逃げようとしていた―――盗賊が一撃で首をはねられていた。

 これで、襲ってきた盗賊はすべて沈黙したことになる。

 そして、嬉しいオマケがあった。レベルが5も上がったのだ。

 これでレイズエルとイザリヤのHPとMPは850になった。

「「大丈夫か(ですか)?」」

 あまりに一方的な展開に2人の女性は呆然としていたようだが、しばらくして我に返って礼を言ってきた。

「ありがとう、わたしはエテナ。戦士だ。多勢に無勢だったので………助かった」

 エテナはブレストプレートと長剣を装備した、典型的な戦士だった。

 燃えるような赤髪をポニーテールにしているのがとても似合っている。

「私はアーケ。死の神レイルロードの巫女です」

 神官服の少女が言う。

 長い金髪と碧眼で、すこしイザリヤに似ていたが、優しそうな眼差しが違う。

 あと、かなりの巨乳だ。

 イザリヤも成長すればかなりのものなのだが。

 それはおいといて、神官服を着ており、なるほど、胸に描かれた見慣れないホーリーシンボルは死の神レイルロードのものらしい。

 頭蓋骨を象ったちょっと毒々しい意匠だ。


「どうして護衛を雇わなかった?」

「お金がないわけではなかったのだが、異教徒だからと傭兵ギルドには敬遠されてしまってな………そういうのが関係ない冒険者ギルドには、護衛に向いたパーティが今空いてないと言われて………仕方なかったんだ」

「急ぎの旅なのですか?」

 冒険者ギルドで、護衛ができるパーティを待つという選択肢もあったはずだ。

「ああ、むくろの都市・ブレウラーケで、ちょっと身分のある人と待ち合わせをな。先方を待たせるわけにもいかなくて………」

「そうか………良かったら護衛しようか?レイズエル、いいだろう?」

 レイズエルは頷く。

「(そのほうがいいと『勘』が言ってる)」

「(それは決定だな)」

「本当か?!あなた達は信じられないほど手練れだ。これほど心強い事はない。護衛料はそんなに払えないが………」

「どうせ同じ方向に行くんですから、お気になさらず」

「では………(ごそごそ)」

レイズエルとイザリヤは、エテナとアーケから10000ドルドル(金貨100枚)貰った。


「わたしはセタンマリー王国で死の神レイルロードの啓示を受けて、巫女になった数少ない例なんだそうです」

「神聖魔法は使えるんですか?」

「治癒と………レイルロード様の固有呪文を数種類だけ」

「そうなんですか………そういえば、神官さんや巫女さんに会ったら聞いてみたいことがあったんですけど」

「私なんかで良かったらできる限り答えます」

「8柱の神以外に、神は存在するのでしょうか?」

「私たちに接触してこないだけで、いると言われています。たまに啓示を受けて田舎で小さな神殿を作る方がいるとか」

「そうなんですか………」


♦♦♦


 道中は何事もなく過ぎ………むくろの都市・ブレウラーケに到着した。

「うわぁ」「おぉ………」

 2人もさすがに町の光景に絶句してしまう。

 ブレウラーケを覆う高い城壁は、すべて骸を置く場所になっていたからだ。

 しかも市街地の半分は墓地とカタコンベ(地下墓地)への入口になっている。

 戦の多いセタンマリー王国では兵士の遺体はすべてここに収められる。

「最初だとビックリするよな。護衛はここまででいいけど、時間があったら是非私たちの拠点にも顔を出してくれ。これは地図だ」

「「ありがとう」」

 エテナさんから、拠点の地図を貰って別れた2人は、ブレウラーケの大門の近くにある馬宿(馬車ごと馬を預かってくれ、世話もしてくれる。有料)に馬車を預けた。


 門番に場所を聞いて、真っ直ぐ冒険者ギルドへ行くと、かなり大きな建物だった。

 下手な貴族の屋敷など形無しだ。

 顔を見合わせて頷き合った2人は、真っ直ぐ受付を目指すのであった。

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