第6話 復活の呪文と厄介事②

 イザリヤの『魔眼:恐怖』で尋問した所、頭の痛い事実が判明した。


 彼らは傭兵で、デデイユ王国の騎士ではない。

 彼らに装備を与えた本体は、自分たちの生命反応が激減したのを察して、こちらに向かっているはずだと。

 この村を襲ったのは『復活』の呪文の使い手を探すため。

 先月、魔力反応がこの村から出たのだいう。

 呪文の使い手は子供のようなので、子供は殺すなと言われていたのだとか。


 ここまで情報が出た状態で、大人たちが子供達に心当たりがないか聞きだした。

 レイズエルとイザリヤは、素直にそれは私たちだ、と答える。

 レイズエルだけでなく、手間はかかるがイザリヤも復活の呪文は使えるのだ。

 今回の襲撃で死んだ人たちは、私たちで蘇らせる、と村人に約束した。

 村中から、この広場に死体を運んでもらうように頼む。

「さて、その前に本隊がこっちに向かっているとの事ですので、私とイザリヤはその対応に向かおうと思います。どっちからくるの?」

 捕虜にできるだけ優しく聞く。

「み、南の平原からだと思う」

「村長さん、捕虜の扱いは任せます。殺してしまいたいならそれでもいい」

「だが、感情に任せたリンチは控えてくれると嬉しい」

「わかった、みんなと相談して決めよう」

 そこでフューレイ先生が話しかけてくる。

「君たちが強いのは承知しているけど、まだ10LVだろう?本当に大丈夫かい?」

「少なくとも15LVのハーン先生より強いですよ」

「他に適任もいないでしょう?信じて任せてほしい」

「ハーンも一緒に行かせようか?」

「いえ、ハーン先生はここを守っていてください」

「そうか………悪いけど、頼んだよ」

 その他にも、様々な村人に声をかけられた。

 心配してくれる人、本隊の撃滅を願う人、家族が復活するのか心配な人と様々だが、皆、騎士を撃退した2人を信頼してくれているようだった。


 南の草原に『ウィザードアイ』という魔術の目を飛ばしていたレイズエルが「イザリヤ、本体発見。ここからだと草で見えないけど」と口にする。

「行くか。どんな様子だ?」

「隊列を組んで、ウィルオウィスプをたくさん召喚して、こちらを窺っているね」

「生き残りから強者がいるという情報を得たか。こちらから出るか?」

「そうしましょう、村を戦場にしたくないから」

 ちょっと考えてレイズエルはこそりと付け加える。

「(それに、本気でやっても目撃者が出ない方がいい)」

「(同意だな)」

「じゃあ、行ってこようか」


♦♦♦


 数分後、レイズエルとイザリヤは、草原で敵と思しき集団と相対していた。

 相手の武装は軽装。革の防具を白く染めたものを装備している。

 その他の装備も白づくめで、正直水の女神スレイネを奉ずるデデイユ王国の工作員には見えない。かの国のシンボルカラーは青だ。

 ここ、戦女神レテンマを奉ずるセタンマリー帝国とはデデイユ王国は何度もぶつかっている国家同士なので、青だったら納得がいったのだが。

 白は、至高神カリオステを奉ずるラクーンデス王国のシンボルカラーである。

 現在は停戦中の国家であった。

 緊張状態にはあるので、越境しての犯罪行為はすぐ開戦に結び付く。

 こいつらはそれを分かっているのか、それとも偽装なのか?

「『神聖魔法:センス・ライ(嘘発見)』」

 レイズエルがさっきの捕虜の尋問でも使った術を使ったので、イザリヤはその集団に声をかける。

「ラクーンデス王国の手のものか?」

「そうだ。貴様らは一体なんだ?………いや、答えなくてもいい。水晶が反応している、お前たちのどちらか、復活の魔法が使えるな?」

「2人共使える」

 嘘ではない。

 レイズエルが神聖魔法系の復活を使え、イザリヤは儀式魔法系の復活が使える。

「何?!本当だろうな?いや、捕えてから確かめればいいか。では、2人とも生け捕りにしてやろう。ウィルオウィスプ隊、手加減攻撃!」

 2人は動かない。

 ウィルオウィスプの攻撃は、レジストしてしまえばダメージにはならない。

 レジストに使う能力値は精神力。

 2人の精神力は―――つまり、そういうことだ。


 光がおさまった後には、平然と佇む2人の姿。

 先ほどから話している指揮官らしき男が叫ぶ。

「馬鹿な!手加減したとはいえ年端も行かない小娘だぞ!」

「手加減していたら、私たちにかすり傷もつけられないよ?」

「舐めるなよ、手加減抜きだ!」

 そして先程と同じ結末に終わる。

 ウィルオウィスプの召喚者たちは、明らかに動揺していた。


「こっちの番かな(MPがもったいないからヴァンパイアの『教え』を使うよ)」

「動かせてもらおうか(それがいい、誰も見てないしな)」

 とは言っても、『教え』は血を消費するので、レイズエルはマントを可視化させて、マントの中から「血の麦」を取り出し一粒嚥下する。

 レイズエルの外見が変わった。

 絶世の美貌と年齢はそのままに、黒い癖のあるショートヘア、深紅の瞳、だぶだぶの、シンプルな黒の上着とズボンを身につけ、マントと真っ赤なショールを纏う姿。

 これがヴァンパイアとしてのレイズエルの姿だ。

 外見年齢だけがこの世界に来た影響を受けている。

 本来、ヴァンパイア形態では16~17の外見なのだ。

「『教え:風化:エネルギー消去 範囲×30』」

 すべてののウィルオウィスプが空中に溶けて消えた。

 草原に沈黙が下りる。敵はどう動いていいか分からないらしい。。


 そのタイミングを逃さず、イザリヤが敵陣に突っ込んだ。

 得物はさっきの騎士から奪ったロングソード。二刀流である。

 鮮血の花が咲いた。

 イザリヤのスピードに対応できる者がいないのだ。

 犠牲者は正確に首を切り裂かれて死んでいった。


 そこに、追い打ちをかけるようにレイズエルが参戦する。

 ウィルオウィスプからの攻撃で、先に攻撃してはならない、の縛りは解けている。

 命令者はウィルオウィスプを召喚した者だったからだ。

「『教え:血の魔術:呪いの業炎』」

 呪いの業炎は範囲魔法だ。緑の毒々しい炎が犠牲者を呑み込んでいく。


 一度の攻撃で半数近い部隊員が死んだ。

 それを見た部隊長は逃げ出したい気分だったが、心を落ち着ける。

「お前たち!もう一度光の精霊の召喚を!私は大精霊様の召喚をする!」

 その言葉に顔を明るくする残りの部隊員たち。

 だが、レイズエルは彼らが召喚する端から消去する。

 上がる絶望の声。

「イザリヤ!ボスは任せた!」

 イザリヤが、力を放つオーブを手に取って呪文を唱える隊長に迫る。

「大精霊様さえ、召喚してしまえば!」

 イザリヤは、身を捨てて妨害してくる隊員に邪魔されて間に合わない。

「『召喚:大精霊キングライトフォース』!!」


 召喚されたのは、ウィルオウィスプの親玉といった感じの存在だった。

 それなりに圧力があるが、2人にはそれなりでしかない。

 ただ、攻撃されたら、抵抗しても今のHPではかなり痛いだろう。

 だから、攻撃される前に潰す。

「『教え:風化:エネルギー消去 威力×10』」

 シュン、という音を残して、大精霊は虚空に消えた。

 後には間抜け面の男たちが残るのみ。


「(イザリヤ、隊長は蘇らせて尋問したいから綺麗に殺して)」

「(了解だ、有象無象はお前に任せる)」


 撃破にかかった時間は短かった。

 隊長は多少持ちこたえたが、最終的にはイザリヤが延髄を貫いて終わらせた。

 残りはレイズエルの『呪いの業炎』に絡めとられて骨まで燃え尽きた。

「レイ、隊長の死体どうする?」

「んー。私の亜空間収納に入れておく」

 亜空間収納は生き物は入れられないが、死体は物扱いである。

「さあ、村の広場に戻ろっか」

「姿を元に戻しておけよ」

「そうだったね」

 ………草原は元の静けさを取り戻していた。


♦♦♦


 130人の人口のうち、亡くなったのは39人。

 39人の蘇生はさすがに一気には無理だった。MPが足りないのだ。

 順番待ちの遺体は亜空間収納に入れる。痛まないからだ。

 イザリヤも儀式魔法で蘇生を手伝い、1週間後には全員が蘇った。

 そして今回の騒動を呼んだ2人は今回来ていた隊商について村を出る。

 またこんな騒動が起こらないようにだ。

 村人には、もし自分達を探す者がいたら、ありのまま話していいと言っておいた。

 冬が明けてからの隊商についていくのと違うのは、行き先だ。

 春に来る隊商についていけば、サクスの町を経て王都フェリリケに到着するが、現在居る商人たちについていけば城塞と石材の都市クレスを経てむくろの都市ブレウラーケに到着する。

 レイズエルたちにしてみれば、大きな冒険者ギルドのあるところならどこでもよかったので、目的地がむくろの都市ブレウラーケでも構わない。

 なので、2人は明日出発する隊商について村を出ることになった。

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