第5話 復活の呪文と厄介事①

 6年後。

 2人は13歳になった。

 季節は10月―――

 来年1月には14歳になったとみなされるので進路を決めないといけない。

 

 レイズエルが呪文をかける。

『下級:無属性魔法:簡易鑑定 ×2』


 レイズエル:LV10 HP600、MP600

 イザリヤ:LV10 HP600、MP600


「さすがにあの森で上がるレベルはこれで頭打ちかな」

 レイズエルはイザリヤの乗る上の枝に向けて言葉を発した。

 今2人は大きなリンゴの木に登って、休日を満喫している。

 野良仕事は今日は無く、普段なら森に探索に行くのだが、それもお休みしている。

「そうだな………薬草を取りに行くぐらいしか行く機会もなくなるだろう」

 

 新しく来た先生たちは物分かりが良かった。

 2人が森へ入っても大丈夫な実力を持っていると実技で確認すると、森での薬草取りを依頼して来たのだ。

 有用な薬草を覚えられるので、2人も歓迎して採取に行っている。

 新しく来た(とは言っても5年前だが)先生の名は、フューレイとハーンという。


 イザリヤはリンゴをもぎとって口に運ぶ。

「うん、うまいな。定命回帰を使ってる時だけの特権だ」

ヴァンパイアしたいは物食べないからね」

「ああ、それにしてもフューレイ先生は働き者だな」

 イザリヤの視線の先にいるのは、孤児院の周りの樹の伐採をしているフューレイ先生である。通称、孤児院の何でも屋だ。

 レイズエルとイザリヤにはもちろん及ばないが、金髪碧眼の美形でもある。

 ちなみにハーン先生の方が肉体派で、本来なら伐採はハーン先生の方がやるのだが、今日は孤児院の希望者を連れて、森の比較的安全な領域に探検に行っている。

 確かハーン先生は15レベルなので余裕だろう。


 と、2人が雑談していたところ、かなり太い枝にフューレイ先生が苦戦しているのが目に入る。ノコギリが途中で止まってしまって、引き抜こうと懸命だ。

 フューレイ先生は力を込めて―――

 だが、その反動でバランスを崩し地面に落下する。

 頭が、石に当たり、石に食い込んだ。


 さすがにレイズエルとイザリヤも放っておけない。

 木を下りてフューレイ先生の所に駆け寄る。

「先生!大丈夫?」

「………」

「死んでるな。どうする?」

「人目はある?イザリヤ」

 イザリヤは気配を探る、が誰もいないように感じる。

「よほど巧妙に隠れてないかぎり、いないな」

「わかった」

 レイズエルは先生の後頭部から石をずるりと引き抜いた。

 これでは即死だったろう。

「じゃあ、いくよ『神聖魔法<星女神アステラ>:蘇生』」

 後頭部の傷はふさがり、先生はゆっくりまぶたを開く。

 ちなみにレイズエルのひざまくらである。

「あれ………僕は?ノコギリを取ろうとして落ちて―――」

「先生は、あそこの落下の衝撃で気絶してたんですよ」

 蘇生魔法の扱いがわからないので、ここは誤魔化すに限る、とレイズエルとイザリヤはアイコンタクトで意思確認をする。

「そうなのか、もしかして回復を?」

「ええ、起きそうにないのでかけました」

「ありがとう、あの枝は僕には無理だね。ハーンに任せることにするよ」

「それがいいと思います」

 ハーン先生まで落ちないかと危惧したのは内緒だ。

 その日に起きたのはそれだけで、あとは休日を満喫する事ができた。

 厄介事の種がまかれたのをレイズエルとイザリヤは知る由もなかった。


♦♦♦


 11月。夕方、村に今年最後の隊商が到着する。

 森で採れたものの換金をするので、レイズエルとイザリヤはお馴染みさんだった。

「はいよ、今回は、これだけだね。しかし最初は驚いたね!亜空間収納を使いこなしてる事もそうだけど、あのスライムの核の量!」

「もう、会うたびにそれは止めて下さいって」

 商人に手を振って分かれて、村の広場で成果を確認する。

 今日の分を合わせて、6年分の稼ぎは金貨953枚。

 初心者専門の森の成果なので、十分な稼ぎだといえる。

 財布はいらない布を貰ってボロボロだけど穴はないものが2つ。

 2人とも、亜空間収納に放り込んでいるので穴が開いていたとしても問題はないだろうが、町に出た時のためにも財布は必要なのである。

 ちなみに1金貨の価値を分かりやすく言うと地球テラでいう1万円になる。


「そろそろ暗くなってくるか………レイ、帰ろう」

「そうだね………って、ん?何か聞こえない?悲鳴みたいな」

 イザリヤがキッと表情を引き締めて答える。

「確かに聞こえる、物が燃えるニオイも―――」

「悲鳴の現場へ向かおう」

「そうだな」

 2人は一番近そうな場所に急行した。


「いやッ、いやあああああ―――!!!」

 走って着いた現場はサイアク極まる現場だった。

 顔見知りの家族。

 だが父親と母親は明らかにもう息をしていない。

 そして今年17になった娘は、襲撃者―――デデイユ王国の騎士の紋章をつけた騎士に、レイプされようとしている。

「醜い」

 一言残して、まだ距離があったのを瞬間的に駆け抜けて騎士の後ろに回り込んだイザリヤがぼそりと言う。

 がしりと騎士の頭を掴み、娘から引き剝がすイザリヤ。

 かなりの力で掴んだようで、騎士が悲鳴を上げる。

 ちなみにイザリヤが渾身の力で掴むと、頭蓋骨が割れるだろう。

「いだっいだだだああ!!おっ、お前こんなことをして許されると!私はこの隊の隊長だぞ!はやくあっ、いだだだだ!!やめてっやめてっ」

 レイズエルは寝言を言う男は放置して娘さんに回復魔法。

「広場に行って。隊商が来てるから護衛も来てるはず」

 マリーさんは泣きながらレイズエルとイザリヤに礼を言って走り出した。

「イザリヤ、その豚を黙らせて、拘束して広場に転がしてきて。私は他の所を回る」

「了解した。後で会おう」


 イザリヤは縊り殺してやりたいのを我慢しながら隊長とやらを広場に運ぶ。

 途中通りかかった農機具小屋でロープとぼろ布を調達して、とりあえず不快な鳴き声は小さくなった。

 小さくなっただけで止まないのはイザリヤが隊長の髪を掴んで走っているからだ。

「蹴り転がしで連れていかれないだけマシだと思うんだな」

 広場に行くと、すでに十数人の村人と、孤児院の面々がいた。

 先生もフューレイ先生、ハーン先生と揃っていたので、事情を話して隊長を預かってもらう事にした。ここに騎士が来た場合、人質ぐらいにはなるだろう。

「わたしはレイズエルと一緒に村人を助けて回ってくる。できるだけ騎士も倒す」

「情けないけど、この村で知る限り君たちが一番強い。すまないけど頼むよ」

フューレイ先生が申し訳なさそうな顔をするが、その通りなので構わない。

イザリヤは、微笑んで行ってくる、と言った。


 レイズエルは、悲鳴と燃える家屋を頼りに、もう騎士5名を始末していた。

 殺したのは、ロープがないし、気絶させたらいつ起きるか分からないし、魔法で捕縛するのはMPの無駄である、と思ったからだ。

 

 レイズエルには破れない戒律がある。

 レイズエルの「血親」が課したものであり、レイズエルのヴァンパイアとしての「子」にも全て課している。

 これを守って修行すれば解脱し「真の自分」に到達できる。

 それで開眼したのがレイズエルの種族「超越者オーバーロード」なのだ。

 内容は

 1:助けを求められたら断ってはならない

 2:相手の同意なく血を飲んではならない

 3:相手より先に攻撃してはならない(知性のないモンスター除く)

 4:グールを作ってはならない

 ………の4つである。


 殺した5人は全て、向こうから攻撃を受けたので反撃で殺している。

 助けた人は、広場に行くように、と声をかける。

 怪我をしていた人たちはちゃんと治したのでたどり着けるだろう。

 広場までの道に騎士がいる場合はレイズエルが先行して倒したので問題ない。

 そんな事を繰り返していると、家族の中の一人も助けられない時も出てくる。

 聞いた悲鳴が断末魔だったりするのだ。

 村人はみんな顔見知り。仲の良かった人もいる。

 怒りをため込みながら、レイズエルは救助活動に専念した。


 しばらくして、レイズエルとイザリヤ、2人が合流する。

「何人やった?」

「10人ぐらい」

 凄味のある微笑みはレイズエルが絶世の美貌だけに迫力満点だ。

 だが、長い付き合いのイザリヤは平気なようだ。

 平気でレイズエルに言葉を返す。

「わたしもそれ位だ。………となるとアレだな」

「異常に気付いて逃げ出そうとする?」

「そうだ。村の入口で張っていれば、あと10人は引っかかるだろう」

「この村は柵なんかほとんどないよ。取りこぼしがあるんじゃ?」

「それは、もう仕方ないな。入口で捕まえる奴は尋問用に生け捕りにしよう」

「分かった。ロープはどうする?」

「倉庫から借りてきたのが亜空間収納にたくさんある。ぼろ布もな」

「了解。イザリヤの『魔眼:硬直』で硬直しててもらううちに縛り上げる?」

「まあ、そういう感じだな」

 方針を決めた2人は、村の入口に向かって走り出した。


 飛ぶように走った結果、脱出者を1名捕縛することに成功。

 茂みに捕虜を隠して待つと、合計で7人の捕虜を得る事ができた。

 捕虜をつないで、先頭でイザリヤが引いていく。

 レイズエルは一番後ろで見張りである。


 広場に連れて戻ると、村人たちがざわめいた。

 殴りかかって来ようとする人もいる。

 どうするのか?好きにさせておいた。

 死人が出る前には止めたが。

「尋問するので、殺さないで下さいね」

 釘をさすのは忘れなかったが。

 それにレイズエルとしては、村人が人殺しになるのは少し嫌だった。

 イザリヤは冷めたものだったが。


「さあ、尋問しましょう」

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