第4話家族と私

 私が葵葉パワー100%をちょうど使い果たした頃に今日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 力を使い果たした私は、誰よりも早くデッサン鉛筆、カルトン、イーゼル、爪を片付けると、アトリエに持ってきていたカバンを持って学校を出た。

 理由は簡単だ、私は、最近絵の提出が悪い。

 学校でぼんやりしていたら間違いなく先生に捕まって強制提出になってしまう。評価点ゼロになって留年するよりかましだけど…

 もちろん、描いてはいるのだが、全く楽しくなく、絵として見せられるものではない。

 どれだけひどいかというと、この前、半泣きで提出した、日本画の自画像は、自分の顔が魚の目のように死んでいて、日本画特有の淡い、柔らかな表現、タッチは全くなく、ひたすらのベタ。

 だからといって周りの子のように、目や口のいたるところから黒い汁が滴り落ちていたり、自分と思う色がまんべんなく使われていて、これが私!みたいな強さもない。

 私が、自画像と組み合わせて書いたのは、歯車、絵全体として鈍く、覇気も活力もなくて、のっぺりした、到底、人に見せられる絵では無かった。

 ある意味、自画像としたら当てはまっていたかもしれない。

 私は今、絵を描く気もしないし、やりたいことも無い。ただ日常を歯車で回しているに過ぎない。

 それでも、公立の大学に行くため、1年生ながらも、努力は怠らなかった。模試の練習をし、受け、E判定をもらい、夏期講習を受け、全く出来なくてトイレで時折泣きながらも、練習した。

 だがしかし、一向に上達しない、何なら、勉強をして、知識と技術が蓄えられる方が落ち着くのだ。

 そんなことを考えてドンヨリして帰宅していたら、もう家の前に着いていた。

 しまったと思っても、ここからどこかで時間を過ごすのも面倒臭い。どうゆうことかって?この後すぐ分かる。

 私は、汗ばんた気持ち悪い肌着を嫌悪しながら扉を開けた。

 玄関に入るなり、泥棒と勘違いされないよう大きく声をあげる

「ただいまー」

 そうして、さっさと自室へ入ろうとするとわき腹を槍で突くような母の声が、まさに横やりが入る。

「心~~、またこんな早い時間に帰ってきて!学校でもっとやることあるでしょう。絵は、部活は!?折角、放課後もアトリエで自由に絵が描けて、頭のいい普通科の子達と部活が出来るのにもったいないじゃない!」

 あぁ~~~。まただよ。家に娘が早くに帰ってきて何が悪い。健全で安心、安全じゃないか!親としてはそれで満足してほしいよ。

 この手のお茶を濁す場合、長期戦は不利。短期決戦で決める!

「まだ夏休み明けで、学校の美術の課題も少ないし、そんなにやること無いから。しょうがないよ。」私はできる限りの残念オーラを出して微笑んた。

 しかし、今日の母さんは騙されなかった。

「もうすぐ学校祭なのに、なにもないわけが無いでしょ!」

 ピンチだ…まさか、予定を把握しているとは

 私は、知恵を巡らす。そうだ、もう私は、逃げる必要は無い。図書部文芸班に所属することを決めていたのを思い出した。

 私は、胸を少し反って誇らしげに答えた。

「図書部文芸班で演劇をする事になっているの!今は、その題材を考えているの!」

 母さんは、疑心に満ちた顔で「心は普段本なんて読まないじゃない。そんな嘘までつくんじゃない、見苦しい。」

 私の胃がぎりっと来た。しつこい!!

 私は、静かに母を見据えると、カバンから一冊の小説を取り出した。

「ほら、小説。」

 本を広げると、聡君が貼っておいだだろう付箋があって、「無邪気に、明るく」とか「恨みを込めて呪い殺すように」とかが丁寧に書いてあった。一応真面目に勧誘に取り組んだらしい。

 それを見た母さんは、不満そうに顔をしかめ

「図書部?何でそんな活動が無さそうな部活をしているのよ。もっと今しかできないことをしなさい。」

 私は、いいじゃん私の学生生活なのだからと言う言葉を飲み込み

 「そうかもしれないね。」と細く言うしかなかった。

 私は、ようやく出来た会話の間に滑り込むんで自室へと戻った。

 荷物を投げるように起き、小説を散らかっている勉強机にこれはソーッと置いた。

 私は、学生服を着替えるのも後回しにしてぐったりとベッドに倒れ込んだ。

 そのまま、ボーッとしていたら眠りこんでしまった。


 気がつくと、7時を過ぎていた。

 シャッターを閉めようと窓を開けると夜の帳が落ち、うるさい虫の音がなだれ込んでくる。

 私は、慌てて飛び起きた。まだ着替えも課題も終わってない。

 私は制服にしわが強くついてないことに安堵し、着替えた。それと同時に母さんが「ご飯にしますよ!」という声が聞こえて、私は胃を握りしめられるような恐怖を抑えてリビングへと向かった。

母に「返事くらいしなさい」と怒られると

「ごめん」といって食卓であるダイニングテーブルに着いた。

 既に席には父さんがついていて私は、「お疲れ様、父さん」と精一杯の笑顔を向けていった。

 父さんは仕事の連絡だろう、スマホをいじりながら「あぁ」と小さく漏らしただけだった。

まもなくして、母さんも席に着き憂鬱な夜ご飯が始まった。

「いたただきます」というと黙々と私は食べ始めた。

 静寂を破ったのは、父さんだった。突き刺すような冷気の中に地獄のマグマ纏うような声だった。

「お前、今日帰ってきてから何をしていた。母さんから聞いたぞ、最近早く帰ってくるって。アトリエで絵を毎週描いて来ると俺に言っていたのに!2学期にもなって腑抜けてきて部屋にこもってだらだらと動画でも見ていたんだろう!。」

 はぁ、また始まった。親としての領分としては正しいかもしれないが食事の度にこんな話ばっかりだと気が滅入る。

しかし、私は笑顔と薄っぺらい声色を続けた「今日は、疲れていて寝ちゃったの。ちょうどついさっき起きたばっかなの。」

 父は不満そうに続ける。「だから中学の頃に運動部に入れといったのに。」

 すると、一息をいれ、芯まで冷え切った氷柱つららなような声で続ける。

「いいか、腑抜けるな!一度やると決めたことは曲げるんじゃない。お前がやる気がないなら、お前が絵を描くのは、もう認めないし、続けて努力ができない奴は、社会の底辺を走り回るだけだ!そんな奴は仕事は!!お前はこんな女みたいになるな!」

 最後は、母さんに向けてだったのだろう。母さんの顔に怒りが満たされる。

そもそもなんで、早く帰って寝ているだけで仕事をするなといわれてるんだろ、理解できないが、これでも私の大切な家族だ、心に無気力と悲しみが募る。(既に日常なので募っていく) このくそったれーー!!と心では叫んでいたが、言ってしまったらこの家族は崩壊する。私が接着剤なのだ。

私は、父さんに薄ぺらなのを続けて言う。

「どうしても、したくない時ってあるじゃん。そんな日に描いても上達しないって。」

 しかし、そんな宥めの言葉は父さんの機嫌を逆なでするだけだったらしい。

「だったら、もうお前は絵を描かなくてもいいし、大学に行かなくていい。」

 これは、私が甘えているだけなのだろうか、もう絵を描くどころか、最近は何もやる気がしなかったのだが、(文芸班以前の部活見学にいってもどこにも入部する気がしなかった。)心を優先するか甘えを許さないか、世の中の賢い人に教えてもらいたい。

 そうこう悩んでいたら母さんがキレタ。

「なによ。そこまで言わなくてもいいじゃない。それに、人の方にも学校があるのだし、あなたには組みきれないこともあるじゃない。しかも、まだ高校生なんだからもっと今しか出来ないことをよ!!」

「そんな、腑抜けた考えをしているから、お前は時々寝込むんだ!今のうちから徹底して取り組むことをさせろ!!!」

 「寝込む」の所で、私は、ショックで固まった。いや心にこびり付いたトラウマが絵私の意識を刈り取ったというのが正解かもしれない。

 私が小さなころからこの2人は喧嘩(私にとってこの言葉は生ぬるい。)を繰り返してきていたが、ひどい時は2人が別々の部屋で私が伝書鳩として2人の会話をつないだ。私は真正面切った喧嘩が起きないよう、家族でいられるように最大の努力をした。しかし、そんなものは時間稼ぎでしかなかった。

 私が小3の頃に本当にひどい喧嘩をした。二人とも相手を殺さんばかりで睨みつけ罵声の応酬だった。私は、1人布団の中で泣いていた。

 次の日から、父さんは仕事から家に帰ってこなくなった。

 母さんは浮気だと叫び。

 久しぶりに帰ってきた父さんは違うと声を大きくあげ。

 私は、ひたすらにないた。

 そうして、互いに全く話さなくなった。(なぜ、根本的に離れないか謎である。)

 そうして母さんは、夜は寝れず。日中は動けず、家事はたまった。心が壊れたのだった。今はある程度回復してきているが、時折思い出すように寝込んでしまうことがある。

 私は、その時から、次こそはと家族でいられるように、2人にとってを演じた。

 父さんの命令のような勧めにはまるでそれが面白いと自分に思いこませながら従い。

 母さんの家事を一緒にやって、心に負担がかからないようにし。

 衝突したときは、中立に回って、互いの意見をまとめ、仲裁しようとした。「心のくせに生意気だ!」といわれることもあった。

 正直、学校の事など、どうでもよくなって心の中から一時期は

 学校にいる間中家族の事ばっかり考えるようになった。まず家族がだった。友達が明らかに減った。クラスの子が楽しそうに笑っている、きにならない。

 けど独り言が多いのは、このころからかもしれない。

 けど、しょうがないのだ。家族なのだから。私の脳裏には、小学校にもまだ満たない自分と母さんと父さんで笑顔で沖縄の海を見て、はしゃいだ、温かくて幸せで愛している思い出が焼き付いている。

 しかし、最近は、仲裁が上手くいかない。なぜなら、2人とも私の事で揉めているからだからだ。

 意識が目の前に帰ってくる。

 父さんが私になにかいっている、いやでも自分に入ってくる「、まだまなんだから、お前が絵も家の事も頑張。」

 母さんも私に必死にいう。

「あなたは、言うことを聞く必要はない。。」

 私は、2人に喧嘩しているのがつらいことを告げ、自室へ戻った。

 2人は喧嘩じゃないと言っていたが、私にとってそこは、どうでもいいことだった。

 私は、ずりずりとベットへ這いあがった。夏なのに寒気がしてそれを抑えるように布団にくるまった。横たわったダンゴムシの様にくるまる。

 私は、嗚咽を抑えながら、1人泣く。肩が段々早く上がり下がりし肺がつぶされそうになってくる。過呼吸だ。体が危険信号のごとく痺れてくる。

 少しだけ残っていた、冷静な私が急いで他のもので気を紛れさせろという。

 私は、布団にくるまったまま散らかっている勉強机に隠してあるゲーム機を取ろうとしたとき、本が一冊目に入った。

 それは、今日、聡君に返し忘れた小説だった。私は特に考えずにその本を取る。

 『嵐が丘』私は暗い嵐のような表紙に描かれた赤い文字を読んだ。

 学校で起きた今日の事を思い出して少しだけ安心する。安心する要素はどこにもなかったが(楽しかった)今の私にとっては、ノスタルジックな気持ちにさせる。これがポカポカして気持ちがいい。

 私は、瞳からぼたぼたと垂れるしょっぱい涙を本に落とさない様にしながら、本を広げ、ベットに寝転がった。

 いつも、こんな気持ちの時は本なんて読めないのだが、いまはこのノスタルジーにしがみつきたい。悲劇のヒロインだと思えば悪くない。

 そうして、私は、嵐が吹きすさび、雪が積もって緑が生い茂る。ヒースの大地を走り始めた。


 嵐が丘は、人間嫌いのロックウッドが聞き手となり、嵐が丘にあるアーンショウ家と鶫の辻のリントン家の順に仕える使用人のネリーが語り始めることで始まる。

 ネリーの語りは、父であるアーンショウから育てたことを悔やむだろうといわれるほどお転婆な野生児、娘キャサリンと頭が弱いキャサリンの兄ヒンドリ-が住む嵐が丘。

 そんな嵐が丘に嵐が丘の主人であるアーンショウがキャサリンが6歳の頃に長旅へ向かい土産として黒髪の孤児を拾ってきた。孤児は、ヒースクリフとなずけられ、アーンショウは自分の子供たちよりも彼を可愛がる。

 キャサリンとヒースクリフは意気投合し、悪戯を一緒にしたり、ムーアへ駆け出して一緒に遊んだりしていた。私は、この陰鬱な物語でもここは読んでいて楽しい。(描写は少ないけど)今でいうところのイギリスに無限に広がるような丈の短い黄土色のような黄緑のような丈の草や木々を生い茂る荒野を無邪気に駆け回ってる異国の風景を想像すると楽しそうで、どこまでも続いてそうで、キャサリンは親の愛や理解は無いし、怒られようとも、罰を受けても、親にさらっと言い返し、自分が楽しいと感じることをやっていてそれを自分で良しとしている。

 今の私とは大違いだ、私は家族が怒ったら悲しいし、悪戯する勇気どころか反論する勇気もわかない。ムーアを無邪気に走り回るどころか、建物が雑踏する、その中の一つで毎日を同じように過ごしている。

 私は、彼女の様になりたいと思った。自分の楽しさがあればどんなこともけろっと忘れまた縦横無尽に走り出す彼女に。

 明日、これを題材にしたいと言えるようにさらに読み進めるが、あまり楽しいものでは無かった。

 主人のアーンショウが亡くなり、兄のヒンドリーは嵐が丘の主となって憎んでいたヒースクリフを家族から、召使いに落とすし。

 キャサリンは、ヒースクリフを誰よりも愛しているのに、お金があったら、ヒースクリフの後ろ盾になれると、隣の領主、鶫の辻のエドガーと婚約しちゃうし、婚約の話をネリーとしているところにヒースクリフが盗み聞きして、キャサリンがヒースクリフを愛しているところだけ聞いてないし。そのせいでヒースクリフ誰にも言わずに出ていくし、キャサリンが病んでしまうし。

 挙句の果てには、ヒースクリフが復讐しに帰ってきて、エドガーと喧嘩して、3人で仲良くできると思っていたキャサリンは、精神錯乱が悪化し死へと向かっていく。

 そんななか、ヒースクリフがキャサリンの元をこっそり訪れキャサリンが本当はヒースクリフを愛していたことを知る。

  私は、途中まで読むとふぅと息をついた。私がよむラノベなどとは言葉使い、キャラの成り立ち、情報量が大きく異なっていた。ここまででも、触ってないところがあるし、まだ半分くらいだが、なんとも疲れる話だろう。もう12時を過ぎた。

 絶対こんな話を部勧誘にするべきじゃない。なんで、聡君は部勧誘にこの話を選んだのか予想もつかない。

しかし、私がまともに自分からライトノベルじゃない本を読んだのだってこれが初めてな気がする。う--…すごい疲れた。本ってこんな疲れるのか、いやこの話が特別なのか?とりあえず、私が感じた事と共にまとめたので、間違いやおいおいと言える場所はあるかもしれない。

 けど私が今、劇でやれそうなのはこれだけだ。なにより、キャサリンがカッコいいし(反論の余地しかないが、今の私にとっては好き勝手やった挙句に他の男のために夫人になるところとか好き)

ヒースクリフに罵倒してやりたいし(あの、陰鬱で根にもつくせに、キャサリンに別れ話されるのが怖くて逃げた男!好きなら、真正面からぶつかってよ!!)

 この後もヒースクリフの復讐劇や第二世代の物語が続いていくが、この話の一部でも到底私には語りきれないし、もはや、ヒースクリフが何で動いていているのか分からなくなってくる。まさに嵐のごとくだ。

 おそらく、演劇をするときには、分かりやすい所だけ、削ってやると思うので、文学のお偉方には、文句を言われてしまいそうだが、これを私はやろうと明日提案する前向きな気持ちになっていた。この嵐の一部になるのは楽しそう。

 あれっ、なんか、私泣いていた気がするけど、もう頭がそれどころでない。キャサリンがエドガーがヒースクリフがで埋め尽くされぐるぐるにミックスされている。

 もはや、私の悩みは嵐によって吹き飛ばされていた。そうして私は嵐に巻き込まれながら、それに向かってあーでもないこうでもないと布団で考えてるうちに意識が溶けていった。(明日の朝に高校受験の受験票を出し、急いで入部届に住所を書くことになるのだがこの時は忘れていた。)


作者から

 今回は、ちょっと重めです。設定を妄想して一番楽しくなかった。主人公一体どう向き合うのか!?ですが基本的には、創作と青春をする少年少女のおはなしです。この後楽しく彼女らは青春することでしょう!

作中、次の著作を引用または参考にさせていただきました。

『嵐が丘』(Eブロンテ著、 鴻巣友李子訳、 株式会社新潮社、 令和4年刷)

                                                                                                       

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