第3話ウワサと親友

 憂鬱な午後の素描(デッサン)の時間。

 絵を描くための光を取り込むためのめちゃくちゃ大きい窓によって毒なんじゃないか思うくらいの光を程よく取り込んでいる。

 そんな40人が入ってデッサンができる大きなアトリエで。

 私は1時間の死闘の末、モリエールへとの戦いに負け(描けませんでした!)デッサンを後ろで立って描いている私の親友である月東げっとう葵葉あおはちゃんのもとに泣きつきに来ていた。(デッサンは座りと立ちに分かれて1枚毎に位置を交代して描くよ!決してイジメられてるわけじゃないよ!)

 

「……………」

意気消沈といった私に葵葉が話しかけてくる。「ねぇ心?聞いてる?」

「………………」

ねぇ、だから聞いてるってば!

「…、……?………!」

「そんな顔芸されても伝わらないから。だから…」

「描けねぇーー…」ついに私は声を絞り出した。

「ふえっ?かけ姉ぇーって誰?追いかけ回していたのは女なの?!」葵葉は触れたくないようなけどほっとけないような不安そうな顔で尋ねる。

 私は描けねぇーのはどう考えても目の前の石膏像しかいないでしょ、他に何がいるんだと言いたくなりながらボソッとつぶやいた。「ベートーヴェン……」

「なに、心は、ベートーヴェン追いかけ回していたの?なんなの?!良かった心の趣味が普通(?)で」いつもクールな葵葉が頭のおかしなこといって混乱しそうだ。

 どうしたんだ、葵葉ちゃん心の中で私はつぶやく。

 あぁ私がつい石膏像をベートーヴェンって言ったからか…名前なんだっけ、ベートーヴェン…思い出せない。

「そこの奴……」私重い体から指を持ち上げ指さしだ。

 私の指さした方向へまるで友達の名誉がかかっているぐらい必死に向き直る葵葉ちゃん。

 深い紺色に見える髪が艶々としながらきらめいて彼女に舞う。

 しかしながら本当に今日はおかしい。

「誰?一体誰なの?人の方たぶらかして殺されそうになった奴は?!」葵葉はもうどうなってんだと言わんばかりだ。今日は疲れているのだろうか、

 そうしていたら、ベートーヴェンことモリエールの名前が浮かんてきた。

 そうだこれ以上、葵葉ちゃんがよく分からんことを言って必死に私の指さした方をキョロキョロしないように伝えなくては。というかアレを描いてなかったらいったい葵葉ちゃんは何を描いているんだろうか……

「描けないんだよ、モリエール…」

「デッサンの話かい!!」本当に何故か分からないがずっこけそうな勢いで描く人の邪魔にならないようにつぶやく。

「そうじゃなくて……」

 やっぱり葵葉ちゃんといると落ち着くなぁ。一見クールで言葉はツンとしているけれど喋ってみると以外に可愛いし。

 しばらくボーッとしていたのも相まって再び元気が舞い戻ってきた。

「あー、あー、あー、 よし!葵葉ちゃん補充100%《パーセント》!心行きます!!」私はどこぞのロボットのように急発進して、自分の持ち場へと戻った。 

ゾッとしたような顔をしながら葵葉ちゃんがつぶやく「私の補充って気持ち悪いわよ、心。そしてどこかで聴いたことあるわね。それ…… 」

「ってそうじゃなくて噂の真相はどうなのよー!」

 そんな叫びは私の耳には届かず、私は親友がくれた、公の場での否定のチャンスを棒に振ったのだった。

 

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