第2話新入部員と文芸班
私が「勘違いだから 止まれー!」というまで長い間、私たちは追いかけっこをしていた。
噂になるのを嫌ったのか人目を避けて裏庭、中庭、外の通路を使っていた。そりゃ、女に恨まれる男の称号なんて欲しくないだろう。私も男の頭を折る女にはなりたくないので好都合である。
校舎をぐるっと回って走ってたどりついたのは、学校の端っこ東にある図書館棟だった。ここは2階に図書室があり、1階は下駄箱がたくさんある謎のフロア。(基本的に校舎は土足可能であり何のためにあるのか私は知らない。)
ついに、2階に駆け上がれば人目に付くところまで来てしまった。
この鉛色のじめっとした下駄箱で、誤解を解かねば私は狂った女になり、ついでに彼に女の
しかし何といえばいい。そうだ、人に物事を伝える時は率直で短くと誰かが言ってた気がする!
私は、いまだにぐるぐると混乱する頭をフル回転させた。
「私はあなたのことを言っていたんじゃない。あのくそおっさん!
じゃなくてモリエールが嫌いで、いらいらしていたの。だからほんの少し罵声が溢れただけだから!」最後は早口で少しうわずってしっまっつぁ。
よしっ、上手く伝えれたはず。
私は彼の反応を窺う。
彼のセピアにブラウンが織り交ざったような瞳がジトっとしてる。すぅぅんごい怪訝そうな顔をしてる!
そうか気づくのが遅かった。私は美術科の知り合いは学年問わず結構いる。(美術家は1学年に1クラスしかないよ)のだが美術科で黒髪マッシュの君を私は知らない!
きっと、彼は普通科だ!
今頃彼は「モリエールって誰だろう?誰にせよ何てやばいこと言ってるんだ。狂ってんな」と思っているに違いない。
そもそもだが普通科の人からしたら何を言ってるか伝わらないだろう。(決して私が狂ってる人なわけではない)
言い換えるなら、毎日毎日、英語の単語を唱えていたせいで、頭にそいつらがどんな時も余すことなく頭にギシギシ、ミシミシと埋め尽くされる苦しさ。そんなイメージだ伝われ!
そんな祈りを込めて小さなひよこの歩きだしのような心もとない気持ちで弁明を続ける。
「モリエールというのは石膏像というもので、デッサンをするときにつかうもので、けっしいぇ私がおかしいわけでは…
「なんだ。やれば出来るじゃないか!」突如、男性的なそれでもあどけなさと明るさを備えた声がどこからともなく聞こえてきた。
「聡(さとる)ご苦労さん。」
「面倒嫌いのお前のことだから適当にやるとはおもったが、本当に新入部員を連れてくるとは、無理かとも思ったが間に合いそうだな!」嬉しそうな謎のお兄さんがどこからか現れ。さとる?の肩に組み付いた。いや絡み付いたというべきか、さとる君は迷惑そうに
「先輩、彼女は新入部員では無くて…てっ いたぁ引っ張らないで先輩」勘違いを否定している。しかしまったく噛み合っていない。
勘違いの要因は新入部員と言っていたことからおそらく後期の部活勧誘だろう。カンが鋭すぎるって?なぜならこの学校は4月の前期と夏休み明けのこの後期に部活の所属・脱退が出来る。なので、パフォーマンスをして新規募集者を!と意気込んでメラメラ燃えている部活動がたくさんである。(怖いよ。みんな…)
今日の中庭は合唱部が練習をして通りかかる子を目をギラギラさせて勧誘していたのも私が裏庭に隠れていた、一つの要因でもある。後期部員募集は(前期もだが)新入部員募集という言葉から寒気を起こすようなイベントなのである。
そんな中来た私をきっと謎のお兄さんは新入部員希望だと勘違いしている。
そんな勘違いを加速させたのか
「しかも、お前がまさか女の子を口説けるようになったとはお前、顔はいいからにこやかに紳士のようにくどいたのか?」
「それとも情緒あふれる声で恋物語でも読み上げたのか?」からかうように問い詰めている。
その中。さとる?君が明らかに様子が気まずそうになり、さらに目が泳ぎ始めた。紳士的どころか罵声の応酬だったのだ。そうもなる。
しかしながら、私の学校脱出計画を阻まれたのは事実。(事項自得という心の声はしまって。)さらによくわからん勘違いを解くのもあわせて少し意地悪をしても許されるのではないだろうか?
私は先ほどの罵声を必死に思い出す。たしか私と同じようにおっさんに対してぶちぎれていたはず。ああ確かそうだ。
「黙りなさいよ、この盗み聞きおっさん!だったよね?確か」こじれるとわかっていてもにやりと言ってしまう。
「違うそれは、君が言っていたことだよ!!バキバキに折れろとか言ってたじゃないか!!あと僕が朗読していたのは盗み聞きじじぃだから」必死に彼は弁解(?)する。
嬉しそうに話していた人のよさそうなお兄さんは、一瞬目を大きく見開いたあと急に和やかな顔になってまるで愛しい弟を見るような顔で
「そうか聡、お前そんな軽口が叩ける友達ができたのか。俺は嬉しいよ。」と朗らかにいった。
「『なんでそうなるの!!』」私たちは叫びださんばかりだった。
なのに当人ときたら「息ぴったりじゃないか!」と満足そうだ。
話通じないよこの人!わざとなんじゃないかこの人と疑っていると。
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は
「知ってるかもしれないが、こっちの黒髪が普通科1
そして、このきれいな黒髪のマッシュが聡君と。
ここまで丁寧にされると私もなんとなく名乗らないといけない気がした。挨拶は元気に、これ大事!
「初めまして、私は美術科1
先輩は聡君に「丁寧で元気なお嬢さんじゃないか。」というと急にかしこまった声になった。
「では早速だが入部面談を始める。」
「だから、彼女は新入部員じゃないんですって、あと入部面談ってなんですかそれ!」 なんやかんや言いながらも聡君は先輩に説明してくれようとしている。
「彼女は部員になりたくてきたわけじゃないのか。」意外そうに先輩は続きを促す。
まずは、聡君が勧誘の一環として裏庭で朗読劇をしていたことを話し始めた。
勧誘のために人目のない裏庭で1人で勧誘していたらしい。
ある意味人前で朗読劇するより怖くない?と問いただしたかったがこれ以上こじれらせては、と堪えた。
そして小説の少女が使用人を罵倒するシーンで突如私が現れ、嫌いだの頭をおるだの叫んで知らない子が近づいてきたとのこと。 怖いねそれ。
そして話し手は私に移り、一連の流れと私の憎きおっさん、またそのせいで絵を描く気が起らなかったことなどについて、羞恥の間は与えられず洗いざらい話すことになった。けど変人扱いされるよりましだよね。
(手遅れではないと思いたい)
先輩は終始にやけっぱなしで、くくくとでも言いたそうな顔を。
聡君はげんなりした顔をして聞いていた。
私の話が終わると先輩はツボにはまったのか笑いながらも喋り始めた。「はっはっは、面白いな蒼入さん!入部面談は合格だ!」
「だから入部希望者じゃないんですってば!」この人話を聞いているんだろうか?
しかし先輩はまったく動じないで私に問う。
「しかし、蒼入さん。その様子だと作品を作る気もしないみたいだし、部活にも所属していない。他にやりたいこともないんじゃないか?だとしたらこのままくすぶっているのはよくないと蒼入さん自身も思っていると思う。ここでは何か定期的に練習させるわけでもないし基本的に聡が三題噺を書いて俺が適当に講評しているだけだ。気まぐれに遊びに来るだけでもいいんじゃないか?」
私にこの言葉はぐっさぁと刺さった、なぜなら最近どんだけ絵の枚数をこなしても上達している気配もないし、このままいやいやとやっても上達の兆しはみえないだろう。気分転換に部活動をやろうと思って体験も見学もいった。(勧誘の恐怖はここで知ることになる。)卓球、バスケ、ソフト、弓道、かるた、弦楽、軽く見た(引っ張っていかれたが正しいか)のを合わせるともっとあるのだが、最初のやりだしはいいのだが、どうしてもすぐに飽きてしまうのだ。何かをそこに込めることができない。
先輩は図星を見抜いたのだろう。まるで鳥罠にかかる小鳥を見るように提案をしてきた。
「実は、3週間後の”
聡くんが驚きに真っ青になり問い責める。
「演劇の話僕は聞いていないですよ!?間に合いそうだなってこれのことですか?!だったら 正気じゃないです。まともに人も小道具もないのに無茶ですよ!今からでも申請取り消ししないと大恥かきますよ!」
そんな言葉を先輩は無視して下駄箱の奥に姿をくらましたかと思うとすぐ戻ってきて契約書の様な紙を私に差し出した。
「まぁ、今すぐでなくてもいい。明日までに答えを出しておいてくれ。」
そして少し弱ったように話し始める。
「実をいうとな文芸班、正しく言うと文芸班が属する図書部は現在、部長1名俺が1人にこいつが一人で計3人なんだ、本離れが進んでいてこのままだと図書室の本を買う予算が減らされるし、部活動は何も目立つことはしていない。このままだと次の春を迎える前には解散。奥の部室も使えなくなっちまう。だから俺は部員を集め演劇をすることで本の良さと部活動はしっかり活動していると見せつけて部活を存続させたい。少しでも気になるなら、人助けだと思って入ってくれると助かる。」
「別に、活動自体は部室がなくても出来るからいいじゃないですか?」聡くんが意外そうに突き放す。
オーバーリアクションで先輩は「おい!なんて冷たいことを言うんだ!あそこには、もう今は図書室置いてない古いライトノベルがたくさんあるんだぞ、しかも俺のお気に入りだ。何といっても俺が2年間過ごした思い出の場所だ。お前はこの部室に思い出はないのか薄情者!、しかもおそらくだがそのうちそんなこと言えなくなるぞ」と嘆いている。
聡君はやれやれといった様子で「いまから人を集めて劇をやるだなんて、彼女もきっとNOというはずですよ。」と呆れている。
しかし私は意気揚々に「任せてください!その話乗らせてもらいましょう。明日には用紙も書いて持ってきますよ!」と返していた。
聡君は明らかにげっっとし半開きの口が戻らない様子で。
證志先輩はよっしゃという対照的な顔をしていた。
私は、体に再び火が灯った思いだった。いつもの飽き性が暴発するかもしれないのに何故か今回はそんな気がしない。演劇のキャラに思いを込めて演劇すると言うことにいつかの思いを込めて何かをやり、それを分かち合う喜びを思い出したからかもしれない。それはしばらくのデッサンの練習のせいで何処かで抜け落ちていた何かな気がした。
私はそう考えながら用紙の記入(住所を忘れて今は書けないことは黙っておこう)とお昼を食べるため教室に戻ることにした。
「私は、昼もまだですし、入部届も書きたいので今日は失礼します。」
先輩が聡君の言葉に人知れず嘆いていたなか、思い出したかのようにおーいといった様子で立ち去る私言う「あぁ、そういえばお前たちかなり噂になっていたぞ。温厚でににこやかな文月君は実は女たらしで、狂った女に待てー!とかそのまま返すかー!と追い掛け回されていたと証言したやつが結構いるらしい。昼とか困ったらここにこいよー」
彼のその呑気そうに語られたやばい話と気遣いを私は自身の燃え上がる火の音で打ち消した。
思っているより時間が経っていたらしい、教室に戻ると同時にチャイムが鳴った。
昼休みが終わり。私は学校から抜け出すことを忘れ。
「このベートーヴェンモドキ!今日こそ描き殺してくれらぁー!くそったれー!お腹すいたわぁー!」とアトリエでうなることになったのだった。
自身のうわさが周りで立っているとは知らずに…
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