ハチ公前

『次は渋谷〜渋谷〜お出口は右側です。』


フォローするとかフォローしないとかをしているうちに恵比寿を過ぎてもうすぐ渋谷。

春樹との待ち合わせの時間も迫ってきている。一旦スマホをスリープにして電車を降り、

スクランブル交差点があるハチ公改札まで歩いてゆく。


Suicaを改札にタッチする音が鳴り響く中、改札を出てハチ公前までやってきた。


どうやら春樹はまだ到着していないようだ。春樹は僕と同じ地元の浜松町に住んでいるが

高校は新宿の高校だったはずだ。埼京線で一駅だからもう直ぐ着く頃だろう。


渋谷駅前はいろんな個性の人がいる。コスプレをして踊っている人。

TikTokの撮影をしているであろう人達。高校生や大学生の山といるカップル。

YouTuber。インスタ映えを狙ってダンスしている人。僕はこんな人達を見ると幸せそうでつい妬んでしまう。


そんな事を思いつつ春樹にLINEを送る。


龍之介『今どこにいるの?もうハチ公改札だよ』


春樹『わり〜今トイレにこもってる。昼ご飯の弁当一気に食い過ぎた。


龍之介『おけ、俺思ったんだけど恋人とは一生無縁かも』


春樹『そうかもしれないな。俺もここまで恋人ができなかった人は初めて見たよ。

彼女いない歴🟰年齢の人は15歳までなら山ほどいるけど、18歳になってもできな

い人なんてほとんどいないよ。でもそれもそれで珍しいのかもな笑笑』


これを返信に送って来られると何ともやるせない気持ちになるが唇を噛んで我慢した。


自分を責める気持ちと春樹に対しての怒り。自分は神様に呪われているのか。

お祓いをしてもらおうか。お守りを買おうか。考えを膨らます。


返信にはだいぶ困った。責めと怒りがぶつかり合い心臓が痛くなる。

食事の約束をしていたが、食欲どころか吐き気がしてきた。


大声で泣きたい気持ちなった挙句自分の責める感じで返信を書いた。


龍之介『自分は恋人ができない運命だったんだよ。もう大丈夫。

気にしないで男子だけの時間を楽しんでこ!』


春樹『いいね!楽しんでこ!』


龍之介『そういえばさ、春樹って何人の人と付き合ったことがあるの?』


春樹『5人くらいかな。自分顔がいいからモテモテでさ〜

文化祭の後なんか何人もの女の子たちにLINE交換しよ〜って

言われちゃってさ〜』


さっき18歳にもなって彼女いない歴🟰年齢の人を見たことがないと言われたけど、

ここまで自画自賛する人も初めて見た感じがする。


龍之介『やっぱり俺とは違っていい人生送ってるな。神様も残酷だな』


春樹『妬ましく言うなよ。自分磨きしたか?』


龍之介『したよ。ワックスつけたり、ツーブロックにしたり、

ピアスつけたり。ここまで自分磨きした人も中々少ないよ』


春樹『そこまでしたってさ。お前の悪いオーラがあるせいで何もかも

無駄よ』


龍之介『オーラ?』


春樹『オーラだよ。オーラ。お前が解き放っているお前自身の雰囲気

いかにも不幸そうなオーラ出してるよな。LINEした時だって自虐が

多いし』


龍之介『自虐ネタって風通に面白いじゃん。誰も貶めて無いんだよ』


春樹『いいや、1人貶めてるじゃ無いか』


龍之介『誰だよ。誰も傷つかないネタでやってるぞ』


春樹『自分は?肝心の自分は?どうなんだ?』


春樹『自分がは傷ついてないのか?自虐して自分を傷めつけてないのか?』


龍之介『傷つかないように努力してるよ』


春樹『自分を貶めている人の話を聞いている周りは?

周りだっていい気分じゃ無いよ家


春樹『お前この前も言ってたけど自分がクズとかってさ。

誰がそんな話聞いて喜ぶの?自分が不幸だっていうことは

僕達に会えたことだって不幸だってことだよ』


龍之介『いや、そんなつもりで言ったんじゃないよ。

勘違いしないでもらいたいな』


春樹『みんな言ってたよ。龍之介はいつもネガティヴだって』


龍之介『みんなそこまで思うのか。あ〜やっぱり

人間関係に恵まれないな。本当に不幸だ』


春樹『ほらまた言った。俺だって聞きたくないんだよ。

お前の不幸とか、自虐ネタ』


春樹『はっきり言って不愉快だしどうでもいい』


龍之介『自虐で生きてきた人間だよ!語彙力もないし

頭も良くないし、コミュニケーション能力もないし』


そうだ。自分はいつも自虐で生きてきた。

自己紹介の時だって、インスタのプロフィールだって。いつも自虐ネタ。


春樹『誰かが聞きたがるネタにすれば?』


龍之介『例えばどんなだ?ゲームの攻略か?好きでもないアイドルの話か?』


春樹『例えば自慢でもいいのだよ。自分が何かの試験に合格した〜とか。人を煽らないように言えばいい』


龍之介『人を煽らないようにって、

煽ったことなんてしたこともないけどな』


春樹『自分がいかに充実した人間か

それをアピールする感じ』


龍之介『幸せな感じか』


春樹『お前は今だって幸せだと思うよ

心配してくれる親がいて、先生がいて

幸せなんだから胸張って生きてこ』


龍之介『うん、ありがと笑』


LINEでのやり取りは少々バチバチしたが、

色んなアドバイスが聞けたので春樹には

感謝するとしよう。


(感謝か。俺初めて心から感謝したかもな

いや、本当は感謝をしなければ行けない時

にしてなかったのかもな。わざわざマッチングアプリに依存しなくても良かったのかも)


僕は初めて罪悪感にまみれながらハチ公前を

ぶらついた。


(そういえばレストランを決めてなかったな。

春樹がもうすぐトイレから出てくる頃だ。

どこにするか考えないと。ガストとかいいかもな)


JR渋谷駅の改札の前で春樹を僕は感謝しながら待っていた。













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