第18話 エピローグ

「きれいな夜空ですね」


 満月が浮かぶ夜空を、テミス様と一緒に眺めます。

 城の中庭で、誰もいない場所で。

 

「……そうだね」


 隣のテミス様はクシャっと笑います。

 その笑みは私に向けられていて……今でもドキッとしてしまいます。


「アイリス、今日は何の日か覚えている?」


「さぁ、忘れてしまいました」


「……本当に?」


「まさか、冗談ですよ」


「……もう、意地が悪いな」


 落ち込むテミス様。

 彼は本当に純粋で、とても……素敵な殿方です。


「本日は……私とテミス様の結婚2周年記念日ですよね?」


 トウカの処刑からおよそ2年。

 私とテミス様は、結婚しました。


「あれからもう……2年なんだね」


「時間の流れは早いものですね」


「トウカさんやシリアルのことは許せないけれど、でも……彼らがいたからこそ、キミと出会えたんだね」


「ええ。そういえば、シリアル様は今どうなっているのですか?」


「……今もずっと監禁しているよ。彼の発狂はもう、治らないだろうね」


 シリアル王子は国王陛下の命により、投獄されてしまいました。

 そのショックが原因で、彼の精神は破壊されてしまい……発狂してしまったそうです。


「……お気の毒ですね」


「自業自得だ。彼は自由に行き過ぎたから、そのツケが回ってきたんだよ」


 と、テミス様は語ります。

 ですが……その表情は悲しげです。


「テミス様、気に病む必要はありませんわ」


「そうだね、でも……」


「……今は私たちの記念日を祝福しましょう」


「……そうだね」


 きっかけはシリアル王子がトウカと婚約を結んだこと。

 そこから運命の歯車が狂っていったのです。

 物語にありがちな悪い方向ではなく、とてもいい方向に。


 今では……少しだけ感謝もしています。

 あのままシリアル王子と婚約を結び、結婚していれば……私はきっと後悔していたでしょうから。

 浮気をされ、蔑ろにされる日々を送って、私はきっと諦めてしまっていたでしょうから。

 自分の人生のすべてに、諦めていたでしょうから。


 テミス王子はシリアル王子と違って、私を裏切ったりしません。

 それだけでも素敵なのに、もっともっと……たくさん素敵な要素があります。

 そのことがすごく……嬉しいのです。


「テミス様」


「ん、どうしたの?」


「……私、幸せです」


「……僕もだよ」


 これまでの人生は、きっとこれからを彩るための日々だったのでしょう。

 不遇に生きてきたすべての人生は、これからを素敵にするために存在したのでしょう。

 今なら、そう言い切れます。


「……テミス様、私……テミス様のことが好きです」


「僕も、アイリスのことが大好きだ」


 私たちは口づけを交わしました。

 熱く、情熱的に。

 もう二度と、離れないように。

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妹のことが好きになったから別れてほしいのですか? ええ、ぜひ婚約破棄しましょう! 志鷹 志紀 @ShitakaShiki

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