第17話 呆れ

「……哀れね」


 断首台の前に立ち、悲痛な表情を浮かべるトウカ。

 彼女を見ていると、憐れみと呆れが同時に湧き上がってきますわ。


「犯罪に加担しやがって!!」


「俺たちの税金をつぎ込みやがって!!」


「さっさと死ね!!」


 周りには彼女の死を望む民草。

 自分たちの税金をつぎ込まれた彼らの怒りは、もっともです。

 私が彼らの立場なら、きっと彼らと同じように怒りを叫んでいたことでしょう。


「……なんで、どうして」


 ボソボソと何かを呟くトウカ。

 その表情は怒りを抱えているようにも、嘆きを抱えているようにも見えます。


 おそらくですが、彼女は自身の現状を自業自得だとは考えていないでしょう。

 間違いなく、私や環境が悪いと糾弾しているハズです。

 私は彼女の姉ですから、彼女の考えなどお見通しなのです。


「わたくしは!! 何も悪くありません!! すべて、あそこでほくそ笑んでいるあの女が悪いのです!!」


 唐突に叫び、私を睨みつけるトウカ。

 ですが、そんな叫びは誰の耳にも届きません。


「……キミの妹だから言葉にするのも躊躇われるが……愚かだな」


「テミス様……」


「この期に及んで、すべてキミのせいだと言い張るなんて」


「……そうですね、私も……そう思います」


 妹だからと言って、同情の余地はありません。

 トウカは全てにおいて罪深く、全てにおいて害悪です。 

 彼女が犯したことは……到底許されることではないのです。


「……」


「テミス様?」


「……なんでもないよ」


 テミス様は不思議と悲しげな表情を浮かべています。

 トウカのような悪女は同情の余地もありませんのに……なんと優しいお方なのでしょう。


 ……今この瞬間、私の心は傾きました。

 最初はテミス様の婚約提案を受け入れがたかったですけれど、それは何も知らなかったから。

 テミス様とはほとんど初対面でしたから、そうなっただけのことです。


 ですが、こうやってテミス様のことを色々知り合った今では……受け入れてもいいと思っています。

 テミス様は優しく、そして……正しいです。

 こんな人は私が出会ってきた中で……テミス様だけです。


 きっと、テミス様以上にいい人はいないのでしょう。

 そして、私の運命の相手は……テミス様なのでしょう。

 こんな人と一緒にいられるのは、私の中で一番の幸せなのでしょう。

 

「……テミス様」


「ほら、アイリス」


「はい……?」


「もう……時間だ」


 テミス様が指さす方を見ると、そこにはトウカの首に刃が充てられている場面。

 そして──


「最後に言うことはないか?」


 処刑人が言葉を投げかけます。

 そして──


「わたくしは……何も悪くありま──」


 刹那、トウカの首は飛びました。

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