第11話 冗談

「……シリアル王子、つまらない冗談はおやめください」


「そんな!! 冗談なんかじゃないよ!! 僕は本気で、キミのことが好きなんだ!!」


「……ふぅ」


 いまさら、どの口が愛を叫ぶのでしょう。

 散々私の心を弄び、散々私を泣かせた彼が。

 私に愛を囁くことなど、到底許されることではないでしょう。


 あまりにもバカらしくなって、怒りを通り越して冷静になってきました。

 頭の中がスーッと凍っていく感覚です。


「……シリアル王子、あなたがこれまでに浮気をした回数を覚えていますか?」


「そ、それは……」


「139回」


「……え?」


「139回もあなたは浮気をしたのです」


「そ、そんなに……? 盛っているよね?」


「……話の流れから、察してください。私が冗談を言っているように見えますか?」


 冷たく睨みます。


「……ごめん、でも……僕は改心したんだ!!」


「……そのセリフ、何度目か覚えていますか?」


「……え?」


「61回です。ちなみに逆上した回数が34回、私の講義を無視した回数が44回です」


「で、でも……今回は本当なんだ!!」


「そのセリフは23回目ですね」


 あわあわと震え出すシリアル王子。

 もう……哀れでなりませんね。


「シリアル王子、いい加減気づいてください」


「……な、何にだい?」


「『自分が既に信用に足る人間などでは、決してないこと』にです」


「…………」


「シリアル王子、『羊飼いの少年』という寓話はご存知ですか?」


「……羊飼いの少年が退屈から「オオカミが襲ってきた」という嘘を吐き、村j人からの信用を無くす話だろ?」


「ええ、その通りです。この寓話の教訓は、「嘘を吐き過ぎれば、信用を失う」というものです」


「……何が言いたいの?」


「気づいていないのですか? 王子の状況とこの寓話の状況が、被っていることに」


 どこまでも鈍感なのですね。

 ……本当に呆れます。


「王子はもう、何度も浮気をしてきました。そんな王子を信用できるわけがないですよね?」


「……それは……」


「王子はもう、信用も信頼もされていないのです。いい加減、気づいてはどうですか? それに──」


 私は隣にいるテミス王子の腕に抱きつきます。


「私、すでに心に決めた人がいますので」


「「……え?」」


 テミス王子とシリアル王子の声が、重なります。

 当然のことでしょうね。


「それでは、シリアル王子。ごきげんよう。行きましょう、テミス王子」


「え、う、うん」


 私とテミス王子は踵を返し、その場を後にしました。

 ……後でテミス王子には、説明と謝罪をしなければなりませんね。


「……テミス、お、お前……」


 情けないシリアル王子の声が、後ろから聞こえてきますが……。


 無視しましょう。

 これまでに幾度もされたように。

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