第9話 愛しい人【王子視点】

【王子視点】


 ほとほと呆れる。

 ため息を幾度も何度も、吐いてしまう。

 トウカに惹かれ、愛してしまった自分を呪ってしまいたい。


「残念だ。……本当に残念すぎるよ」


 アイリスが本当はひどい女だった? 

 虐待を受け、惨めな人生を歩んできた?

 何も説明されず、無知のまま渡された?


「僕がトウカの婚約者として、何年過ごしてきたと思っているんだ!!」


 トウカは、そんな酷い女じゃない。

 暴力を嫌い、花を愛でる彼女が……トウカの語るようなことをするハズがない。


 どうせ、トウカのくだらないウソだろう。

 彼女はどうも、信用できない。

 最初こそ愛らしいと思っていたが、最近は……信用が全くできない。


「……アイリス、僕が間違っていた」


 今すぐキミに会いたい。

 再婚約を結び、キミのそばにいたい。

 

「……そうか、僕の運命の相手はトウカなどではなく──アイリスだったんだ」


 失って、初めて気づいた。

 僕は最初から、運命の相手と一緒にいたんだ。

 あまりにも近すぎて、気づくのが遅れてしまった。


「……アイリス、僕が悪かった」


 キミに誓うよ。

 もう二度と、浮気なんてしない。

 もう二度と、キミ以外の人と運命を感じたりしない。

 

 キミのために、僕は生きる。

 キミを喉と、裏切るようなことはしない。

 誠心誠意、潔白に生きると誓うよ。


「アイリス……アイリス!!」


 僕は駆けていた。

 居ても立ってもいられず、身体が勝手に動いていた。

 

 今すぐ、キミに会いたい。

 今すぐ、キミに謝罪したい。

 今すぐ、キミと婚約を結びたい。


 愛しのアイリス。

 僕だけのアイリス。

 キミに会って、もう一度愛の告白をしたい。


「……アイリス」


 しかし、僕は気づいてしまった。

 婚約者だった頃は教育があったため、この時間は必ずアイリスが王城を訪れていた。


 だが、今のアイリスは婚約者ではない。

 つまり……王城を訪れる必要がないのだ。


「……僕はなんて、バカなんだ」


 自分の愚かさを悔やむ。

 僕はもう、二度とアイリスに会えなのだろうか。


 心を闇が蝕む。

 愛しい人を失い、初めて自分の想いに気づくなんて……僕は……なんて愚かなんだ。


「アイリス、アイリスー!!」


「……なんですか、うるさいですね」


 そんな中、僕の背後から声が聞こえた。

 それは懐かしい……僕が一番聞きたかった声。


「……アイリス?」


「お久しぶりです、シリアル殿下」


 久しぶりに出会った愛しい人は、依然となんら変わっていない。

 トウカよりも素朴で、薄い顔。

 胸はあるが……どこかだらしない。

 そんな愛しい、僕のアイリスが現れた。

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