第8話 こんなこと【妹視点】

【妹視点】


「────と、いうわけですの!!」


 王子様の部屋に入って、私はこれまでのことを話しましたわ。

 お姉様は私をひどい目に合わせようとしている。

 婚約者としての生活がこんなにも苦しいものだなんて、お姉様は話してくれなかった。

 他にも、お姉様に虐待をされた話や、お姉様が浮気をしていた話など、今適当に考えた話を王子様に話しましたわ。


 王子様はハッキリ言って、バカです。

 私がちょっと悲壮的に話せば、信じてくれますわ。

 きっと私の話を聞き終わった後も、「それは許せない!! アイリスを処しよう!!」などと言って、お姉様の元へ向かうはずですわ。


「……そうかい」


「……?」


「……どうかしたのかい?」


「あ、い、いいえ……。なんでもないですわ」


 しかし、私の想像とは違い、王子様はいたって冷静に……いえ、それは語弊がありますわね。

 まるで疲れ切ったかのように、うなだれて私に返事をしましたわ。


「……話は済んだかい?」


「え、お、王子様?」


「……なんだい?」


「……お姉様を処しませんの?」


「……なんでそんなことを、しなければならないんだい?」


 汚れ切った瞳で、王子様はそう言ってきます。

 ……なんで、なんでですって!?


「私は!! 王子様の婚約者ですのよ!!」


「……そんなに声を張り上げなくても、十分聴こえているよ」


「そんな私が!! 姉とはいえ、一般人に愚弄されたんですのよ!!」


「……キミの話が正しければ、そうみたいだね」


「となれば、処刑するべきでしょう!! 最愛の妻になる人が、バカにされたんですもの!!」


「……」


 なんで黙っていますの!?

 私に惚れたあなたは、私のいうことを全て聞き入れる義務があるっていうのに!!

 

「……トウカ、正直に答えてくれ」


「な、なんですの急に……」


「……今の話は、全て本当かい?」


「……まさか、疑っているんですの!?」


「……答えてくれ」


 本っっっっっっ当に腹立たしいですわね!

 最愛の私を疑うなんて!!


「当然、全て事実ですわ!!」


「……残念だ」


 王子様は立ち上がり、私を睨みつけてきます。

 ……その瞳は、お姉様を想起させて……胸糞悪いですわ!!


「キミが正直に答えてくれたら、考え直したのに」


「な、なんの話ですの?」 


 王子様の次の言葉が、怖いですわ。


「……僕はキミが嫌いだ。だから、アイリスに再婚約を申し込む」


「な、なんですって!?」


「……アイリスはキミの言うような、ひどい女じゃない。キミとはここでお別れだ」


 そう言って、王子様は部屋から出て行きました。


「……え?」


 何が起きたか、理解したくない私は、ただ呆然とするしかなかったです。

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