第6話 新たな

「え、第二王子が私に会いたいと言っているのですか?」


 いつものようにお茶を嗜んでいると、従者がそんなことを言ってきました。


「はい、お嬢様。2日後にこちらに来るそうです」


「ふ、2日後ですか!?」


「はい」


「ですけど、どうしてですの? 私が婚約破棄されてから、すでに2週間。文句を言うにしても、遅いですわよね?」


「……申し訳ありません。理由まではわかりかねます」


「あら、ごめんなさい。それもそうですわよね」


 ですけど、いったい何故なのでしょう。

 2週間という月日は短いようで、長いものです。

 すでに婚約破棄をされたという、ほとぼりも冷めたころだといいますのに、何故このタイミングなのでしょうか。


 嫌な予感……は特にしませんわ。

 昔、本で読みましたが、奇妙なことが起きると大抵嫌な予感がするそうです。

 実際に第一王子の婚約者だったころに、浮気をされているときに何度か嫌な予感がしたことがありますわ。


 ですけど、今私が抱いている感情は……安心感?

 言語化が非常に難しいですけれど、何故か私はそれに似た感情を抱いています。


「そう言えば、第二王子には会ったことがないですわね」


 10年以上、第一王子の婚約者をしていましたけど、第二王子には会ったことがないですわ。

 弟がいるという話は何度か聞いたことがありますけど、何故か会わせていただけませんでした。

 理由を聞いても、有耶無耶にされる始末。

 釈然としなかった覚えがありますわ。


「……なんだか、緊張してきますわね」


 第一王子が頑なに隠蔽する、ナゾの第二王子。

 10年以上の歳月をかけて、ようやく会えるのですね。

 ……何故、私はそんなナゾの人物に安心感を抱いているのでしょう。


 自分でもさっぱりわかりません。

 何故そんな人物に対し、不安を抱いていないのでしょうか。

 普通だったら、不安や恐怖を大なり小なり抱くものだと思います。

 ですけれど私は緊張こそすれど、そのような感情を微塵も抱いていません。


 初めて出会う、それもナゾの殿方に安心感を抱いているのです。

 ……自分でも自分が、さっぱりわかりませんね。


「うーん、考えてもわかりませんわね」


「お嬢様、お茶が冷めてしまいます」


「あら、そうですわね。ありがとう」


 考えても、仕方がありませんわ。

 今はともかく、自分の時間を大切にしましょう。

 婚約者のころでは、決して経験できなかったことを、大事にしましょう。


「お茶が美味しいですわ」


 お茶を飲みながら、私はそんなことを考えていました。

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