第5話 後悔【王子視点】

【王子視点】


 アイリスと婚約破棄してから、2週間が経った。

 この2週間で様々なことが起こり、僕は……絶賛後悔中だ。

 

 まず初めに、僕の運命の相手……トウカは本当は僕の運命相手ではなかった。

 彼女は僕の想像を絶するほどに下賤で、穢らわしい女だったんだ。


 彼女はアイリスの妹だというのに、まともな教育を受けていない。

 勉学ならともかく、マナーに関しての知識も皆無だ。

 

 口は汚く、あいさつはできない。

 食事は行儀が悪く、頭は悪い。

 剣術はできず、毎日怒られても直す様子がない学習能力が欠如している。

 と、悪いところを挙げると、キリがない。


 トウカは容姿が良いだけで、それ以外は腐っている。


 僕は愚か者だ。

 彼女の容姿に惹かれ、彼女のことを運命の相手だと誤認した。

 こんなに終わっている女だと知っていれば、最初からトウカなんて選ばなかっただろう。


「……アイリスに謝ろう」


 今更だけど、アイリスの素晴らしさを再認識する。

 彼女は勉学やマナー、家事や剣術などほとんどの部門で優れていた。

 トウカとは比べ物にならないくらい、完璧だったのだ。


 アイリスの容姿は……中の上だ。

 確かに貴族にしては、容姿は優れていない。

 だけど、彼女には容姿以上に、素晴らしいところがたくさんある。

 僕はアイリスを失い、そのことに気が付いた。

 自分で言うのもなんだけど、なんて愚かな男なんだろう。


「トウカはヒステリックな部分があるから、浮気を許さないだろうけどアイリスは違ったな。彼女ほど寛容な女性は見たことがない」


 浮気をすることは、仕方のないことだ。

 魅力的な女性がいるのだから、アプローチをしなければ失礼に値する。

 だけど世間的にはこの行為は不浄とされていて、忌み嫌われている。


 だけど、アイリスは違った。

 彼女は僕が浮気をすれば、呆れはすれども僕を許してくれた。

 優しくも厳しい言葉と口調で、僕を嗜めるのだ。


 しかし、トウカは違うだろう。

 彼女は愚かな女だから、ギャーギャーと癇癪を起こすに違いない。

 キンキンうるさい声で喚き回る光景が、目に浮かぶ。


「……謝ろう。そして、また婚約を結ぼう」


 僕は決心し、立ち上がる。

 その時──


「シリアル様! いますか!?」


 と、鬱陶しいほど甲高い声が聞こえてくる。

 なんだと思い、扉を見ると──


「聞いてください!!」


 肩で息をして、目を見開くトウカの姿があった。

 ……はしたないな。


「お姉様ったら、酷いんですよ!!」


 はぁ、どうせくだらない話だろう。

 僕はそう思いながら、トウカの話を聞いた。

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