第3話 妹の変化

 その日の晩、私は夕食をとっていました。

 

「……?」


 実家のテーブルで食事をとっていますが、一緒に食事をとっている妹の様子が明らかにおかしいです。

 いつもならバクバクと品がなく食事をとるのですが、今は落ち込んだような元気のない表情で、シチューを口に運んでいます


「あら、どうかしたのトウカ? 元気がない様子だけど」


「……なんでもありませんわ」


「そう? いつもだったら、もっと元気に食事をとっているじゃない」


「……そう、でしたわね」


 ゲンナリした表情で、何度もシチューを口に運ぶトウカ。

 

 まぁ、理由はわかりますけどね。

 大方、王族の婚約者としての生活がしんどいのでしょう。

 輝かしい毎日を送れると思っていたのに、待っていた現実はあまりに苦しかったのでしょう。

 

 ロクな成績を収めることができず、最終的にワイロを渡して学院を卒業したバカなトウカ。

 努力や勉強という言葉が大嫌いなトウカには、婚約者としての生活はあまりにも答えたのでしょう。


「……はぁ、眠いですわ」


 目の下に深い隈を作り、ウトウトとしているトウカ。

 こんな姿を教育係に見られてしまえば、きっと厳しい折檻をされるでしょう。

 

「トウカ、婚約者としての日々は楽しい?」


「え、ええ。と、とっても有意義ですわ!!」


「私から奪ったんですもの。充実した日々と祝福に満ちた毎日を送れることを、願っていますわ」


「え、ええ。あ、ありがとうございますわ」


 姉から婚約者という立場を奪ったのですから、その姉に弱音を吐くことなんてできないでしょう。

 1人で苦しんで悩む姿は、まさしく滑稽という他ありませんわ。


 私が自由を謳歌できなかった分、トウカには苦しんで欲しいです。

 自由を満喫して喜ぶトウカの姿に、私は幾度も何度も憧れましたから。


「明日も王城に行くの?」


「え、ええ。そうですわ……」


「ふふ、婚約者として自分を研磨するのは、楽しいでしょう?」


「は? 楽しいですか……?」


「ええ、自分を磨き上げて成長させていくのは……実に楽しかったですわ」


「……お姉さま、変態ですわね」


 小声で言っても、聞こえています。

 それにトウカにだけは言われたくありません。

 

 別に私も楽しかったわけではありません。

 ただ、それくらいの心持ちでなければ、乗り越えることができなっただけですわ。


「ふふ、明日も楽しんできてね」


「……はぁ」


 今のため息も、折檻の対象ですわね。

 我が妹ながら……学習しないですわね。

 ため息を吐きたいのは、こっちの方ですわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る