第2話 最高の日々

「ふぅ、紅茶が美味しいですわね」


 婚約破棄されてから、数日後。

 私は充実した日々を送っていました。

 

「婚約者を失い、傷物令嬢になりましたけど……何度も味わっていますから、なんとも思いませんわね」


 シリアル王子に捨てられた経験は、これが初めてではありません。

 多分5回目、いえもっとかも知れません。

 最初のうちは悲しかったですけど、さすがに慣れましたわ。


「この解放感は……何度味わっても良いですわね!」


 王子の婚約者という立場を失い、得たモノは解放感です。

 婚約者という立場は、権力こそあれど自由とは程遠いものでした。

 

 剣術や勉学、その他もろもろ毎日のように修練の日々です。

 自由な時間はなく、つらいものでした。


 ですけど、ようやく婚約者という立場から抜け出せました。

 前まではまた婚約者に戻ってしまうこともありましたが、今回は……絶対に戻ってあげません。


「トウカには……耐え難いでしょうね」


 トウカは私とは違って、ユルく育てられてきました。

 どんなワガママも聞いてあげ、結果的にあのような醜いことに。

 そんな女が、婚約者としての教育を乗り切れるとはとてもではありませんが、思えませんわ。


 トウカはシリアル王子のことを運命の相手と言っていましたが、本当は王族の婚約者という立場を得たかっただけでしょう。

 私が持っていて、トウカが持っていないモノはそれくらいですから。


「……愚かな女ですわ」


 呆れますけど、同時にほくそ笑んでしまいます。

 トウカは実の妹ではありますけど……正直、嫌いですから。


 ワガママを言っても、それを叶えてもらえて。

 公爵家という立場を利用して、学院ではイジメを行なって。

 犯罪を犯しても、それを揉み消す。

 その上、男遊びも堪能して……下品な女です。


 せめて、もう少し謙虚でしたら。

 いえ、それでも嫌いになっていましたわね。


「……トウカのことは忘れましょう」


 いずれ、後悔するのですから。

 刹那の愉悦に浸るといいですわ。


「……あの女のどこに惹かれたのでしょうね」

 

 考えても、シリアル王子がトウカに惹かれた理由がわかりません。

 顔も私と同じくらいですし、胸は私よりも小さいです。

 

 ……いえ、シリアル王子に論理的な思考を求めるのが間違っていますわね。

 あれは……とことん終わった殿方ですから。


「……もっと早く別れたらよかったですわ」


 後悔しても遅いですね。

 今別れたことができたので、満足しましょう。


「……ふふ、後悔すると良いですわ」


 二人の破滅を私は願います。

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