妹のことが好きになったから別れてほしいのですか? ええ、ぜひ婚約破棄しましょう!

志鷹 志紀

第1話 婚約破棄

「別れてくれ」


 私を部屋に呼び出し、彼はそう告げました。

 その表情は一国の王子にあるまじき、沈んだものです。


「一応確認しますけど、何故ですか?」


「……キミよりも好きな人ができたんだ」


 そんなことだろうと、思っていました。

 彼は昔から、浮気性で優柔不断ですから。

 別れ話を告げられるのも、今回が初めてではありませんわ。


 私の婚約者にして王国の第一王子、シリアル・ン・ゾグマは情けない男です。

 何度も私以外の女に恋をして、何度も捨てられ。

 顔の良さと家柄、権力が無ければゴミ同然です。



 別れ話を告げられるたびに、私はそれを承諾するのですが、一ヶ月後にはまたしても婚約を迫られます。

 多額の慰謝料が支払われるので、私はそれを渋々承諾するのですが……。


「……で、今回は誰を好きになったのですか?」


「ワタクシですわ! お姉様!」


 唐突に部屋に入ってきたのは、装飾過多な女。

 美しい金髪を宝石の髪留めで彩り。

 ドレスには「これでもか!」と言わんばかりのフリル。

 化粧は分厚く、まつ毛もギラギラ。


「……トウカ、何故ここに?」


 見るだけで目が痛くなる、美し過ぎて下品な女。

 私の妹、トウカが部屋に入ってきました。


「……すまない、キミよりも好きになった相手というのは──」


「ワタクシのことですわ!!」


「……は?」


 開いた口が閉まらないというのは、まさにこのことですね。

 

「……正気ですの?」


「ようやく運命の相手に出会えたんですのよ? 正気じゃなければ、出会えませんわ!」


「そうさ、僕らは正気だからこそ出会えたんだ」


 シリアル王子は女性の趣味が悪いです。

 これまでに彼が恋に落ちた女性は、結婚詐欺師や異常性壁者など。

 それが発覚して、王子は後悔して……何度も後悔をしてきたはずです。


 ですが……今回は相手が悪すぎます。

 姉の私がいうのもなんですが、トウカは……あまりにも地雷です。


 賭博が好きで宝石に目が無く、オマケに浮気性。

 犯罪にも手を出していると、聞いたことがあります。


「……お姉さま、ワタクシたちは運命の赤い糸で結ばれていますの」


「すまない、僕たちは……出会うべくして出会ったんだ」


「……はは、そうですわね」


 呆れてモノも言えません。

 見る目がないことは知っていましたが、まさかここまでとは。

 

「もう知りませんわ」


 どれだけ慰謝料を払われても、もう知りませんわ。

 謝られても、今回は許しませんわ。

 

 地雷の妹に恋をして、私を捨てるような人。

 哀れで学習しない人。

 そんな人……もう知りません。


「後悔しても遅いですよ」


 私はため息を吐いて、部屋を後にしました。

 ……もう、顔も見たくありません。

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