第8話 7、8チャンネル

「変れるだろうか…自信ないな」と、床に座り込んで下を向きながら健二は言った。

「変われない?」ともう一度聞いた。


「俺は、頭が変なんだよ。お前の泣き顔が見たくてたまらない。お前の辛そうな顔が見たいんだ。逆に、お前が笑ってるとイライラするんだ…だから、優しくする自信がない」


「じゃあ、もうこのリモコンは手放そうよ。誰かを傷つけて生まれる幸せなんてないから…。寿命も4年で済むし…。そして、私たち別れて、お互いに自由になろう」


「嫌だ!俺は、お前の苦しむ姿が良いんだよ。お前じゃないと駄目なんだ!」

「私も怖いのも痛いのも嫌よ!」

「お前は、俺の家畜だ!だから、俺に従っていれば良いんだ!」

「あなたは、私と永遠の愛で結ばれたいんじゃないの?それは優しさから来る感情じゃないの?」

「俺が思う永遠の愛は…。お前を檻に入れて、俺が餌を与えて、俺の言う事をなんでもきいてくれる事だと思っているんだ。でも時子が言った永遠の愛も良いなと思ったよ」


「私とあなたはでは、求めてるものが違うのね…」

「あなたから逃げたい。この苦しみを終わりにしたいと思って過ごしてきたけれど、それは叶わない願いなのね…」


 私は、健二をそっと抱きしめながら

「地獄の底まで付き合ってあげる。ミッションコンプリートしましょ…」と静かに言った。もう何度も死んでるし、殺人だって犯してしまった。今更、普通の幸せなんて望めない。いつまで続くかわからないが、感情を捨て覚悟を決めよう。いつか人間になれる日を願いながら、健二の家畜になることを決めた。それが健二を殺した私の罪滅ぼしだ。生まれかわったら、良い事をたくさんしよう。何があっても道を踏み外さないようにしよう。一度、道を踏み外したら、今の私のように、なかなか闇の世界から抜け出せないのだから…。


「健二、あとどんなミッションが残ってるの?」

「自殺が2回と自殺未遂が2回だ…。やってくれるのか?」

「うん」


 ジジっ!と音を立ててテレビがついた。


 *******************

 ミッションの変更がありました。確認をお願いします。


 時子の自殺 あと2回

 →健二の自殺 2回に変更

 時子の自殺未遂 あと2回

 →健二の大怪我 2回に変更


 尚、今後はリモコンの所持者は時子になります。残りのミッションもお楽しみ下さい。

 *******************


「え!?健二…。やっぱり止めよう!こんなの変だよ!」


「いや、続ける…願いが叶うか確かめてやるんだ」と何とも言えない顔をして、健二は、私にリモコンを手渡した。


「時子、大怪我からやるぞ…」

 そう言って、健二は、金槌を持ってきた。


「これで俺を殴ってくれ」

「そんな事できない!」

「やれ!」

「いやよ!」と必死に抵抗した。

 そしたら、いつものように殴られた。倒れ込む私を見て健二は笑っていた。

「いい顔だ。出来るな、コレで俺を殴れ!」と言って、無理矢理、私に金槌を持たせた。

「早く殴れ!殴らないと、俺がお前を殴るぞ!」


「嫌だ!嫌だ!嫌だ!」と目を瞑って金槌を持った手を振り回した。そして、ゴン!と音がして、目を開けたら健二が倒れていた。

 健二の頭から血がドクドク出ていた。


「健二?大丈夫?ねえ?」と健二の体を揺すった。

「大丈夫だ。死んでない。早くチャンネルを削除しろ!」


「あっ、そうか…」

 震える手でリモコンを操作しチャンネルを削除した。そして、振り返ると何事もなかったように健二が笑って立っていた。


「なっ?大丈夫だったろ?」

「ついでに、もう一回、大怪我ミッションをやるぞ!次は、階段から俺を突き落とせ!」

 健二は何だか楽しそうだったが、私はまだ心臓がバクバクしていた。


 そして滞りなく、大怪我ミッションをクリアした。




 ―大怪我 1回目、2回目―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る