第4話 堀田の隠れた恋心
「滝川君、
堀田は小野寺と駒場が戯れているのは無視して、まっすぐ俺の前までやって来ると、手短に用件を伝えた。こちらとしては、願ったり叶ったりである。早くこのカオスな状況から脱したい。
「よし、わかった。寄海新聞が来たのなら、さすがの鈴谷高校新聞も及ばないな。悪いが、インタビューはここまでにしよう。行くぞ、小野寺」
俺はさっと小野寺の手を掴み、やや早足で歩き始めた。駒場と吉永と放送部がこの後どうなるのかは不安だが、そこは堀田がうまくやってくれるだろう。
「ふう。小野寺、危ないところだったぞ。駒場はどこまで冗談で言っていたのか知らないけど、素人に小野寺の豪速球が打てるはずがないからな」
「さて、どうかな。案外滝川君は、小野寺君が打たれるのが怖かったんじゃない?」
後ろからぽんと肩を叩かれて、そして堀田がすっと俺の横の小野寺と反対側のスペースに並んだ。駒場の後始末をしなくてもいいのだろうか。
「私は美波ちゃんなら、滝川君たちの一回戦の相手のピッチャーくらいからなら打てちゃいそうだと思うけどね。文化部の私には無理だけど」
確かにあの一回戦のピッチャーはそれくらい弱かったかもしれない。だが、小野寺であれば駒場美波に打たれるはずがない。……いや、本当にそうなのか? それなら、俺はどうして駒場をバッターボックスに立たせたくなかったのか? 安全面? 本当に? ……わからなくなってきた。俺は無意識に小野寺を守ろうとしていたのかもしれない。
俺たちは運動場の前で、野球部が練習しているのをバックに撮影していたので、校門にはすぐに着いてしまう。寄海新聞の記者が校門前に立っているのが見えてきた。
「さあ、小野寺君、間違っても京阪ターバンズからスカウトが来ているとか言うんじゃないわよ。寄海新聞は小野寺君は寄海シャンクスに来ると信じているわけだからね」
寄海新聞は関東に地盤を置く新聞社なのだが、寄海シャンクスとはその傘下にある野球球団のことである。一方で、関西が地盤の京阪新聞は京阪ターバンズを傘下にしている。小野寺は今のところ、どちらの新聞とスカウトにもいい顔をしているのだが、小野寺のことである、ボロを出してしまわないとも限らない。
「まったくだ。京阪ターバンズからスカウトされている事実を堀田が知っていることからして、小野寺の口が軽いのは明らかだからな。頼むぞ」
俺は小野寺の肩をぽんと叩いて、そして堀田に手を振った。堀田は「じゃあ、また後でね!」と手を振り返して、反対方向に歩いていった。
⭐︎
それから一時間くらい経っていた。俺、小野寺、吉永、放送部の部員(彼女は
俺は塾をサボっていた。真面目な野球部であると自負している俺にしては珍しいことだった。これは堀田が原因だった。
寄海新聞のインタビューが終わったあと、俺が再び校門前に行くと、堀田がそこで待っていたのだった。そして「一緒に塾まで行かない?」と言われたのだった。
俺と堀田は同じ塾に通っていて、普段は一緒に塾まで歩いていくことは珍しくなかった。それなのに、そのとき俺はなぜか嫌悪感がしたのだった。県大会決勝のあのときの小野寺の言葉が、さっき俺を校門前まで連れていった堀田の行動に重なったのだった。堀田は書記という重役があり、俺を呼びに行く役回りなら他の生徒会員に任せてもよいのに、わざわざ直接自分で来た。思えば、俺は最近、よく堀田に呼ばれて用事を言いつけられたり、業務上の相談をされたりしていたのだった。
(堀田は本当に俺に恋しているのではないだろうか? そしてそのために、横山に圧力をかけて、不登校に追い込んだのではなかろうか?)
そう考えてしまうと、俺には堀田にどう接すればいいのかが見えなくなってしまったのだった。だから、俺は「悪い。俺は今日は塾には行けないんだ。小野寺と河川敷で野球を自主練することになっているから」と瞬間的に言ってしまったのだった。もちろん、そこで堀田と別れてから初めて塾に休みの連絡を入れ、放課後はいつも暇な小野寺を練習に誘ったのだが。
それでも、俺はまだもやもやしていた。今になって急に堀田が悪魔のように見えてきていた。いつもは控えめで、俺たち重役三人の後ろで暗躍するのが定番だった駒場が変な冗談を言ったことも、俺の不安を増大させた。もしかして、生徒会は俺の知らないところですでに壊れ始めているのではないのだろうか。俺はなぜか無性に横山の顔が見たくなり、そしてそのとき俺はちょっとしたアイデアを思いついてしまった。ここに吉永と放送部の鹿島がいるのはそのアイデアに関係している。
「お待たせ。で、どういうことなの、滝川君。私に小野寺君の豪速球を体験させてくれるっていうのは?」
横山奏がジャージ姿で自転車に乗って現れた。
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