第35話
「――あっはっは! それで、『天狗院』の面々と大乱闘をかましたわけかぁ!」
大笑いする清明さん。そんな彼に、隣の眼鏡陰陽師・天草さんが「笑い事じゃありませんって!」と突っ込んだ。
立花神たちと戦っていた時のこと。
仲間たちと共に高橋さんたちをぶっ飛ばし、いよいよ立花神を
騒ぎを聞きつけた天草さんが『任務帰りで疲れてるのにィイイーーーッ!』と泣き喚きながらすっ飛んできて俺たちを制止。そのまま俺と真緒と蘆屋、それから立花神一派は医務室に連行され、治療を受けながら状況説明することになったわけだ。
まぁ俺の仲間と立花神以外の面々は気絶してるし、ついでに俺は怪我してないが。
これは最強陰陽師としてチヤホヤされる夢に一歩前進だな。ふふ。
「ってなんでシオンくんは得意げなんですか……。いいですかッ、アナタたち!? 陰陽師同士の暴力沙汰なんて大問題ですよッ!?」
「そうなんですか? 互いに合意の戦いでしたが?」
「
そうなんだ、それは知らなかったな……。
社会的に組織内での暴力は禁止で、あと長谷川さんみたいな美少女オッサンがたくさんいると。よし、社会覚えたぞ。
「自分が無知でした。すみませんでした」
とにもかくにも、今回は知識がなかった自分の誤りだ。
ゆえに素直に頭を下げようとしたところで――立花神が俺の前に歩み出て、先んじて頭を下げた。
「すンませんでした。こいつらを先に挑発したのはワイです」
「立花神……?」
包帯と青あざまみれの姿で、神は続ける。
「ワイは準一等陰陽師。こいつらの誰よりも偉い立場です。それなのに争いごとを止めるどころか自分が起こしたとあっては、恥晒しもイイところ。見せしめも兼ねて、全ての責任はワイに背負わせてください」
下げた頭をさらに下ろす立花神。その姿に、天草さんは困り顔をした。
「む……たしかに、キミはシオンくんと真緒くんのことを、公衆の面前で罵ったと聞く。また、それ以前にも『天狗院』の面々は、組織内の『呪い人』たちに陰口を言っていたようだ。アナタたちの心情を考えて波風立てずにいましたが、今回の件で問題化せざるを得ないでしょう」
「はいッ、面目次第もありませんわ……ッ!」
神はいよいよ膝を折ると、床に手を突いて土下座した。
「シオンらはもちろん、『天狗院』組の高橋らにも罪はありません。指導すべき立場のワイが、むしろ率先して憎悪を振り撒いてたからや。全部ワイのせいですわ……」
「ふむー……」
神の言葉に、天草さんは腕を組んで唸った。
「……シオンくんと真緒くん以外にも、『八咫烏』の構成員には、妖魔の被害者となって『呪い人』にされた者が少数います。準特等陰陽師の
「はい……」
「そうした人たちにとっても、組織内に不和を起こすアナタたちの言動は目に余るものがあった。……しかしですね……ソレと暴力沙汰の責任、それらを全てを一人で背負うとなると、一つや二つの降格処分では済まないですよ。最悪、『禁獄送り』となるやも……」
「それでもかまいませんッ、全部自分のせいです……!」
禁獄送り――その意味はわからないが、どうやらかなりの重い罰らしい。
しかし立花神は怯まず、それでもかまわないと頭を下げ続ける。
……その意味が、俺にはわからなかった……。
「なぁ、立花神」
「……なんやシオン。あとその呼び方もなんや」
俺は清明さんから、様々なことを学べと言われている身だ。
だから土下座し続ける神の側に寄り、片膝をついて訊ねることにする。
「なぜなんだ、神よ? 仲間を庇うのはわかる。だが、なぜ俺たちまで庇うんだ? さっきまでボロカスにブッ叩いてやったのに」
「ッ……せやな、オンシってばホンマ容赦なくやってくれたなぁ……ッ!」
立花神はわずかに顔を上げると、俺をジト目で睨みつけてきた。
そして睨むこと数秒、やがて「はぁ~~~……」と嫌そうに溜め息を吐くと……、
「……ワイはオンシに、嫌いな気持ちを全ッ部ぶつけた。言葉はもちろん、ほぼ殺す気で暴力も振るった。だから……もうええねん」
怒気の抜けた声音で、神は微笑みながら続ける。
「結果は惨敗やったが、もうオンシに思うところはない。これからは、ただの先輩と後輩の仲や」
「だから、庇うのか?」
「ああ。……てか庇うもなにも、オンシに喧嘩吹っかけたのはワイで間違いないからな。そっちの真緒さんも、罵ってすんまへんかったな」
神は真緒のほうに膝を回し、再び頭を下げた。
「っ……別にもう、気にしてませんよ。僕も銃底でアナタの頭叩きまくりましたしね」
「あぁ、おかげでさっきからクラクラするわ……カレ共々容赦ないなァ」
「カレッッッ!? っていやいやいやいやいや違うし!!! シオンとはただの男友達だからねッ!?」
何やら騒ぐ真緒くんさん。俺は男だから彼で合ってると思うが?
「ともかくや、天草さん。今回は全部ワイの責任ですわ。ホンマ、すンませんでした」
天草さんに向き直り、立花神は重ねて謝罪した。
そんな彼に、天草さんは気まずげに「では、全ての咎はアナタに――」と、言いさしたところで。
「誰も罰する必要はないよ」
清明さんが、ふいに口を開いたのだった。
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