第31話
――戦った。戦った。戦い続けてきた。
戦場を駆けること幾星霜。
愛する祖国を守るために、大切な領民たちを守るために、身命を賭して戦った。
神の名の下に、悪しき侵略者共と戦い続けた。
そして――
「悪逆無道の
闇に包まれた霊堂にて。長き黒髪の美丈夫は、自嘲げに過去を振り返った。
彼こそは、妖魔ヴラド・ツェペシュ。
祖国・ワラキア公国のために戦い続けた君主であり、最後は民衆からも恐れ見限られた悲劇の王である。
「地位も名声も全て亡くした。そして今や、ヒトの身体すら失ってしまった。ならば――」
瞬間、闇の霊堂に無数の蝋燭が灯る。
赤き炎に焼けていく黒。露わとなる霊堂内の全容。ヴラドの眼前に、十三階段が映り込む。
果たしてその階段の先には――天幕の中よりヴラドを見下ろす、人影があった。
「――
ゆえに
叫びと共に、ヴラドの手元に鋼の大剣が現れる。彼はそれを構えると、十三階段を一気に駆け上がった――!
「ウォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッ!」
その闘志に、その情念。常人ならば対峙しただけで魂を縮み上がらせる気迫を前に、天幕の中の人物は、
『――
刹那、呟きと同時に不可視の波動が放たれる。
空間すら軋らせるような衝撃。その強さには鍛え上げられたヴラドですらも耐え切れず、霊堂の床へと一気に吹き飛ばされた。
「チィッ……!」
苦痛に呻くヴラドだが、燃える闘志に澱みなし。
一撃で根を上げるほど
そんなヴラドに、階上の存在は『実に
『嗚呼、
才ある妖魔を集め、競わせ、強くして。そして“世界の覇権”を共に握らんと
すなわち、妖魔による星の掌握。それこそが『天浄楽土』の最終目標だった。
そんな首領の言葉と理想を、しかしヴラドは「くだらん」と吐き捨てる。
「
大剣を構えなおすヴラド。その全身へと妖気を滾らせ、再び首領に斬りかからんとする。
『
「ッ!?」
次瞬、ヴラドは咄嗟に飛び退いた。
すると直後、彼の立っていた場所が
「ぐぅッ――!?」
大剣を盾に余波を耐えるヴラド。
そんな彼の前に、三つの影が現れる……!
「――首領を襲っちゃ駄目デスよォ。私の大切な
「――気に入らん若造だ。挑むにしても、順番があろう」
「――爺さんに同意だねぇ。先に俺らと遊ぼうや?」
血塗れた白衣の
姿を現した彼らに対し、『天浄楽土』が首領の
『おいおい。控えていたならもっと早くに助けろよ。儂は首領で、おぬしら幹部ぞ? 共に世界を征服しようと誓ったではないか?』
そんな首領の砕けた言葉に、今度は三体の幹部が笑って見せた。
「いやァ、自分は実験さえできればいいので~。貴方が死んだら去るだけですし、世界征服もどうでもいいですしィ~」
「我輩も同じく。再びこの世に
「俺ぁ喧嘩できればオッケーなんで! つか首領、あとで俺と殺し合わね?」
どうでもいい、それに同上、さらには首領の命を狙ってくる始末。
そのような幹部たちの返答に、天幕の中の存在は『……どうだよヴラド』と苦笑した。
『
だからこその世界征服。
かつて、天下統一という名の『日本征服』を夢見ていた
『ゆえにヴラドよ。儂はお前の理想を笑わん。“強くなりたい”、実に結構。いい夢だ。――まぁ正直に言えば、“そちらの夢のほうが稚児じみてないか?”と思わなくもないがな』
「なんだとッ!?」
ヴラドのこめかみに青筋が走る。そして斬りかからんとする彼の前に、三体の幹部が立ちはだかった。
『ほォれヴラドよ。儂の夢を
まさに、大人を
もはや何もない、だから強くなるしかないという虚無の心に、“コイツを殺したい”という情動が沸き上がる。
「――いいだろう。貴様の首を斬り落とし、亡骸を
『応やってみよ。――だがその前に、“第四幹部『冥医』フランケン”、“第三幹部『廃僧』
「上等だァッ!」
そして始まる、条理を超えた大血戦。闇の霊堂に人外共が舞い踊る。
その光景を見下ろしながら、『天浄楽土』の首領は笑い続けるのだった。
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