第29話
「斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る……!」
『ウギャーーーーーーーーーーーッ!?』
殺すと言われた瞬間に全力踏み込み。0.1後には二体を斬り裂き、返す刃で0.3秒後には四体の蛇妖魔を斬り殺した。
そこから十体くらいを斬殺してたら急に相手が逃げ始めたので、今は村中を追いかけ回している状態だ。
「数だけはいるな」
大群で潜む蛇への恐怖が形になっただけある。鮮血妖魔エリザベートのように特殊な能力は使ってこないが、村中が蛇まみれだ。
まぁ、
「斬るが」
――斬撃加速。駆けると同時に目の前を斬り、一瞬の真空状態を創造。そこに空気が吸われていくのに合わせて飛び込むことで、逃げる妖魔共に高速接近。ひたすら首を斬り落としていく。
『バッ、バケ、モノッ……!』
「人間だが?」
落ちた首に刃を突き刺してトドメ。そこから頭を綺麗に割ると、玉型の脳器官『黒芒星』が出てきた。
鮮血妖魔と比べたら豆粒程度だ。それだけ妖力が低いといったところか。
「しかし、やはり色は綺麗だな。星の浮いた夜空のようだ。エリザベートのを取り出したとき驚いた」
『っておいシオンよ、我の脳みそにかじりついた時には見てないのか? 我のはどんな色や大きさだったかちょっと知りたいんだが……!』
おっと九尾さん、妙なことを聞いてくるな。
「うーん、残念ながら覚えてないな。お前に内臓ブチ撒けられて、もう最後は本能だけで食ってたし。まぁ喉に引っかからなかったから、小さい玉だったと思うぞ」
『たっ、玉小さいとか言うなぁ!』
ん? なんで怒るんだ九尾? ずっと地下に封印されてたっていうから、妖力を出す器官も弱ってて当然だろ。小さくても仕方ないのでは?
『わ、我はオスだぞ! きーっムカツク!』
「よくわからんが、そういえばお前雄だったな」
『忘れるなぁーッ!』
ばたばた怒る九尾さんを羽織の中に突っ込んでおく。まだ近くに蛇妖魔がいるかもだからな。
「さて、ひとまずあらかた片づけたが……」
そういえば長谷川さんは大丈夫だろうか?
俺は近くの民家に飛び乗ると、索敵もかねて村一帯を見渡した。
「あ、いた」
隅のほうで長谷川さんが戦っているのが見えた。
結構な数の蛇妖魔に囲まれているが……おお、遠目にもギャーギャー泣き喚きながら、敵の攻撃を紙一重で避けているぞ。
毒液の滴った牙の攻撃も、人間の手足での拳も蹴りも、全てぎりぎりで当たらない。
ほとんどを避け、避けられない攻撃は刃のついた鞭を振り回して逸らし、無傷のまま蛇魔人たちだけを傷付けていく。
あれが長谷川さんの戦い方か。
『ほほう、二等陰陽師だけはあるな。見た目はちんちくりんだが実力あるぞ』
「見えるのか、九尾?」
『ああ。貴様と融合しているだけあって、我も巫装の力が使えるらしい。……それで二等陰陽師についてだが、あくまで平安時代の基準だが、アレらは組織の主戦力だ』
九尾は語る。中には一等陰陽師より、厄介なモノもいたと。
『飛びぬけて強い者はさっさと一等に昇格するが、二等は才能がなくとも地力を認められた努力家か、あるいは……』
背後より長谷川さんに攻撃が迫る。
だが、彼は小さな身体をビクッと震わせると、咄嗟に横に避けてみせた。
それからようやく迫っていた蛇妖魔に気付き、「ヒィーッ!」と悲鳴を上げるのだった。
『“斬殺”のような攻撃的な才でなく、もっと“別方向の才能”を持った者。それが二等陰陽師には多いのだ』
◆ ◇ ◆
「終わったな」
「はぁ~~~怖かったぁ~~~~……!」
そして、戦闘終了後。
すっかり辺りが暗くなる中、俺たちはバイクで帰っていた。
「しかし、やはり噂のシオンくんは強いね。ほとんどキミが倒していたじゃないか。おじさんは相変わらずダメダメだったよ……」
「そうか? ……んぐっ」
こっそり集めた蛇妖魔共の『黒芒星』を飲み込む。
すると、エリザベートの時のように蛇の意識が脳裏に混ざる。
って、おお? 色々思い返していたエリザ(名前長いから省略)と違い、めちゃくちゃ斬殺してくる男――俺の姿ばっかりが映るぞ。
お~。これはいい反省になる。まだまだ俺の斬撃は鋭く出来るし、逃げる側の視点がわかったおかげで、どんな風に追い詰められてどんな斬り方をされたら嫌かわかるぞ。
よし、成長した。
『……融合のせいか、最近は貴様の思考も読めてきたわ。貴様、また強くなったのか。本当に化け物だな……』
「人間だが?」
まぁ、九尾が化け物って言うならそれでもいいかもしれない。
何より化けギツネの九尾とお揃いになれるからな。嬉しい。
「ん? どうしたんだい、二人とも?」
「いや何も」
長谷川さんは何も気づいていないようだ。
後ろに相乗りしている俺が、妖魔の脳器官をパクパクしていることも。それで九尾の完全復活を目指していることもな。
「(なぁ九尾。思考が読めるなら頭の中で聞くが、そういえばお前って完全復活したらどうしたいんだ?)」
『(んん? それはもちろん、暴れまくって人間を食べまくる――のは、微妙かもなぁ……。貴様と融合して料理を喰えるようになってから知ったが、人間の食い物のほうが美味いからな。お昼に食べたエビフライとか……!)』
「(あぁ、あれは美味かったな……!)」
西洋からやってきた料理らしい。衣がサクサクで中のエビがぷりっと柔らかくて、最高だった。
たっぷりと掛けられたタルタルソースなる調味料も、エビフライと合ってすごく美味しかったな。
『(それに、陰陽師共に追いかけ回されるのも面倒だ。人間にへりくだった『式神』という妖魔共もいるが、あれらは低級ばかりよ。我くらいの大妖魔となると、危険性を考えて即殺されるだろう)』
やはり妖魔は人間の敵。それが陰陽社会の考えなのだと、九尾は脳内で溜め息を吐く。
『(だがまぁ、妖力を取り込まんと我は消滅してしまうからな。今の融合状態も、はたしてずっと安定し続けるかわからんし……)』
「(わかった。これまで通り、妖力は積極的に取り込んでいく方針で行こう)」
『(ああ。まぁ復活後のことを考えるのは後だ。我が復活するに際し、器の貴様が死なない手段も手に入れなければならんしな。……貴様に死なれると、目覚めが悪い)』
「(……そうか)」
九尾の気持ちが、とてもとても
まさか俺なんかに対し、死んでほしくないと思ってくれるヤツが現れるなんて思わなかった。
『(はてさて……。貴様が死なないための手段、フランケンなる妖魔の研究結果を狙っていることも、陰陽師共に知られると
懐より顔を覗かせ、九尾は難しい顔で考える。そして、ぽつりと。
『――清明。あの、怪しくも妙に我らに好意的な男が、組織の長にでもなればいいがな』
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