第26話
――能力検査を終えた翌日、俺に新たな任務が下った。
「悪いねシオンくん。
僕も仕事だよ~、と肩を落とす清明さん。
地上行きの
「俺は構わない。むしろ定期的に妖魔を喰わないと、九尾の命が危ないからな」
『うむ』
羽織がめくれ、九尾が顔を覗かせた。
その頬は昨日食べた桃饅頭のように薄桃色で血色がいい。横浜では、こんな九尾の顔が真っ青になってたんだよな。あの時は本当に胸が痛んだよ。
『あの女妖魔、エざりー……? ……ベトなるヤツは、たっぷりと妖力を持っていたが、だからとてまた絶食状態でいたら倒れるかもだからな。頼んだぞ、シオンよ』
「あぁ……!」
うおおおおっ、可愛い九尾のためとあらば
「九尾、お前は絶対に死なせないからな。この命ある限り、お前のことを一生守り続けるぞ……ッ!」
『って愛が重いッッッ!?』
ひゅえええッと変な声を出す九尾さん。本当は嬉しいだろうに相変わらずの照れ隠しだな。
そんな九尾を内袋から取り出して頬ずりする。うりうり~。
『うぎゃーッ、やめろ!』
「ん、やめろってことは“もっと”ってことか?」
『ちがぁうッ!』
そうして触れ合う俺たちに、清明さんは「仲良いなぁ」と苦笑するのだった。
その通りだぜ!
◆ ◇ ◆
地上へと出た俺たちは、東京城前の城門までやってきた。清明さんとはここでお別れのようだ。
「ところで清明さん。
「おっと言い忘れてたね。三等陰陽師が
「んー……」
……そういえば、俺が飲まされたような白黒の玉、『陰陽魚』には数に限りがあるって話だったような。だから新しい陰陽師もなかなか増やせないというわけだ。
あぁつまり。
「……人手を散らすより、格下の者が死なないことを優先したわけか?」
「うん、大正解。上の者が下の者を庇い、それで下の者が成長すればみんな万々歳だからね」
よくできましたと俺の頭を撫でてくれる。俺よりもずっと大きな手の感触が心地いい。
「人間社会は面白くてね。さっき言ったような優しい制度があれば、意味が分からない厳しい制度もある。また場所によっても大きく違い、あえて優しい制度を使わず、厳しさばかりを求めるようなところもある。それら制度がどうして出来たか、またどうして導入しないのかとか……考えてみると楽しく勉強できるだろう。人の気持ちを読み解く訓練にもなるしね?」
「なるほど……」
清明さんは、本気で俺の人間的な成長を願ってくれているのだろう。
飄々としてるこの人だが、少なくとも俺にとってはいい人だ。俺もこの人の好意に応えたい。
「わかったよ、清明さん。じゃあまずは、なんで俺の村以外の街では奴隷を飼っていないんだろうって考えてみる」
「それはキミの村がクソ集落なだけです。はい思考終了」
思考終了されてしまった。考えてみると楽しいって言われたから考え出したのに、なんでだ。
「考えても楽しくないことはあるよ。――さて、それじゃあ僕はそろそろ行こうかな」
スーツを正し、「来い、『天空』」と呟く清明さん。
一体なんのことやらと思うと、どこからか自動二輪――バイクがひとりでに走ってきた!
さながら意思でもあるかのように、清明さんの前でビタッと止まる。
「バ、バイクって、勝手に動くのか……?」
「いやいや。これは“ある者”と共同開発した、『造魂札』搭載の試作バイクでね。陰陽符の内部に複雑化させた電気信号を走らせ、疑似的な思考回路を創り出したんだよ」
「ええ……」
なんかこの人、またさらっとトンデモないことを言い出したぞ。
この前の声が届けられる『通信符』といい、意味わからんモノ次々出すなぁ。
「まぁ流石に人間と同等の知能とはいかず、訓練された犬程度だけどね。そのうちシオンくんにも『造魂札』搭載バイクをあげるから、乗り方練習しておきな~」
そう言いながらバイクに跨り、華麗にブンブン去っていく清明さん。
わけわからんけどとにかく凄い人だなぁと思った。
『フンッ……あの手の人種が社会制度を語るか。人の世に収まるような器ではないくせに』
「九尾?」
『いいかシオン。あの手の輩はな、『陰陽魚』を生み出して人にヒト以上の力を持たせた
何やら九尾さん、清明さんのことが気に入らない様子だ。
まぁコイツ、清明さんのご先祖様の安倍晴明って人に封印されたそうだからな。内心穏やかじゃないか。
『とにかくシオンよ。いくら親切にされようが、ヤツの背中を見すぎるなよ? ろくなことにならんぞ』
「ふむふむわかった。じゃあ、とりあえず九尾のことを見る。じーーーーーーーーーーーーッ!」
『熱視線やめろ恥ずかしいわっ!』
俺の視線から逃れようと動く九尾さんが可愛い。でもここは一般人も往来する城門前なので、「あまり騒ぐなよ?」と注意したら『貴様のせいだァッ!』と怒られてしまった。反省。
――そうして九尾と戯れていた、その時。
ふいに後ろから、「あっ、あのぉ~~~~……!」と、ためらいがちな声が響いてきたのだった――。
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