第13話



 ――戦友の【喰密刃クラミツハ】くんと始めた決闘。それは九尾の『メシに埃が入るだろッ!』という言葉により、開始直前で止められた。

 はい、すみません……。


『ったく、シオンと出会ってからまともなコト言ってばかりだ……! 我は凶悪な大妖魔なのにっ、それ以上に常識ないから……!』


「元々九尾は良いヤツだったのでは?」


『よくない!』


 めちゃくちゃ否定されてしまった。

 なんか悪に矜持があるらしい。カッコいいよ。

 

 

「はいそこ夫婦漫才しなーい。――それで僕からの指示だけど、三人にはチームを組んで欲しいんだ」

 

 

 ち~む?

 清明さんの言葉に聞き返すと、真緒マオが「組や班って意味だよ」と教えてくれた。優しい。好き。


蘆屋あしやは分かったツラして分からない俺を放置だから嫌い」


「なんだとテメェッ!? 簡単な英単語くらい覚えろやッ!」


「わかった」


 そう言われたら勉強することにしよう。

 まぁ、まずは英語よりも日本語の文字の読み方だな。お品書きが読めなきゃ食堂でご飯も食べれない。


「話を進めるよ~。キミたちを組ませようと思った理由、それは第一に欠点を埋め合うためだね」


 欠点とな?


「まずシオンくん。キミは強いが、常識に疎い。まぁ完全にあのクソ集落のせいだが……とにかくキミには色々勉強してもらう。仲間によく聞き、学ぶように」


「了解だ」


 元々その気だったからな。勉強させてもらおう。


「で、蘆屋くん。キミは……巫装ぶそうが完全に暴走してるね」


「チッ!」


 うわ、俺のほう見て舌打ちしてきた。ガラ悪っ!


「元々キミ、巫装の自律行動が優秀過ぎたんだよ。それと血筋の良さで新人なのに二等陰陽師になったわけだけど、それじゃあいつか詰むと思ってたよ。初任務でシオンくんに負けてよかったね」


「ッ、うっせぇスよ……!」


「うるさくないよ、事実だ。――キミはとにかく自力を上げて、巫装に認められる人間になること。それまでは、仲間に戦闘をサポートしてもらうことだ」


「くっ……!」


 俺と違って蘆屋は頷かない。ただ、「大陰陽師・蘆屋の血筋のオレがなんでッ……」と一人ぶつぶつしていた。


「で、最後に真緒くん。キミは……うん。大妖魔『フランケン』に身体をいじられたせいで、異質な状態になってしまった。そのうえ、ヤツの妖気の残り香まで漂っている」


 ゆえに、遠巻きにする者は多いだろうと清明さんは語る。


「だから、キミの戦闘は危なっかしかった。周囲に煙たがられていることと、自分への嫌悪感からかな? 普段は身体を大事にしてるのに、戦闘になるとになる節がある。そこが欠点……だと思ってたが」


「大丈夫です」


 真緒は、強く頷いた。清明さんを真正面から見つめる。


「……こんな自分を、恥ずかしいくらいの言葉で認めてくれたひとがいますからね。その恩を返すまでは死にませんよ」


し。ならばキミは、仲間二人を献身的に支えてくれ。その『体質』の利用をお願いすることもあるけど、構わないね?」


「はい、ではさっそく」


 体質とは何のことか?

 首を捻る俺を横目に、真緒はなんと自身の親指を強く噛んだ。そして溢れ出した血を、カラの湯飲みに入れていく。


「はい、蘆屋くん飲んで」


「うげッ!?」


 なんと真緒は自分の血を蘆屋に差し出したのだ。

 え、どゆことー? 教えて蘆屋くん。


「ってオレに聞くのかよ!? ……あー、こいつは妖魔フランケンの『不死化実験』の生き残りでよ。傷の治りが早い上、体液を飲ませた相手にもその特性を一時的に発揮させるんだと」


 へーっすごいな。でもそれより。


「真緒、親指痛くないか? 無理するなよ」


「っ……うん、ありがとうシオン。あはは……僕の体質を聞いて、引くよりも先に心配の言葉かぁ……!」

 

「当たり前だろ」


 お前は俺に優しくしてくれた上、九尾にご飯を与えてくれたみつぎ友達だからな。


 ――そう言うと真緒はなぜか表情を何とも言えない具合にさせたが、最終的には笑ってくれた。よし。


「……ちなみに、真緒くんの血は妖気を帯びててね。生涯で一定以上摂取すると、『妖魔化』しかねないという研究結果が出た。それゆえ蘆屋くん、あまり怪我して真緒くんのお世話になりすぎないようにね?」


「ケッ、わかってますよ清明サン。……こんな妖魔の実験体の血、早々飲まねえっての……」


 ……罵倒じみたことを言いながら血を飲む蘆屋。

 お、これはやり返し案件発生だ。真緒、怒っていいぞ?


「怒らないよ。……ボロボロのカスが玉ちいせぇコト言ってンんなぁって思うくらいさ」


「ンだとメス野郎ッ!?」


 ――しっかり言い返す真緒と、怒鳴り返す蘆屋。

 そのまま二人は顔を近づけ、「は? やるかチンピラ?」「犯すぞクソメス?」と罵り合いながら食堂から出て行った。

 おー。真緒はすっかり前向きでる気だし、蘆屋も身体が元気になったみたいだな。よし。


「お互いを高め合う、いいちーむってヤツだな! うむ!」


「……シオンくん。あの二人見てそう思うのはキミくらいだと思うぞ?」


 呆れながらそう言う清明さん。

 つまり俺は限定品ということで、とっても嬉しく思いました。


 

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