第12話
「シ、シオンさん。ご飯なに食べますか!? 奢りますよッ!?」
「清明さん、その態度やめてくれ。アナタこそ俺の恩人なのだから……」
俺と真緒と清明さんは、屋敷内の食堂に来ていた。
「ていうかここ、マジで広いな」
白くて清潔でとにかくデカいぞ。
何百人も一気に食べれると聞いていたが、それくらい広いし机も椅子もあるし、真緒の話の通りだな。
「――シオンっ、焼き魚定食貰ってきたよ! これがすっごく美味しいんだ!」
と、そこで。注文台のほうから真緒がやってきた。
両手には俺と自分の分の定食がお盆に。清明さんの分はなかった。
「あれーっ、僕のはー!?」
「手は二つしかないし、清明さんは自分で取って来てよ。……ずっと盗み見してたんだしさ」
「うぐ……っ!?」
そりゃしょーがないと、フラフラと注文台に向かう清明さん。
ちなみに俺の側を通り過ぎる時、「よくやった」と小声で言われた。何のことだ?
「はいシオン、お魚の骨取っておいたよ!」
「おっ、ありがとう真緒。焼き魚は初めて食べるから助かる」
「いいってことよ! 友達だろー!」
ちなみに真緒氏、さっきからすごく元気である。
元気な人が側にいるとこっちも元気になるから良いことだ。
「どれどれ、初めての焼き魚を一口……んっ、旨味が旨い……!」
「あはは、なにその感想。シオンは面白いなー」
おお、面白いのか俺。そんなこと初めて言われたから嬉しいぞ真緒。
あ、そうだ。真緒がほぐしてくれた焼き魚を、九尾にもほい。
『む、どれどれ仕方ない食ってやろうか。あーん……って、ンガッ!?』
変な声を出して固まる九尾。赤い瞳が前を向く。
その視線を追いかけると、真緒がニコニコニコニコニコニコニコニコ――ッとすごく上機嫌に微笑んでいた。
ん、なんだなんだ? 綺麗な笑顔じゃないか。なんで九尾は固まったんだ? ん?
「あははっ、なんだろうなこの気持ちは~……! あぁそうそう九尾さんだったよね。九尾さん用に小鉢に魚の身を分けてあげるから、それを食べなよ。ね?」
『うっ、うむ……そうさせてもらおう』
自分の魚を切り分けていく真緒。
おお……なんて良いヤツなんだ。俺以外にも、九尾にご飯を食べさせてあげたいと思う者がいるとは。
ぶっちゃけ俺だけが養いたいという気持ちもあるが、真緒の偉大な献身の心は評価に値するものだ。
好感度、めちゃくちゃ上昇だぞ!
「……にしても九尾さん、妖魔なのに人間のご飯を食べるんだね」
「ん?」
なぜか真緒が意外そうな顔をしている。え、なんぞなんぞ?
「妖魔は普通の飯を食べないのか?」
「うん。妖魔は元々、負の感情から生まれた存在。人間を傷付けることが前提の生物だからね。それゆえか、普通の食べ物みたいな、
ほほう、そりゃ知らなかった。というか妖魔の存在を知ったの、まだ三日くらい前だしな。
「だから妖魔って、人間の肉しか食べれないんだってさ。それなのに……」
九尾のほうを二人で見つめる。
焼き魚をハフハフッと熱がりながら『これはっ、旨味が……旨味がっ……!』と唸っている白い少女。
うん……なんか俺よりも美味しそうに食べてるな。頬をぱんぱんに膨らませて、めちゃくちゃ笑顔で食しておられる。
『んぐんぐっ……って、なんだ貴様ら!? じろじろ見るな!』
「あぁすまん九尾。妖魔は人間の肉しか食えないと聞いてな」
そう言うと、九尾は手の油を舐めながら『あー』と答えた。
『まぁ確かにそうだな。我も実際そうだったし。ただなぁ、シオンと一つになってからのことだ。浅草で鰻を食っているのを見た時、ふいに美味しそうと思ってしまってな。それから
はぐはぐと食事を続ける九尾さん。とっても美味しそうなご様子だ。
「んーなるほどねー。噂にはなってたけど、シオンが九尾を取り込んだ一件が原因か。魂に人間らしさが混ざっちゃった、ってこと?」
「マジか。それはなんだか嬉しいな」
九尾が俺色に染められたってことだ。
おいおいおいおい……なんだか背徳感にも近い愉悦を感じるぞ。
「ふふふ……九尾、いっぱい食べろよ? たくさん稼いでお前を養うからな? ふふふふ……!」
「わー……九尾さん、シオンにすごく慕われてるね。うわなんだろう、そう考えるとさっきから変なもやもやが……!」
『ってなんだ貴様らーーーっ!?』
俺と真緒に見つめられて九尾が叫ぶ。
――こうして俺たちは、明るく楽しく食事の時間を過ごしていくのだった。
そして。
「――はい注目! キミたち二人の仲間に入れて欲しい子がいまーす!」
ふいに、清明さんが手をパンパンと叩きながら食堂の出入り口より現れた。
はて、食事を取りにいったんじゃないだろうか? そう思っていると……。
「キミたちと友達になりたがってる、
「誰が友達になるかボケェエエエーーーッ!?」
清明さんに続いて現れたのは、全身ボロカスで包帯まみれの青年。
――数時間前に俺と戦ったチンピラの、蘆屋だった……!
あっ、ということは!
「よく来たな蘆屋っ! というわけで巫装展開ッ、【
“ッッッ~~~~!!!”
また会ったな、
「って勝手に人の巫装を展開するなっ!? 【喰密刃】も出てくんなやッ!」
蘆屋がなんか叫んでるがどうでもいい。
俺は刃を抜き、ミッちゃんも拳を構えると、俺たちは激突を開始したのだった――!
「やめろぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!?」
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