5・海は広い。

怒りの眼でこちらガンをつける。


『お前みたいなぁ!』


|紛い物が調子こいてんじゃぁァ!ねぇぇヨぉ!!|


サメが一喝をした。


『...は?...』


私は、魚人では、はない。じゃあ何、何者...

汚、お染された土とみ、水神が私を復、活...?


......じゃあ、なんで、生きて、る?


『その馬鹿みたいな脳でも理解できるように言うぞ!お前は魚人じゃない!!

 ただ死んだ人間がただ復活しただけだ!!勘違いもほどほどにしろ!!

 この鈍物がァァ!!!』


パ”キ”ーン”!!

その瞬間、目の前の海が深海のようにブラックホールの黒色になった...


遠くなる人格意識、眠りに近づく睡眠欲、恋人を求める性欲

食に貪欲になる食欲、財の安心を求める財欲。


それらが、深海へポコポコと泡になって私を残して消えていく。


そうだ。死んだ。一度。



1952年 11月 3日


いつものように網を回収していた。

海はあの時綺麗だった。

朝日が地平線を照らしている時間だった。


突然網から1匹、ニホンにいる錦鯉のような綺麗な魚が釣れた。


不思議に思った。川魚がなぜ海にいるのか。

なぜこんなに綺麗なのか。


可哀想だから、魚を海に返そうとした。

けどその時に私の運命が決まった。


魚が私を噛み海に引きずりこんだ。

必死になって水中を泳いだ。

けれども魚の方が強かった。


泳いでも、泳いでも、どんどん暗くなる。

結婚したばかりで、妊娠していた妻と子供の為にも死ぬわけには

いかないと思ったが、そんな思いも悲しく死んだ。


最後に見た光景は、土と禍々しい光だけだった...

私は死んだ一度。

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『....ぉ、ぉぃ、おぃ、おい、オイ!!聞いてんのか!』


まだ居たんだ。サメ。


『ああ、聞いているよ。サメ。そういえば私は人間だったな。』


サメはもう怒ってはいない。


『...お前がようやく人間であった事がわかったか。

 お前は最後の被爆者で神でもあるんだ。

 あの日死んだお前を蟹たちが運んできたんだ。』


『それはぁありがたいな。僕はもう気づいたからいいんだ...』


もう目の前は白い壁が見える。


持っていた槍を離す。これはもう私にはいらない。






















 

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