第6話
カティアが13歳になると穏やかだった日々は一変する。
カティアの母が亡くなったのだ。元々心臓が悪くて身体が丈夫ではなく、カティアが生まれて以降は寝込む事が増えていたが、遂に家族が見守る中息を引き取った。
母の葬儀には疎遠だった母の家族も来たけれど、他家に嫁に行った母にはさほど関心は残ってなかったのかさっさと帰ってしまった。だが、もっと酷いのは父だ。顔すら出さなかった。会ったこともない父だが、例の恋人との間にカティアと年の変わらない子供がいると聞く。そっちを優先して妻の葬式に来なかったのだ。
祖父母は激怒していたし、わざわざ顔を出してくれたウィリアムも「自分の妻が亡くなったのに顔も出さないなんて、どういう神経をしてるんだ」と常に冷静な彼が珍しく怒りを露わにしていた。
「あいつはもうダメだ、ワシらに何あったらカティアがどうなるか不安で仕方がない。近いうちにカティアの婚約者を決めなければ」
カティアの体温が一気に下がった。婚約者が出来て仕舞えば、講師とはいえ男性であるウィリアムと2人きりになることは許されない。いつか来ると思っていたが、こんなに早く来るとは思わなかった。
顔色の悪くなったカティアをウィリアムは心配してくれたけど、曖昧に誤魔化した。この恋心に終止符を打つ時が来てしまったのだ。
母が亡くなって暫くの間は祖父母が王都に滞在してくれていて婚約者探しは落ち着いたら、と言っていたのでカティアは思いの外落ち着いて過ごせていた。ウィリアムも相変わらず講師として来てくれていて、カティアは寧ろ残り少ない時間を有効に使おうと決め積極的に彼に教えを乞う日々が続く。
そんなある日、ウィリアムが長期で遠征に行く事が決まった。隣国との国境で発生した大量の魔獣の討伐に向かうのだという。いつ戻って来れるか分からないと言われカティアは泣いた。
我儘を言わず、大人しかったカティアの変貌にウィリアムは狼狽えていた。祖父母はカティアの気持ちを分かっているからか、無理に止めることはしなかった。
オロオロするウィリアムは鞄の中から何かを取り出し、しゃがんで目線を合わせるとカティアに手渡す。
それは蝶々の形をした髪飾りだ。渡されたカティアの涙が止まる。
「なんですか、これ」
「俺が作った使い魔を擬態させた。カティアと契約すれば、何かあった時に手助けをしてくれるし俺とも連絡が取れる」
カティアが何かいう前にウィリアムが呪文を唱え、カティアの手首に薄らと鎖状のあざが浮かびすぐに消える。
「これで契約完了、こいつが俺の代わりにカティアの近くにいる。だから泣き止んでくれ」
そう言ってまた頭に撫でてくれる。やっぱりウィリアムにとって自分は妹と同じなんだと悲しくなる一方、離れていてもウィリアムが近くにいてくれるように思えて、とても安心した。
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