第5話



カティアがウィリアムと出会ったのは8年前。


この国の人間は大なり小なり魔力を持ち、貴族に生まれたものなら須らく魔法が使え、使い方を学ぶ。10歳になるとどの属性の魔法が使えるかを鑑定して貰うのだが、カティアは魔力量は膨大だが魔法が使えなかった。身体にその膨大な魔力がうまく循環せず、魔法として体外に放出することが出来ないのだ。


これを知った祖父母はあらゆる伝手を使い、若いながらも優秀な魔術師を講師として招いた。


やって来たのは小豆色の髪に若草色の瞳を持つ青年だ。背は高くヒョロリとしているが、髪を伸ばしすぎて目にかかっているせいで陰鬱な印象を受けた。


最初はビクビク怯えていたカティアだったが、青年…ウィリアム・バルドは地方の男爵家の次男で素っ気ない話し方だが教え方は丁寧、要領の悪いカティアに苛立つことなく根気強く教えてくれる。


学び始めて半年近く。やっと魔法を使うことが出来た時は心なしか身体がポカポカした。魔力が全身を巡るとこうなると聞いた。燻っていた魔力を放出することに成功したのだ。


喜びを露わにするカティアの頭をウィリアムは撫でてくれた。


「よし、その調子だ。風属性をある程度使いこなせるようになったら次は一般魔法だ」


一般魔法とは手を使わずに物を動かしたり、身体の一部を硬くしてダメージや怪我を軽減するといった生活する上で役に立つ魔法だ。貴族の殆どは属性魔法よりこっちを使っている。


属性魔法、火、水、風、土、雷を使いこなせる者は魔術師を志すし希少な光属性、治癒魔法を使える者は治癒師になる。膨大な魔力を持つ者の中には軽い怪我なら治す事が出来る者も居るらしい。カティアは光属性にも治癒を扱う者にも会った事がない。


魔術師を志すなら会う機会もあるかもしれないが、カティアは跡継ぎだからその道はない。そもそも魔術師になる為の胆力や技術力はないと思う。


カティアはほんの少し、魔術師を目指せばウィリアムに教わる期間が長くなるかもと邪な考えが過ぎる。


7歳上だというウィリアムはカティアを妹のように可愛がってくれる。しかし、カティアは兄のように慕ってるわけではない。


祖父母はカティアの仄かな気持ちを見抜いているようで、「ウィリアム殿はいつまでも来てくれるわけではないんだよ」とやんわり釘を刺される。


いずれ祖父母がカティアの婚約者を決めるだろう。いくら腕の立つ魔術師であっても地方男爵家の彼は選ばれない。


だからカティアはこの気持ちが育たないように、水を与えない。ウィリアムもこんな子供に好かれても迷惑だろうし、その肩書きにふさわしい相手と結婚する。


その時が来るまでは教え子と教師としての時間を過ごしたい、と願う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る