第3話



「嫌なこと思い出させないでちょうだい!王太子殿下も第二王子も、皆私に見向きもしなかったのよ?私のお母様が平民だからと見下してるのよ、王族だろうと公爵家だろうとあんな性格の悪い男達はこっちから願い下げよ!」


可愛らしい顔は憤怒で歪み、フーフーと息が荒くなっている。相当に腹の立つことを思い出したらしい。


狙っていた王族、高位貴族の令息に軒並み相手にされなかったのだ。カティアに言わせればニナの外面に騙される人間は馬鹿だ。国を担う人材はそんなに愚かではなかったと言うこと。


「まだヴァイス王弟殿下に会ったことはないけど、引きこもりの人嫌いで変人だって有名だから彼は無しね」


(向こうだってニナは願い下げだわ)


社交の場にほぼ出ないカティアでもヴァイス殿下のことは知ってる。国王陛下の年の離れた弟で膨大な魔力を有し、魔術師として超一流にも関わらず王都の外れにある屋敷に籠り魔術の研究をしているという。醜いから人前に出ない、逆に美しすぎて苦労したから引き篭もってるとか色んな噂が流れてる。


会ったことのない王弟殿下については置いておいて。ニナがダニエルに手を出した理由が分かってきた。


(ニナと婚約してくれそうな高位貴族の令息がもう居ないのね。プライドの高いニナのこと、伯爵家以下に嫁入りするのは耐えられないはず)


だからこそ姉の婚約者を奪ったのだ。ニナに甘い父に頼めば、あっさりとカティアから自分に婚約者と跡取りの座を譲ってくれると見込んで。


「…一応聞くけどお父様は何て」


「勿論承諾してくれたわよ。お父様は私がお嫁に行かずにずっと家に居てくれた方が良いんですって。あ、お姉様の嫁ぎ先も今選んでくださってるわ。ダグール伯爵の後妻なんて良いんじゃないかしら、お姉さまにピッタリよ」


(60過ぎのご老人じゃない。その上女好きで特殊性癖があるって有名な)


予想通りというか、父は金を持っていてカティアを不幸にしてくれそうな人間に売ろうとしてるようだ。


あんな父でも当主なので決定は絶対。婚約者と跡取りの変更は免れないだろう。


(…意地になってここまでやってきたけど)


急に虚しくなってしまった。努力したところで、ニナの一声でカティアの運命はどうにでもなることを理解してしまう。


もう話すことはない、とカティアは騒ぐニナを無視して部屋を出て行った。




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