第109話樹。帰ろう。

樹君はボロボロになっていた。背中は汗でびしょびしょ。顔は汗と涙でぐしゃぐしゃ。手足は少し、浮腫んで見えた。


「樹。もう帰ろう⁈」


陽翔君は樹君の腕を握って、立たせようとする。朝陽君も樹君に力を貸して立たせようとする。たった、樹君を樹君の自転車に乗せて、右に朝陽君。左には陽翔君が自転車を挟み、両側から押さえる。少しずつ、少しずつ自転車を押して行く。


「樹。掴まってられるか? 足車輪に挟まれない様に気を付けろよ!」


「僕達が押して行くから、少し、我慢していてくれよ」


陽翔君に続き、朝陽君も樹君に声を掛けて行く。


「うん」


樹君の声。朝陽君は自転車を持って押しながら、考えていた。新葉の言った言葉が頭をよぎった。


『朝陽君。陽翔君は良い子だよ。一緒に仲間に入って欲しい。一緒に友達になってくれないかな?』 樹君にも言われた言葉がある。『心地良さを知ってしまったから、元に戻す事は出来ない』と、陽翔君は裏切る事は無いと新葉に言われた事を思い出していた。その通りだった。朝陽君は恥じた。意地を張っていただけなのかもしれないと! 陽斗君と壱平君に悪い事をしてしまったと反省をしていた。


「朝陽君。どうかした。疲れた。ポーっとして、心ここにあらずって感じだね?!」


静かになってしまった朝陽君を陽翔君は心配して聞いたのだった。朝陽君は首を横に振ると、笑顔で答えた。


「大丈夫。何でも無い。ただ、思い出していたんだ。新葉君が言った事を! 新葉君は言うんだ。陽翔君は良い子だ。陽翔君は良い子だってね。そしたらね。陽翔君は本当にいい子だったんだ。どうしよう。僕が陽翔君の友達になったら、どうしよう。きっと、僻まれちゃうだろうなー。どうしようかな? 僻まれるのも嫌かな!⁇」


陽翔君は朝陽君の言う事に聞き耳を立てている。朝陽君は少し、勿体ぶっている気もするし、構っている様にも見える。


「陽斗君や壱平君も僕達に帰って来て欲しいみたいだしなー。いつまでも、仲違いしているのも大人気無いしなー。戻って仲直りしてあげようかな!」


「てっ、事は僕達とも、だよなぁ!」


一緒に帰る三人には白い歯が見えていた。

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