第108話先生には会えなかったんだ。
樹君は寝そべっていた足を下に下げ、長椅子に座り直した。
「杉浦先生には会えたのかい?」
陽翔君は聞いて真相を探る。
「!」
樹君は下を向き、黙り込むが少し、顔を上げると話し始めた。
「先生には会えなかった。顔は電車越しにチラリと見えたが扉は直ぐに閉まり、電車に乗って行ってしまった。僕の事は分からなかったと思う」
再び続けて話す樹君。
「朝、先生が乗るだろう電車に乗って、話を聞こうと思ってた。所が学校へ行く方角とは別の電車に乗り込んだんだ。おかしいだろう。先生は何処へ行くんだ。僕達に何を隠しているんだ。俺は先生の乗って行く電車に乗り込もうとしたけど、不意を突かれただろう。間に合わなかったんだ!」
樹君は悔しがった。
「樹君」
朝陽君は樹君の肩に手を置き、励ました。
「俺は自転車で出来る限り、走った。間に合う筈の無い電車を追って、先生を追って俺は走った。朝陽君。ごめん。俺は何も出来なかった!」
樹君の目には涙が溢れていた。
「うぅ。あーあー。うっ」
樹君はその場に泣き崩れるのだった。陽翔君ももう片方の肩に手を置き、慰めた。
「泣かないでくれ、僕が君に頼んだ。悪かった。君は良くやった。悪いのは僕だ。君にこんな思いをさせて悪かったね」
朝陽君は謝罪する。樹君は首を横に振り、涙を手首で拭う。
「樹。お前、先生の事を気にしてくれていたんだな。だけど、駄目だ。それはお前だけの問題では無い。クラスメートの問題でもある。何より、クラスメートの問題は僕の問題でもある。なのに僕は置いてきぼりか? 僕に回せよ。一人で苦しむな! 僕に頼ってくれても良いだろう。僕はそんなに頼りないか?」
陽翔君は樹君の頭をぐちゃぐちゃにする。
「!」
樹君は顔を両手で隠し、首を横に振る。
「樹君。ここまで走って来たんだね。足が痛いだろう。疲れたよね。頑張ったんだ。偉かったね!」
朝陽君は樹君の足の状態を見て、激しく動揺する。
「樹。この杉浦先生の問題はクラスメートと僕の問題として処理する。良いな?」
陽翔君は胸を張って、毅然とした態度で言った。
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