第105話陽翔君と朝陽君の接点となる話。

バスから降りてからの二人は速足になったり、小走りになったりしながらも着実に樹君の家へと向かっていた。


「所で、樹を何故解放しない。あいつは檻の中では暮らせない奴だ。放ってやってはくれないのか? 君達は一体何を隠しているんだ。樹は杉浦先生の何を追っているんだ。樹は先生の何を追っているんだ。君がやらせているんだろう。あいつは単純な奴だ。こんな事を一人で考えて行動するなんて出来ないだろう。朝陽君。君なんだろう。樹に何をさせているんだ。で、なけりゃあ樹が大人しくしているとは思えない。隠れて何を?」


「何故、僕だって思うんですか? 樹君が自分で気になったから動いたっておかしくは無いじゃ無いですか?」


朝陽君は足を少し、緩めて陽翔君に答える。


「君がそう言う人間だからだ。君は覚えているだろうか? ずっと、幼い頃の話だ。ある日の事、僕が母さんと兄さんの三人で買い物に行く途中でやっぱり、僕と同じで母と兄弟でいた家族がいたんだ。その兄弟はずぶ濡れになって兄の方が子犬を抱えていたんだ。その母親は兄弟に怒鳴り付けたんだ。ずぶ濡れになっている事。犬を抱えている事。川に入った事。迷子になった事。怒っていた。当然母親だから、起こるのは当然だ。川に入って子犬を助けようとして、もし、兄弟に何かあったら大変だ。だから、心配もするだろうし、怒りもするだろう。けど、兄の方が言ったんだ。『僕はやめろって言ったんだ。なのにこいつが川の中にどんどん入って行くから、兄としては放って置けなかったんだ。助けるしか無かった!」って、その兄がそう言ったんだ。そうしたら、その母親が言った。『あんたがお兄ちゃんをそそのかしたのね。やっぱり、そうだった。お兄ちゃんに何かあったら、どうするのよ。頭が悪いから、そんな事も考えられないのねこの子は!』『パシっ』その母親は弟を叩いたんだ。『そんな汚い犬どうするつもり、早く捨てて来なさい。全くあんたって子は何処まで、馬鹿なの。お兄ちゃんを危険にしてああ、あんたって子はいない方がマシね!』と、言ってその母親は弟に散々罵倒し続けたんだ」


陽翔君の症状は曇って行った。

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