第102話結愛ちゃんの不安。
樹君が口をつぐんでからと言う物、まだ話をしていない。あれ以来樹君はまた、静かな人間になってしまった。元に戻るだけだった。ただ、樹君が先生の様子がおかしい事を言っていた事だけが、頭の隅に残っていた。樹君のたった唯一のメッセージだった。樹君が気掛かりにしていた事、それを僕は気にせずにはいられない。担任の先生の事を気にしているのは僕と樹君だけでは無かった。それは女の子達の纏め役である岩波結愛ちゃんだった。朝学校で皆んなが自分の席に着席している時の事だった。いつもの様に先生が入って来て、挨拶をする。また、今日も自習になるのかと心配した結愛ちゃんは思い切って口に出す。
「杉浦先生。今日も自習ですか?」
「へっ、いや。今日は普通に授業するぞ。どうしてそんな事聞くんだ⁇」
「!」
「あっ、そうか。悪い。そうだよな。ここの所、いつも自習ばかりさせてしまったね。悪かったな。ある事情で時間を割いてしまった。悪かったね。だが、もうその件は落ち着いたんだ。今後こんな事がない様にするよ!」
杉浦先生は皆んなに謝罪をした。
「そう何ですね。これからは普通に授業をしてくれるんですね。良かった!」
結愛ちゃんは一安心した様に胸を撫で下ろす。
「さあ、授業を始めるぞ!」
杉浦先生はいつに無く。元気な様子で授業を始めた。きっと、僕達の取り越し苦労だったのかも知れない。樹君もきっと、安心しただろうと僕は思った。
「先生。やっぱり、私は先生の分かりやすい授業が好きです。今日は先生の授業が受けられて嬉しかったです。有難うございました」
結愛ちゃんは授業が終わると杉浦先生に直ぐに感謝の言葉を笑顔で述べた。
「こちらこそ、嬉しい言葉をありがとうございます」
杉浦先生は直ぐに言葉を返した。他の生徒達も一安心する。僕は樹君もきっと、一安心しているんだろうと樹君の顔を見る。だが、樹君は険しい顔をしていた。疑う様な目をしていたのだ。何を疑う事があるのだろう。不思議な感覚に苛まれた。樹君はこんなにも疑い深い人だったんだと僕は思った。
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