第5話 王妃

 その晩は、結局5回くらいはしたんじゃないだろうか。正直、回数はよく覚えていない。レオが一度も、性器を私の中から引き抜かなかったからだ。


 だから、朝起きて起き上がったときに、ずるりと彼のものが私の中から出て行った瞬間、そこから彼の放った精がポタポタとあふれ出してきたので、思わず声を出してしまった。レオを起こしてしまったかと思ったけど、彼はピクリとも動かず死んだように眠っていた。昨日あれだけ運動したから、体力を使い切ったのだろう。疲れ果てたコドモのような寝顔が可愛くて、彼の頬に自然とキスしていた。


 浴室でお湯を浴びてから戻っても、まだ彼はグーグー寝ていた。起こすのも忍びなかったので、手持無沙汰にベッド脇の本棚やデスクを物色していると、分厚い皮の表紙の本を見つけた。

 なんだろうと思ってページを開くと、どうやら王宮での経費に関する帳簿らしく、品目や仕入れ先、金額の数字などが並んでいる。経理の仕事をしていたこともあり、別の世界の帳簿がどんなものかという好奇心からペラペラめくって眺めていると、どうしても、元の世界での感覚がうずきだしてしまう。


――ここの数字怪しいなぁ。ここも在庫数が曖昧過ぎ。…ん?どちらも同じガリアスって人が担当者じゃん。


 チェックし始めると、止まらなくなった。私はデスクの上に投げ出されていた羽飾りのペンを手に取り、怪しい数字のチェックと出納帳との照合を始めた。


――それから2時間くらい経っただろうか。

 あらかた怪しい数字の洗い出しが終わったところで、レオが目を覚ました。寝ぼけた様子で周囲に目を配り、ベッドの上をまさぐって、隣に寝ているはずの私を手で探しているのがなんだか可愛い。やがて私の不在に気づいたようで、不審そうに目を開けて体を起こしたレオは、帳簿を抱え込んでいる私の姿を見つけると、ぽかんと口を開けた。


「……何やってんだ、朝っぱらから」

「おはよー王様。よく眠れた?」


 ひらひらと手を振ると、レオはあきれたように目をこすりながら、ベッドから降りて近づいてくる。


「昨夜の余韻にひたるとか、朝もう一度とか、そういう発想はないのか?」

「いや、ちょっと早めに目が覚めて、頭がさえちゃって」

「あれだけ熱い夜を過ごしたのに?」


 からかうような甘い口調で後ろから肩を抱きしめられて、私は思わず吹き出してしまう。


「やめてやめて、むず痒い」

「なんだこれ。…王宮の帳簿?」


 肩越しにデスクをのぞき込んだレオは、ここで初めて私が熱心に読んでいたものの正体に気づき、訝しそうに顔をしかめた。


「なんでこんなものを?」

「ちょっと気になって読み始めたら止まらなくなっちゃって。ねぇ、ここの数字ってレオが管理してるの?」

「いや、細かい点は会計担当の官吏に任せてる」

「……それって、まさかガリアスって人?」

「なんで知ってるんだ?」


 驚いた声をあげるレオに、慌てて帳簿で不審な処理がいくつもあること、そのほぼすべてにガリアスの名前が記されていることを告げると、レオの顔色がさっと変わった。


「……すぐに補佐官を呼ぶ」

「あ、待って!不正が始まったのは最近のことじゃないと思う。ここ10年くらいの帳簿をさかのぼって持ってきて」

「あ、ああ…わかった」

「ついでに信頼できる補佐官をひとり貸してくれる?手分けして作業して、今日中に糾弾資料をそろえよう」


 レオはまじまじと私を見つめていた。その目つきは、なんとも言えず、楽しそうというか、嬉しそうに見えた。


「…なによ?」


 帳簿をチェックする手をとめて軽くにらみつけると、レオはおかしそうに笑いだした。


「あはは…!」

「な、なに!?なんで笑ってんの?」

「いや…おまえ、だって……おかしくて…」


 レオは涙を流しながら笑って、それから見たこともない笑顔を見せた。


「おまえが来てくれて、よかったよ」


 思いがけない言葉に、一瞬思考が停止する。次の瞬間、うれしさと恥ずかしさが押し寄せてきて、耳が熱くなる。


「……ようやく私のありがたみがわかったみたいね!じゃ、早く過去の帳簿持ってきて!」

「はいはい、──王妃様」


 もしかしたら、レオが思い描いていた形とは少し違うかもしれないけど、私たちは良い「伴侶」になれるかもしれない。鼻歌を歌いながら着替えているレオの横顔を見つめて、そんなふうに思った。

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ナマイキ年下王子様と、疲れた異世界召喚OL @akagawayu

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