第3話 形勢逆転
メイドたちに全身をくまなく清められ、バラのような良い香りのするオイルを全身に塗り込まれ、ひらひらのネグリジェ的なナイトドレスを着せられて、私は最悪な気分でベッドの脇に座っていた。
この世界にもお酒があって本当に良かった、と私はグラスの中の液体を飲み干す。ウォッカのように癖のない透明なお酒で、アルコール度数も高そうだ。心地よく酔いが回ってくるのを感じながら、私は透け感の強いレースのドレスを着た自分の全身を見下ろす。若いころはグラマーといわれることもあったが、36歳にもなるとおなかのまわりにうっすらと脂肪がつき、少々だらしない体つきになっている。
この体で、自分の息子といってもいい年齢の見目麗しき少年王と寝るのかと思うと、若干気が引ける。しかし、相手があのクソガキとなれば、もはや自分の体形などどうでもいい。一刻も早く終わってくれ、と祈るのみだ。
次の瞬間、ノックもなく寝室の扉が開いた。ラフな寝間着姿の少年王が、乱暴な足取りで入ってくる。私は深いため息をついて、グラスを置いた。
「…なんだそのイヤそうな顔は。王のお渡りだぞ」
不満げに言うレオをちらりとにらみ、私はもう一度ため息をついて見せる。
「あんたと同じように、私も逃げられるものなら逃げたいってこと」
何かしら言い返されることを予測していたが、思いがけず彼はぽつりとつぶやいた。
「……ある意味、俺らは同志かもな」
「え?」
「生まれたときから王太子で、やるべきこと、やらなきゃいけないことをやるしかなかった。せめて生涯の伴侶くらい、自分の手で選びたがったが…」
――突然、彼がいたいけな18歳の少年に見えた。まだ、恋も満足にしていないだろう。さらに若くして両親を亡くし、身に余る大きな責任を否応なしに負わなければならなかった。そんな彼の唯一の願いが、「愛する人を王妃にすること」だったとしたら…。
私は思わず、彼の手を握っていた。驚いたように、深いブルーの瞳が揺れる。自分だけが被害者、みたいな態度を取り合っていても仕方ない。ならばせめて、自分の半分も生きていないこの少年に、ある程度人生経験を積んだ先輩として、優しくしてあげたい。
「お互い、この夜を乗り越えよう。せめて悪い思い出にはならないように」
「……」
「無視かよ、クソガキ」
「うるさいな、生意気だぞ!」
「それはこっちのセリフ」
結局言い争いになったが、それでも彼は先ほどよりは多少気の晴れた顔で、ベッドに近づいてくる。上着の襟元からのぞく首筋は骨が浮き出るほど細く、まだ子供の体つきだ。
「くそ、早く済ますぞ」
さもイヤそうな顔つきの彼を見ていると、ついからかいたくなる。
「まさか童貞じゃないでしょ?やり方、わかる?」
「そんなわけないだろう!」
ムキになって言い返してくるあたりがいかにも子供っぽい。
「どんな若い美女ともやり放題のこの俺が、何が悲しくてこんなババアと…」
ぶつぶつ文句を言いながら、それでもクソガキはガバッと服を脱ぎ捨て、ベッドの上にのしかかってきた。どうやら、ちゃんとやることはやるらしい。私はつい笑ってしまう。
「とか言いつつ、やる気満々じゃん」
「……これも義務のうちだからな」
言い訳するようにつぶやいて、不意に口づけられた。私はちょっと驚いて、体が硬直してしまう。
「…何固まってんだよ」
ゆっくりと唇を離した彼が、気まずそうに視線を逸らす。正直、キスされるとは思っていなかった。いきなり恥ずかしくなってきて、顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。クソガキが、まじまじとそんな私をのぞき込んでくる。
「なんだ、おまえこそ赤くなってんじゃねーか。その年で処女じゃないだろうな?」
「……正直、久しぶりなもので」
思わず素直に申告すると、ちょっとだけ彼の目つきが優しくなった気がした。キスされながら服を脱がされる。自然と彼の股間に手を伸ばすと、「うわぁ!」と彼が焦った声を出した。
「な、なんだよ?!」
「いや……そういう流れかなって…」
相手の過剰な反応に驚いていると、クソガキは恥ずかしそうに手の甲で頬をこすった。
「女は、そんなことしなくていいんだよ」
――そういわれると、名目上は男女平等が実現されて久しい“地球人”の血が騒ぐ。
「まぁ、ちょっと任せてみて」
「へっ?うわ…」
私は問答無用で彼の下着を脱がせて、すっかり立ち上がっているものを優しく手でこすり、その先端に口づけた。
「うわぁ!!!ちょ、ちょ…」
「だまって」
慌てふためく彼の反応を楽しみながら、私は全体に舌を這わせていく。あんなにこちらをバカにしてきたクソガキが、今や私に翻弄されていると思うと、年甲斐もないけどめちゃくちゃ爽快だった。
「バカ、やめろ、そんなとこ…あっ!!」
たっぷり唾液をすりつけるように彼の全体を舐め回すと、クソガキは面白いくらい体をピクピクさせて反応する。快感に必死で抗っているようだけど、無駄なあがきだ。若い体が、どうしようもなく興奮しているのがよくわかる。
口の中にすべて収まるようにくわえ込むと、たまらず彼は可愛い声を上げた。
「ああっ…ダメだ、やめろ!!あ…ダメだって……んあっ!」
私はわざとチュプチュプと音を立てながら彼のものを吸ってやる。そして舌の先端で、鈴口の一番敏感なところを突っついてやった。
「ふあぁぁ…!」
我慢できない、というように彼は身をよじり、ものすごい力で私を引き離した。快感の涙で、深いブルーの瞳が濡れている。荒く息を整えながら、信じられない、という顔でクソガキが私を見つめている。
「い……今のはなんだ…」
「何って、フェラですよ、フェラ。フェラチオ。知らないの?」
つい先ほどまで「俺様はヤリチンだぞ」自慢していたとは思えない、情けない表情を見て思わず笑ってしまう。しかし、「フェラと言われても何が何だかわからない」とますます混乱する彼の姿を見ているうちに、状況がわかってきた。どうやらフェラというものは、この世界には存在しない「テク」のようだ。
「…いやだった?」
「嫌と言うか……とにかく驚いた。女というものは、おとなしく寝ているものじゃないのか」
耳まで赤くなった少年王が言い訳がましくまくしたてる姿が、なんだかかわいらしく見えてきた。
「意外とあんたも可愛いところあるんじゃん」
ニヤニヤ笑う私を、深いブルーの瞳が見上げる。
「あんたじゃない。レオ、だ」
「え?」
次の瞬間、私はレオに押し倒されていた。――形勢逆転だ。
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