第3話「病人と 俳句俳句で なじむなり」(夫の介護)

  病人と 俳句俳句で なじむなり (小松栄子・2014年)


 これは義母が初めて北米伊藤園新俳句グランプリで月間入賞した作品だ。その頃彼女は、自分が見張っていないと夫が薬漬けにされてしまうからと、リハビリ・センターに入院した夫に朝九時から夜八時まで連日付きそっていた。ブロークン・イングリッシュで何かと文句をつける日本人の老女を、看護士は煙たがっていたが、次第にミセス・コマツは常勤の看護士よりも長時間労働をして夫の面倒をみていると有名になり一目置かれるようになった。


「そんなに無理をすると体を壊しますよ」

 と言っても、一人でアパートにいても寂しいだけだと、三度の食事も疎かにして病室につめていた。そんな生活の中で詠んだこの句には季語がない。


<まだよくわからない俳句について、混沌とした世界に入ってしまった夫を相手に、俳句のことを語りあううちに、いつの間にか句ができていた>


 そんな情景を詠んだという。かつて色んなことを自分に教えてくれた夫に、俳句に興味を持ったことを伝えようとする義母のけなげさが出ている。

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