30 3番目の男

 ミフルーがチャンネル登録を解除しようか迷い始めた頃、3番目の男が動いた。常に全力のこの男。水場の主として君臨はすれど、飽きてしまった。


 水も合わない。

 2週間ほど住んではみたものの、毎日が腹痛日和。


「腹がイテェ……」


 彼は決意した。

 先へ進もうと。

 決意がオセェ。


 しかしそれは仕方のないこと。貴重な水場である。水はいつ手に入るか分からないのだ。3番は初級魔法を習得していないことを後悔し始めていた。しかも金銀財宝もすら諦めざるを得ない。

 袋は手に入れた。襲い来る魔物のものをいくつか確保している。しかし、しかしだ。そこに入れるものは、水以外ありえないことは脳筋でも分かることだった。


「クソがぁ」


 テメェが持って来い。そうアースドラゴンに言うものの、ドラゴンは動かなかった。ドラゴンには守るべき隠し財宝があるためだ。自分だけのキンピカ。他のものには譲れない。


 3番から奪った魔力を使い、出て行くならさっさと消えろと言わんばかりの、全力全開尻尾ビンタを喰らわせた。崖下に転がり落ちる3番を見て、満足げに鼻息をこぼしたドラゴン。本当のお宝をチェックしたのち、眠りについた。


「クソがぁッ、クソがぁッ! ブッコロスッ……クソがぁ」


 いつも己に元気をくれる魔法の言葉も、しょぼくれたものになっていく。いつの間にか自分より強くなっていたドラゴンには勝てない。

 本能がそう囁いていたからだ。

 脳筋がゆえに、直感を大事にしていた3番目の男は洞窟を進む。


 お互いに若干の仲間意識が芽生えていたようで、眠りにつくドラゴンも、3番にも、一抹の寂しさが背中に漂っていた。だが所詮世の中は弱肉強食。再び相まみえるならば決着を付けてやると、3番もドラゴンも決意していた。


 腹いせにゴブリンの集落を潰し、魔虫の住処を破壊しつくす3番。しばらく進んだところで、風に乗った新鮮な空気に触れた。


「おいおいおい、クソがぁ……外じゃねぇか」


 あの野郎、とドラゴンのことを思い出す。


「導いてくれた、っつーことかよォ」


 あの野郎、とドラゴンの優しさに気付く。

 人は、太陽の下でなければ生きていけないのだから。


「助かったぜ、クソ野郎がぁ」


 胸いっぱいに空気を吸い込む。

 新鮮な果実を貪り喰らう。

 なにもかもが美味だった。


 3番目の男は、いつしか涙を流していた。それは彼の中に感謝の心が芽生えた瞬間でもあった。


 だが──


「山賊?」


 ──やって来る。


「あん? 女ぁ?」


 力がやって来る──


「ボッチの全裸山賊?」


 ──神すら焦らせた力の権化がやって来る。


「へぇ? 村でも有んのか? 案内しなァッ!」


 力こそが全ての源である全力全開の男、欲に塗れた笑みを浮かべて3番が吠える。


「オッケー、山賊ね」


 それに答える力の権化。ボッチの全裸山賊とか、なんのために生きてんだろ。見苦しい。そう呟いた黒髪の少女が、3番目の男を地面に埋めた。

 3番の冒険はここで終わる。


 ここは霊山アー、北西の森。

 ホノカとマイのテリトリー。


「クゥクゥ」

「どうしたの? オモチ。あ、洞窟?」


 追加の山賊がいたら鬱陶しいと、ホノカとオモチは確認するために洞窟へと入るのだった。


 3番は14番坑道をクリアした!

 3番は感謝を覚えた!

 3番はホノカの攻撃で死んでしまった!

 ミフルーは因果応報の言葉を3番目の男に贈った!


 ──GAME OVER──



----------------------------------------------------------------

次話はすぐに投稿します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る