29 ホカホカなのは、お風呂だけのせいじゃないと思う
ご飯とお風呂の準備が終わった頃、ホノカ様とオモチちゃんが帰って来た。
「ただいまー。いやあ、洞窟見付けちゃってさ」
ちょっと覗いてきたんだそうだ。昨日木材を採取した辺り、妖精郷の北西の森だそうだ。
あっちのほうまで行ってたみたい。
「しかも山賊がいたんだよね」
「山賊ですか!?」
「そそ。まあボッチの山賊だったみたいだけど」
ああ、それで洞窟も調べたんだ。なんでも結構奥まで続いてるそうで、全部は調べてないみたい。だけど人のいる気配はなかったそうだ。
山賊は処理したので、もう問題ないそうだ。凄く臭くて、目に毒な感じだったらしい。
「でも少し冒険感があったよ」
「なんか羨ましいですー」
「ね、ね、マイ。明日は洞窟を探索してみようよ。お弁当持ってさ」
「分かりましたっ!」
じゃあ早寝早起きだね、ということで、テキパキお風呂と食事を済ませる。そのあと、収納棚を見てもらった。
「白と黒は高級感があるね。他のは他のでポップな感じだし」
「染色してないのも普通ですけど、悪くないですよね?」
染料がいっぱいあるヤツだけ染めちゃえばいい。そういうことになった。でも一応アリーシャさんに全種類見てもらうのが正解じゃないかということで、次回エゼルテーの街に行くとき持って行くことにする。
「それからみんなに麦わら帽子作りました。外の作業ですので」
「おー、ありがと、マイ。というかローラにスゴク似合ってる件」
「ですよね。でもホノカ様もオモチちゃんもお似合いですよっ」
「マイもねー!」
「ありがとうございます!」
ホカホカなのは、お風呂だけのせいじゃないと思う。
嬉しい気持ち、優しい気持ち、ワクワクする気持ち。色々混ざって、私はとても幸せな気分になれた。
明日のお弁当用のご飯を仕込んでおいて、すぐ出掛けられるようにしておく。メニューは定番のハンバーガー。チーズバーガーにしようかな。それを2食分ずつ用意した。あと松明を。洞窟の中を探索するので、明かりも必要だからだ。
そして翌日。朝食を取った私たちは、さっそく出発することにした。朝焼けが綺麗だし清々しい。しかも私たちはホノカ様が空を飛ばしてくれる。
「ああ、素敵です」
「ね。凄いキレイだ」
空から見る、朝焼けの空。見下ろせば火口湖がキラキラしてるしため息の出るような景色。霊山アーって凄く綺麗な場所なんだなあ。
「あんまり開発するのもよくないですね、この山は」
「確かに。程々にしよう。もしくは森と一体化するような感じかな」
そうなったら隠れ里みたいになりそうだ。
「えっとぉ……目印を置いてきたから、あ、あったあった」
直立する5メートルくらいの岩。それが山肌の側にあった。ホノカ様が素材にしちゃってーって言うので、叩き壊して素材化しておく。岩も使い道が多いから、いくらあっても困らない。
「スパークッ!」
「それくらい私がやりますけど」
「実をいうと魔法は使いたいものなのですっ」
「ちょっと分かります」
初めて使ったときなんて、興奮した覚えがある。ホノカ様は魔法を使えるようになったのが、こっちに来てからだし嬉しい気分になるんだろうな。いつも楽しそうにしてて、それを見るのが私は大好きだ。
レッツゴーというホノカ様の掛け声で、私たちは洞窟の探検を開始した。
「昨日もだったけどさ、オモチがなにかを感知してるみたいで案内してくれるんだよね。昨日は時間も時間だったし、途中で帰ったけど」
だから今日は、オモチちゃんの目的地まで一直線なんだって。
「じゃあオモチちゃん、案内をお願いね」
プゥ~って鳴いたオモチちゃんは、ホノカ様の肩に乗った。いいなあ。って思ったら、ローラちゃんが私を肩に乗せてくれた!
「ええ? いいの? ローラちゃんっ」
頷いたっ。いいみたいだ。
「でも飛んでっちゃうよぉ~」
「はーいっ」
オモチちゃんの指示のもと、ホノカ様のサイコキネシスで宙を移動する。途中の分かれ道や、部屋みたいになってる空間は無視してるな。ちらっと見えたけど骨とかが散乱してた。
「なにかが住んでたみたいですね」
「昨日みたけどゴブリンっぽかったよ」
全部殺されてたみたいだけど。それはホノカ様が昨日出会ったという、山賊の仕業なんじゃないかって思ったらしい。洞窟出口付近で山賊と会ったみたいだし。
「キュキッ」
「ホホッホホッ」
「ん? なにかいる?」
オモチちゃんとローラちゃんが、警戒したような鳴き声を上げた。洞窟の先、崖の上から生臭い臭いが漂ってくる。そしてお腹に響くような低い音、ゴロゴロというなにかの声。
「なんだろうねー」
「か、軽いです、ホノカ様。さすがですっ」
「うん。洞窟の中じゃ、広さ的にも後れを取るサイズじゃなさそうだしね」
問題ないよと、速度も落とさず進むホノカ様。松明を前方に向けると、そこには濡れたような光沢を放つ大きな影。
「あ、やった。美味しいヤツだね!」
「あ、そ、そうですねっ!」
3つに分かれたドラゴンが崩れ落ちた。
お早い。
お強い。
さすがホノカ様だ。あっという間に終わってる。
「さっそく素材化しちゃいますね」
「うん。インベントリに入れないと劣化が始まるしね」
特にお肉の劣化は避けたい。私がドラゴンを素材化していると、オモチちゃんがプゥプゥ鳴いて、指をさしている。あっちのほうになにかがあるみたいだ。ホノカ様は私の作業が終わるまで待とうねって、オモチちゃんに言ってる。
「そうですか? じゃあもう少し待っててください」
「うん。一緒に見たほうがいいと思ってさ。冒険の醍醐味じゃん」
パーティ組んでるなら、パーティで分かち合わないといけないものらしい。分かれて行動するのも危ないと言われた。それは確かに。でもローラちゃんがいてくれたら、だいたい平気な気もするなあ。
「ローラちゃんはさっきのドラゴンに勝てそう?」
ポコポコって胸を叩いて、グッと両腕を上げるローラちゃん。でもそのあと、腕をクロスしてバツ印を作ってパンチのポーズ。
なんだろう?
「壁を崩しちゃうんじゃない?」
「そういえばっ」
ローラちゃんは狭いところじゃ、戦い辛くなっちゃったのかもしれないな。トモダチモンスターになった弊害かも? パンチで壁とかが素材化しちゃうから。
「ということはドラゴンの解体を手伝ってくれる? ローラちゃん」
頼んだらすぐ手伝ってくれた。ローラちゃんもついさっき思い出したんだろうな。パンチでの素材化。だっていつもなら率先してお手伝いしてくれてるし。
「終わりました。ローラちゃんもありがとうっ」
「オッケー。それじゃあオモチ、案内よろしくね!」
オモチちゃんに付いて行くと、そこには金銀財宝が小山を築いていた。
「す、凄い……お宝ですよ!? ホノカ様っ!」
「お待ちなさい、お待ちなさいな、マイ。オモチが上を指してるし」
え? お宝は地面にあるのに? 上になにが?
「なんだかよく分かんないけど、オモチに教えてもらおうよ」
「そ、そうですね……お宝に興奮してお恥ずかしヒィィィッ!?」
な、なに? 首にっ? 取って、取ってくださいホノカ様!
「落ち着いて、マイ! トモダチモンスターだよっ!」
「え? ハッ! は、はいっ」
カウントダウンが20を切ってる。
私は急いでベルトポーチからネクタルを取り出す。
「はい、蛇さん。どうぞ?」
「食べた! セーフ。ギリだったねえ」
トモダチモンスターにするかどうかの選択肢、押したの残り3秒だった。蛇さんは私の首に巻きついたまま、くたぁってなってる。
「だ、大丈夫?」
蛇さんにそう聞くと、私のほっぺを尻尾でピタピタした。大丈夫……ということなんだろうか?
ホノカ様にトモダチモンスター図鑑を見てみようと言われ、タブレットを開く。
この子はメタルナーガという種族で肉食。蓄財の妖精だそうだ。レアメタルを感知してくれるらしい。そしてこの子も女の子。性格は寝ぼすけで怠け者、コソコソしたがる、闇に潜みたがる。そう書かれていた……。なるほど。だから今も私に撒きついて寝てるのか。
「綺麗な蛇だねえ、妖精だったんだ」
「小っちゃくて可愛いです」
「ねっ」
黒い皮の所々、星空のように銀の斑点がある1メートルくらいの蛇、それがこの子の特徴だ。
名付けはいつものようにホノカ様の担当。うーんうーんって唸っている。
「ステラ……うーん、ルクス? いや、ルチア! ルチアにしよう」
光、という意味を持つルクスを由来にした、女性系の名前がルチアなんだそうだ。
「綺麗な名前ですね!」
「でしょう?」
「んふふ、よかったね、ルチアちゃん」
私のほっぺを尻尾でスリスリしたあと、ホノカ様のほうにジャンプして、同じようにスリスリしていた。若干ホノカ様のほうが長い気がする……スリスリ。
な、名付けのせいかな?
嬉しい気持ちの分、もしかして長い?
私も考えるべきだったのかもしれない。でもホノカ様のほうがいい名前を付けてくれるからなあ。
やっぱりホノカ様の名付けのほうがいいかな。
私も凄く嬉しかったし。
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