27 スローライフってさ、目指してるとスロれないね
「やっぱりホノカ様は凄いんだなあって思いました」
「ふぁには? ふぁにはふほいほ?」
朝ご飯を食べて、歯磨きしながらホノカ様のブロック建築を見た私は、改めてホノカ様の凄さを実感していた。
だって昨日の夜に私が作った、おもちゃブロックのトーフハウス……カッコ悪い。
ホノカ様は現実でカッコイイブロック建築をしている。オモチちゃんとローラちゃんのも、人間のセンスではないけど私のよりカッコイイ。
「わ、わたっ、私だけ下手くそで……」
「な、泣かないで、マイ。泣かないでよぉ」
練習したりコツを覚えたら大丈夫って言ってくれた。それにおもちゃブロックだと建材の種類も四角しかないから、しょうがないって。
それでも私が絶望的なのが、私には分かっている。おっきい四角と、小っちゃい四角を組み合わせて、単純なトーフハウスを回避したけど……カッコ悪かった。私のだけ。
「私だって最初はそうだったよ。屋根すらなかったもん」
「えっ?」
「そんなもんだよ」
ブロックで枠を作って、ドアを付けて。窓もなく、屋根もない。藁を敷いただけの寝床。明かりは松明1個だけ。
そんなブロック建築だったそうだ。
「なのにゲームの住人はスッゴイ喜んじゃってさ。私、ヘタクソすぎて嫌になって1ヶ月くらい放置しちゃったんだよね」
だから平気だよって言ってくれた。ホノカ様はみんなを集めて、ブロック建築のコツを教えてくれた。
私たちのお家や、教会。シスター様のお家や、クラフトハウスを見ながら。
「できてる……え? 昨日だけで建てちゃってますよ!?」
シスター様のお家とクラフトハウス、1日でできてますよ、ホノカ様っ。シスター様のお家は木の後ろだし、クラフトハウスも私たちのお家の裏だから気付かなかった。
「ま、まあそれは私の中の定番を使ってるからだよ。内装もまだだしね」
頑張ろう。できなくてションボリしてても意味がない。
やっぱりホノカ様は凄い。
だって私の不安な気持ちも、吹き飛ばしてくれるし。
「え? ひゃひっ!?」
「拝むの禁止ー! 拝み始めたら万歳させてコチョコチョ地獄に落としまーす!」
「わ、わひゃりましたっ、わひゃひひましたぁっぁははははひゃめぇッ!!」
拝むのはホノカ様が寝た後にしよう。
私の決意は固い。
「そもそも拝むならミフルー様でしょ」
「せっかく教会があるんですし、お祈りしましょう」
「だねっ」
私たちは教会でお祈りした。
そして不思議なアイテムも発見した。
「この燭台もマジックアイテムなのかな?」
「言われてみれば減らないろうそく……ですね」
「マイの能力、いいなあ」
「そうなんですか? 私はホノカ様のサイコキネシスが羨ましいです」
ないものねだりになっちゃうのは仕方ないよねって笑い合う。
燭台も売ろうと思えば売れるけど、そんなに需要はないかもしれないな。明るさで言えばランプのほうが明るいし。それに私たちの目的は、別にお金儲けじゃない。年会費も回復の丸薬があれば十分だし。
「私たちはのんびり楽しいスローライフを目指してるからね」
「はいっ」
でもなあ、とホノカ様がぼやいた。
「スローライフってさ、目指してるとスロれないね」
「ホノカ様なんですかそれ、あははは」
「だってさあ、環境が整ってるからスローライフできるんだし──」
今の私たちみたいに、整えてる最中だと忙しいじゃない、ってホノカ様。それは確かに。やることがいっぱいある。
今日は種を植えるのと、建築の続きだ。採取は昨日たっぷり取って来たのでお休みするけど。
「そういえばヒルク草を植えてみるのもありかもね」
「オモチちゃんが来ましたからね!」
妖精さんと精霊さんの祝福、違いがあるのかは分からないけど、試してみて損はないはずだ。
「ほらね? スロれない」
「スロれませんね」
「じゃあ今日もしっかり働こー!」
「はいっ!」
クラフトハウスにクラフト系アイテムはホノカ様が移してくれた。私たちは万能作業台のところに2人で行って、今日使う予定の建材をクラフトする。木材をたっぷり確保してきたから、飾り壁系の使用も解禁することにした私たち。
今日はその建材を使って、お店を建てるそうだ。
「壁1500と柱はー……500個でいいかな。あと石畳と赤レンガの壁を2000お願いね」
「分かりました。収納箱に入れておきます」
「私もクラフトできたら簡単なのになあ」
「私だってサイコキネシスが使えたらお手伝いできますよー?」
「「ふふふっ」」
トナリノ シバフハ アオイを、テンドンしたってホノカ様はご機嫌になった。さっきの、ないものねだりのくだりを繰り返したから私は笑ったんだけど、同じような意味かな?
ホノカ様は昨日の残りの建材を使って、先に建築を始めた。私も建材づくりが終わり次第オモチちゃんのところに行こう。ヒルク草が栽培できるなら、丸薬が作りやすくなるから聞いてみないとな。
果樹の種と、野菜の種。それからヒルク草を収納箱から取り出して、果樹園に向かう。
辺りを見回せば、ここに来たときとは違う風景が広がっていた。
私たちのお家に教会。シスター様のお家、クラフトハウス。露天風呂、果樹園、畑。
「村っぽくなってきたなあ」
ホノカ様のことだから、今日中にお店が何軒か建っちゃうかもしれないな。人はまだいないけど。
「オモチちゃーん、ちょっと相談があるんだけど」
ヒルク草の栽培ができるか、聞いてみた。だけどオモチちゃんにも分からないみたい。キュ~? キュ~? って首をかしげる可愛い姿を見てしまって、私は悶える以外の行動はとれなかった。
「ホッホッフー」
「プゥ? クゥクゥ」
「どうしたの? 2人とも」
ジェスチャーを読み解けば、どうやら試してみようということみたいだった。うん、それがいいよね。私は持って来ていたヒルク草を、オモチちゃんに渡す。するとオモチちゃんが、ローラちゃんに指示を出して新しい畑を耕すみたいだ。
「私も手伝う?」
手伝いはいらないみたい。狭い範囲だし、すぐ終わるようだ。じゃあ私は果樹園で種を植えていこう。
「ぐえっ、な、なに? オモチちゃん」
「キュッキュ!」
畑を指さすオモチちゃん。
「ここ? お野菜から植える?」
「プゥ~」
言いたいことは分かったけど、襟を引っ張ったらぐえってなるからやめて欲しい。しかも素早かったから私には避けられないよ。
私は種を見せて、オモチちゃんの指示で植えていく。種を植える深さや、かぶせる土の量なんかもあるみたい。
ジャガイモのときは、凄く雑に植えちゃったんだなって分かった。農業って難しいものということも、今学んだ。
果樹を植えるときも、なにかルールがあるのかもしれないな。ローラちゃんが薬草用の畑も耕し終わったみたい。なので私たち3人は横一列に並んで、野菜の種を植えていく。
イネ、手に入ればいいなあ。アリーシャさんからの続報はないままだから、難航してるのかな?
ショーユがあれば、ホノカ様の持って来たお弁当に付いてたソースも作れるんだけどな。
それにカラアゲ。あの魅惑のお肉がまた食べられるようになるはずだ。もしカラアゲをドラゴン肉で作ったら、って考えるだけでもよだれが出てしまう。
お金をいっぱい稼いで、お金を使って調べるのがいいのだろうか?
それともギルドランクをゴールドに上げる?
収納棚の値段次第かもしれない。もちろん売れる数も大事だ。可愛い収納棚や、カッコいい収納棚なんかで差を付けるということもできる。お店用には過度な装飾はいらないと思うけど。
夕ご飯のときにでもホノカ様に相談しよう。
「終わりーっ」
「プゥ~ッ」
「フッフホーッ」
私たちはハイタッチして、畑から果樹園に。ヒルク草が増えるといいねって話ながら向かう。果樹園は心配していない。
だって甘いの大好きな2人が手伝ってくれるし、オモチちゃんは仙桃が大好きだからな。私は右往左往するだろうけど、導いてくれるはずだ。肥料を混ぜ込んだ土ブロックも、ホノカ様が設置してくれている。
「プゥ~プッ」
「これくらい空けたらいいの?」
木の間隔は6メートルくらい空けるみたいだ。オモチちゃんの指示を受けながら、まずは仙桃を5個植える。私たちには必要だし、オモチちゃんとローラちゃんの一押し果実だし。
私の一押しの栗は2番目に。こちらも5つ。オリーブは2つ植えた。油は買って来てもいいし、少なくても問題はない。
他の果実もいくつか植えた頃、ホノカ様がやって来てお昼にしようと提案した。
それから文句も言われた。
「マイばっかりオモチとローラとたわむれてズルイーっ」
「そ、そんなことないですもん」
2人を拭く権利を、私は今日も失った。
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