26 心は野獣だ
「そんなわけないよー」
ホノカ様に言ったら笑われた。台車に気付かないことに気付かれたくらいで、どうこうする神様じゃないって。
「役割が違うだろうしさ」
「そういうものですかあ」
神様なんて、台車を思い付く存在を作り出す存在じゃんって。
ちょっと私にはよく分からない話だった。
「な、なるほど」
「いや、こんなことを真面目に考えられても私が困るっ」
今重要なのは、夕ご飯のメニューだって力説された。
それは私でも分かった。
美味しいは大事なことなのだから。私がウンウン唸ってると、ホノカ様が案を出された。
「久しぶりにドラゴン肉のステーキにする?」
「はいっ。ではデザートはあっさり目にしてオレンジを切りましょう」
お肉を焼くだけだから自分たちでもできる。しかし万能作業台のかまどを使ったほうが美味しかったので、私たちの食事は常に作業台を使ったものになっていた。
さすがに果実を切るだけなら違いはないだろう。そう思ってた私たちは崩れ落ちるくらいビックリしたのも、思い出の1つになっている。
なぜ果実を切ってもらうだけなのに、かまどと自分たちであんなに違うんだろうか? 凄く謎だけど、神様の道具だからかなっていう回答しか思いつかなかった。
「仕込み終わりましたー!」
「お風呂の準備もできたよー!」
まずはオモチちゃんとローラちゃんを拭こうと思ったら、自分たちでできるからみたいなジェスチャーをされた。
「そう? じゃあ私は洗濯しちゃいますね」
「私はオモチを拭いてあげるっ。いや、拭かせて。あとでローラのも手伝うからね」
あ……私も拭きたかった。洗濯するって言ってしまったから、明日のチャンスを待とう。2人ともフワッフワで、いつまでも触っていたい毛皮なんだ。ローラちゃんのは硬そうに見えるんだけど、触ると柔らかで滑らかだ。レア種なだけはあるんだろうなあ。
「オッホフ」
「ん? どうしたのローラ」
「ホッフ」
「マイ-、ローラが洗濯するってー」
「大丈夫だよ、ローラちゃん」
そう伝えるとなにかを伝えたいのか、ジェスチャーを繰り返してる。え、と?
「あ、分かった。私たちがお風呂に入ってる間、やることがないってことじゃないかな?」
「ああ、私たちが拭いてあげると、さらに時間を持て余しちゃうんですね」
だから私たちがお風呂に入ってるときに、洗濯してくれるって言ってるのか。私ほホノカ様は顔を見合わせて、ローラちゃんにお願いすることにした。オモチちゃんはというと、熱いお湯の溜め池の側でまどろむことにしたようだ。
「ローラに甘えちゃうことが増えてきたね」
「ですね……ローラちゃんになにかしてあげたいです」
「明日にでもケーキを作ってあげようよ」
「それです!」
甘味好きのローラちゃんなら喜んでくれるだろう。オモチちゃんも甘いのが好きだって、アリーシャさんに鑑定してもらって分かってるし。
ローラちゃんは神様のアイテムでも、甘いのが好きって書かれるくらいだから相当なんだろうなあ。
「さ、ご飯にしようか」
「はい。久しぶりのガッツリお肉ですねっ」
少しテンションが上がるな。ステーキっていう食べ物は。しかもドラゴンのお肉だし。
たっぷりの肉汁に、ソースを絡める。それをカリッカリのガーリックトーストですくって、口に放り込むだけでも幸せが押し寄せてくる。だというのに、プリッと噛み切れる上質のドラゴン肉が加わるんだ。
それはもう天にも昇れる美味しさだった。
みんな夢中で食べてる。
こんな幸福をもたらしてくれたホノカ様に感謝を。
「拝むのはやめてよぉっ」
「いえいえ、ホノカ様のお陰ですのでっ」
「まあ美味しいからねえ。ドラゴンは何体でも来てくれていいかな!」
ホノカ様にはそうだろうなあ。オヤツを摘まむ感じでドラゴン退治するんだから。私もせめて装備を整えるべきなんだろうか?
クラフターズハンマーはクラフト用って感じのハンマーだし。レシピブックには装備関係もあるからなあ。
問題は素材なんだけど。レア鉱石というのだろうか、それがなに1つ持ってないから作れない。鋼シリーズまでは大丈夫だけど、重そうだし悩むな。
ドラゴンシリーズは作れるけど、対ドラゴン用の装備だし……。私が装備したところで役には立たない。むしろホノカ様には邪魔だろう。
そんなことをホノカ様に相談したら、軽くて丈夫な防具なら役に立つだろうって。
「マイには移動や採取、クラフト関係のアイテム作成に注力して欲しいかな」
戦闘に関しては完全に任せて欲しいみたいだ。
「危ないこと、して欲しくないよ」
「そう、ですか。はい、分かりました!」
「うんっ」
ところでさ、とホノカ様。
「スッゴイ今更なんだけどね、マイが作れるようになった収納棚」
売れるんじゃない? って言われた。
た、確かにっ。
「気が付きませんでした……」
「私も……」
異空間系アイテム。あまり見せるものじゃないと言われてたからかなあ。まさか私が作れるようになるとも思わなかったし。
10列2段で、それぞれ99個しか入らないけど。さすがに万能作業台の収納箱みたいに、いっぱい入るという訳じゃない。
移動させるのにも不便だろうけど、それでもお店とかには凄く便利なはずだ。
「魔石を使ったアイテムで、今のところ一番便利なのが収納棚だよね?」
「はい。他は装備や威力の高い道具でしたので」
特に道具のほうは使い道に困りそう。ばくれつ玉と、新型ばくれつ玉。被害の範囲が大きそうだ。
「広範囲の整地には使えそうだね、ばくれつ玉って」
「でもそのために魔石を消費するのは、もったいないですよ」
「まぁねぇ」
魔石はお金儲けするのに使うのがいいかなってことになった。
つまりは収納棚だ。木材と魔石で作れてしまう簡単で便利なアイテム。これを売ることで、魔石も買えちゃうんじゃないかってホノカ様が言う。
「もしそうなったら、お金がどんどん増えていくことになりますね!」
「アリーシャさんも喜ぶよ、きっと」
お金大好きって言ってたからなあ。清楚な雰囲気の女性なのに……心は野獣だ。
「んふふ、ちょっと目が怖いですけどねっ」
2人でクスクス笑った。楽しい食事も終わり片付けようとしたら、みんながみんな手伝うと言い出した。
全員でワチャワチャ洗い物するのも、いいものだよってホノカ様が言う。
「だって楽しいじゃん。話すのも、同じことをするのもさ」
「分かりましたよ、もー」
雑事なんて任せてくれれて全然いいのに。ホノカ様は頑固な優しさをお持ちだからなあ。
でもホノカ様の言う通り、みんなで同じことをするのって楽しいことなんだって、私は知った。
「私は字の練習をしますけど、ホノカ様はどうなさいますか?」
「どうしよっかな。うーん、あ、マイ。トランプ作ってくれるかな」
「分かりました」
オモチちゃんとローラちゃんと一緒に、カードで遊ぶそうだ。2人とも賢いし器用だから問題なく遊べそうだって。
他にも玩具があったので、ついでにクラフトしておこう。
「カード以外にも、おもちゃブロックとすごろくセットというのがあったので作っておきますね」
「ありがとー」
しばらくの間、レシピを書き写していると、おもちゃブロックを追加して欲しいとお願いされた。
どうやらオモチちゃんとローラちゃんが、ブロック建築に興味を持ってたみたいでトーフハウスを作っている。
「話し合いながら作ってるのよ」
「凄いですね」
出来栄えに納得いってないみたいだ。2人で相談しながら凹凸を付けて、複雑な形に組み上げようとしていた。
単純なトーフハウスだと、気に入らないみたい。
「トモダチモンスターだから、ってことなのかな?」
「普通の魔物には無理そうですけど」
ローラちゃんはレアな魔物だし、ちょっと分からないかな。オモチちゃんは妖精だし。
「まあ楽しそうだし、なんでもいいか」
「ですねっ」
追加でおもちゃブロックを何セットか追加しておく。
あと自分用にも追加しておく。
だって負けたくないという気持ちが、私の中に生まれたから。
--------------------------------------------------------------------------
「マイの」を打ち損じるとチョットアブナイ、マイのクラフトメモ
[万能作業台]
トランプ1
樹皮1
すごろくセット1
樹皮1+木材1
おもちゃブロック10
木材1
[かまど]
ドラゴンステーキ1
ドラゴン肉1+塩1
ガーリックトースト5
パン1+ガーリック1
カットフルーツ3
果実1
[万能作業台LV7 錬金作業台]
収納棚1
木材1+魔石1 10列2段99個まで
ばくれつ玉1
魔石1+ツタ1+火山岩1
10×10×10素材ブロック化
新型ばくれつ玉1 高威力
魔石1+ツタ1+火山岩1+鉄鉱石1
8×8×8 素材ブロック化
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます