24 トモダチ図鑑

「あれ?」

「どうしたの? マイ」


 食事を終えて、夜の雑談中。レシピブックを見ながらあれこれとクラフト予定を立てていたときのことだった。


「今気付いたんですけど、図鑑というものが解放されていました」

「ミフルー様も新設設計にしてるんだね」


 作ったり見つけたり戦ったものを図鑑化する。

 ゲームでは当たり前になっている機能だそうだ。見つけた場所やドロップアイテムなんかの情報が、パッと見れるから便利なんだって。

 現実だからドロップアイテムはないだろうけど、とホノカ様はおっしゃっているが、ヒルク草とか仙桃なんかは場所がはっきり分かると採取しやすい。

 でも……またミフルー様に感謝すべきことが増えてしまった。なにも返せないままだと心苦しいな。


「トモダチモンスター図鑑、ぜひ充実させたいな。発酵ダルも増やそうよ」

「そうですね。トモダチモンスターが増えたらできることも増えそうですし」


 ネクタルを増産するのはいいことかもしれないな。手持ちのネクタルはあと3個しかないし。

 発酵ダルで作るものは時間が掛かるし、仕込んでおくべきだろう。バターだって使い道が多いものだから。

 ケーキのために、ブランデーを作ったっていいし。


「というか……ミフルー様に導かれて、霊山アーで暮らすことになってるのかもしれないなあ」

「そうなんですか?」

「うん」

「だって──」


 そうじゃないと、トモダチモンスター図鑑なんて項目が用意されるのも変だ。そうホノカ様に説明された。

 確かに。

 仙桃がないとネクタルも作れないしなあ。ネクタルがなければ、トモダチモンスターを手に入れることもない。

 アイテム図鑑を見れば、仙桃が取れる場所は他にたった5か所だけ。それも全部別の大陸だった。ホノカ様が言うには、転移候補には上がってなかったそうだ。


「ミフルー様には予定通りの行動だったんですね、私たちって」

「私がインベントリを諦めて村に行ったら、どうするつもりだったんだろ」


 ってホノカ様が笑ってるけど、私でも分かる。

 その選択肢は絶対になかったって。最初からインベントリにこだわってたし。

 あのときに取れた選択肢の中では、最高のものだったと思いますよ、ホノカ様。

 なんて真面目に考えていた私だけど、ホノカ様のお心は既にトモダチモンスター図鑑のほうに奪われてたみたい。


「進捗率はさすがになさそうだねー。2%とか表示されてたら、あと98体のモンスターをトモダチにすればいいって分かったのにな」


 そしてよくないゲーム脳が出てきてる。


「ホノカ様っ! 駄目ですよ、そんなの。トモダチなのにコレクション扱いは可哀想じゃないですか」

「あ、ゴメン。ゲームみたいな能力でも現実だもんね。ここは」

「はい」


 ホノカ様はオモチちゃんとローラちゃんにも謝ってた。本来は優しいおかただし、ゲームに少し引っ張られただけだと思う。大丈夫。

 ちなみにオモチちゃんは撫でられて気持ちよさそう。ホノカ様の言葉を気にしている風もなかった。ローラちゃんはというと、ションボリしてるホノカ様を抱っこして撫でている、優しい子だった。


 ホノカ様が子供になってるのも、意味があるんだろうな。あんなにお強いホノカ様が大人のときでも耐えきれなかったから、こっちの世界に来てるんだし。もっと楽しく生きて欲しかったのかもしれないな、ミフルー様的には。


 大丈夫。


 よくないところは、お互い注意し合えばいいはずだ。私たちは、今度は上手に生きて見せます。ご安心ください、ミフルー様。


「上手なゲーム脳になりましょう、ホノカ様っ」

「クフッ、なによそれぇー」


 今日はローラちゃん用の大きなベッドに、みんなで一緒に寝た。楽しかった1日は、楽しいまま終わる。

 とてもいいことだ。

 そして楽しく1日を終えれば、目覚めもスッキリ。爽やかな目覚めは、今日1日のやる気も上昇させてくれた。


 まずは朝セットだ。

 焚き火、お湯用の石の投入、朝ご飯の用意。

 収納箱を開いて、不足しているものをチェックする。今日は採取のときに、ローラちゃん用の樹皮を集めておく必要があるな。


 それから昨日の続き。果樹園を今日中に完成させたい。消費量も増えるから、少し多めに果樹を育てたほうがいいかもしれない。

 ローラちゃんに畑を耕してもらうのも、いいかもしれないな。色々お手伝いできるみたいだし。

 野菜の種を買ってきたので育てよう。オモチちゃんのおかげで、買ってきたものよりいいものができるはずだし。


「そうだ、オモチちゃんとローラちゃんの歯ブラシも作っておこう」


 2人とも賢いから使えると思う。特にローラちゃんは虫歯になりやすいみたいだし。抜けば生えるから平気、みたいな考えで暮らしてたみたいだけど。

 そんな恐ろしいことは、もうさせないっ。

 ところで2人ともどこに行ったんだろう?


「はよー、マイ」

「あ、おはようございます、ホノカ様」


 ふなぁ、とか言いながらあくびして、ムニャムニャ挨拶するホノカ様がお可愛らしく、朝からほっこりした。


「お湯の準備ができてますから、顔を洗ってください」

「ありがとね、マイ。お湯が簡単に出せたら楽なのになあ」


 温泉掘るかなあ、とか言いながらフヨフヨ飛んで洗い場に向かうホノカ様。温泉かあ。噂には聞いたことがある。自然のお湯の池。

 あれば便利だけど、掘ったら作れるものなんだろうか?


「はい、タオルですホノカ様」

「ありがと」


 温泉が気になったので聞いてみたら、ここは活火山だからあるはずという答えをもらった。なんでもマグマというもので地面が暖められて、水がお湯になるみたいだ。だから地中深く掘り進めたら、温められた地下水に巡り合えるんじゃないかと、ホノカ様は考えたらしい。


「そんな地下からどうやってお湯を持ってくるんですか?」

「過去の偉人さんが発見した原理で?」

「凄いですっ」

「ねっ。でも問題があります」

「どんな問題ですか?」


 ホノカ様が、偉人さんの原理を分かってないので、どうすればいいんだろう。ってなってる。


「ポンプを買ってくるしかないか。あれば解決だけどなかったら諦めるしかない」

「残念ですね」


 万能作業台で作れたらよかったんだけどな。残念ながらポンプというものはなかったはず。

 お湯を作れるアイテムさえあったら、ここまで困ることもなかったのにな。


「手間を掛けるしかありませんね」

「うん。そもそも掘ったら温泉に当たるかどうかも分かんなかったっ」

「私、覚えてます! それってトラヌタヌキノカワザンヨーですよねっ」

「楽しいでしょう? 捕らぬ狸の皮算用はさ」

「楽しいですー」


 成功する未来を妄想して思考で遊ぶ娯楽。ホノカ様の住んでた世界は、色々と豊かな世界だったんだろうな。


「ホッホッホホー」

「プゥ~」

「2人ともお出掛けしてたんだ」

「早起きだねえ」


 ローラちゃんがバックパックを手に持って、頭にオモチちゃんを乗せてどこかから帰って来た。

 バックパックを受け取って中を見ると、薬草や果物が入っていた。


「採取してきてくれたんだね。ありがとう」

「オモチもローラもスゴイよ!」


 私とホノカ様で褒めたら、ローラちゃんが手と頭を横に振る。うん? 違うってことみたいだ。薬草は渡してきたけど、果物は食べるジェスチャーをしてる。


「自分で朝ご飯獲って来たんだ」

「収納箱の、食べてもいいんだよ? ローラちゃん。あと薬草ありがとうね」

「みんな揃ったし朝ご飯にしよっか」

「そうですね」


 今日はいつもと違って、リンゴのパイとカボチャのポタージュスープにしてみた。これだけだと甘そうなので、焼きウィンナーも添える。

 んふっ、少しだけオシャレな朝食だ。

 図鑑もあるし、メモ帳にレシピを写して字の練習をしようかな? レシピブックを開く必要もなくなりそうだし。


「わあっ、なんか新鮮な気分だね」

「えへへ、トモダチモンスターの2人が仲間になったので記念に!」


 オモチちゃんはテーブルの上でクルクル回るし、ローラちゃんは拍手してくれる。喜んでもらえて、私も嬉しかった。楽しい食事を終え、みんなで歯磨きをしたら採取の時間。今日は霊山アーの火口から飛び出して、北西に向かう。


 誰にも開拓されていない手付かずの森で、木材の確保が目的だ。ついでに採取できるものも調べる予定。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る