23 妖精郷

 万能作業台のタブレットが開き、文章が現れると同時に60からのカウントダウンが始まる。

 対象は金ぴかのゴリラ。

 仲間外れだったゴリラだ。


「マイ、ネクタルをっ」

「はいっ!」


 私は急いでショルダーバッグからネクタルを取り出し、ゴリラに渡す。ゴリラは大きいからネクタルが足りるのか不安だったけど、量の問題ではなかったみたいだ。

 ポイと口に放り込んだゴリラが、機嫌よさそうに手を叩きながらホルルルルって鳴いてる。

 私は選択肢の「はい」を慎重に押した。


「ゴリラが笑うってホントなんだ」

「怪我もしてるから回復の丸薬も食べてね」


 薬を渡し、飲むように指示する。これで怪我は全部治ると思う。おっきくて頼りがいのある仲間が増えた。

 タブレットで情報を見ると、オモチちゃんみたいな特殊な力はないみたいだけど、大体なんでもお手伝いができるみたいだ。手があるし器用なんだろう。


「武器も罠も使えるみたいです」

「スゴイねっ」


 性格は、いいひと、虫歯キングだそうだ。それを伝えたらホノカ様が笑い転げてる。落ち着くまで待って、名前をどうするか聞く。


「この子も女の子です」

「ローラ! これしかないよ」


 気に入ったみたいで、拍手してるローラちゃん。お洒落な感じだし、見た目にも合ってるかな。金色の毛皮も、お風呂に入ればもっと綺麗になるだろう。


「よろしくね! ローラちゃん」

「問題はアリーシャさんに見てもらうことができないことだなあ」

「そうですね……さすがにローラちゃんを街に連れて行くのは、無理がありますし」

「食べられないものは食べちゃダメだよ?」


 頷いたっ。

 ものすごく賢いのでは!?

 私とホノカ様のやり取りを見て、動きを覚えたってことだよね?


「もしかしてネクタルを飲むと、頭もよくなるんでしょうか?」

「どうなんだろうね? ローラは特殊個体っぽいから、そのせいかもだし」


 オモチちゃんは妖精だしなあ。


「私の鑑定能力が上がるまで、オアズケだね」

「はい」


 飛んで帰ることをローラちゃんに教える。落ちたりしないから安心するようにって、ホノカ様が説明した。

 だから私にも抱き着く必要はないと言う。


「いえ、これは念のためです。必要なことです」


 こればっかりは譲れないのだ。

 そんな私たちを見たローラちゃんが、纏めて私たちを抱っこした。


「ローラちゃん、もの凄く賢いっ」

「マイのせいでローラがいらんこと覚えちゃったしっ」


 甘えん坊さんが多いなあとかボヤキながら、ホノカ様が私たちをまとめて運び出した。初飛行のはずのローラちゃんは、暴れたりせずに落ち着いている。ホノカ様のことも信頼してる、ということだ。

 私たちは拠点に帰るまでの間、色々とローラちゃんに話しかけた。話かければ話しかけるほど、ローラちゃんは人の動作や感情なんかも覚えそうだから。


 オモチちゃんはホノカ様のバッグの中で寝てるので、そのまま寝かせておいた。オモチちゃんはオモチちゃんで、凄く図太いのかもしれないな。戦闘前にバッグの中にいてねってホノカ様が言ってたけど、そのあとすぐ寝たっぽいし。


「さて、オモチとローラのお風呂はどうするべきかな」

「入れないんですか?」

「動物は基本的に濡れるのを嫌がるからね」

「そうなると拭いてあげるくらいですか」

「かな」


 ローラちゃんはおっきいからなあ。背が高いというよりはゴツイだけど。背だって、小っちゃい私たちより断然大きい。

 なのでローラちゃんは拭きごたえ抜群だ。


「バスタオルも用意しないとですね」


 専用のを用意しようかな?

 オモチちゃんは森の妖精さんだから緑色。

 ローラちゃんは金色だから黄色。

 柄には白を差し色にしよう。


「作ってきます」

「オッケー。私はご飯の準備をするかな」


 あ、オモチちゃんは小っちゃいから問題ないけど、ローラちゃんの寝床は作ってあげないとな。おっきいベッドも追加でクラフト。

 ホノカ様がお風呂の準備をする間、私はオモチちゃんとローラちゃんの身体を拭くことにした。


 オモチちゃんをホノカ様のバッグから出して、お湯で濡らしたタオルで拭く。なすがままのオモチちゃんが可愛い。ヘソ天で、腕を伸ばして、完全に力の抜けた、ダラーっとしたオモチちゃんができあがった。


「ローラは私も一緒に拭くから、タオルの予備ちょうだーい」

「分かりました」


 追加のタオルを作ろうとしたら、ローラちゃんが「ホッホッホッホ」と鳴きながら自分を指している。


「ローラも欲しいの? 自分でも拭く?」

「ホルル」

「見ただけで分かるなんて賢いし器用ですねっ」


 洗う分もあるし、オモチちゃんのタオルも増やしておこう。たいした手間じゃないし。足りなかったら私たち用のを使ってもいいし。

 ここの北西にある森のおかげで木材の目途が立ったので、布や木材も気にしなくてよくなった。

 充実させていこう。


 2人の毛皮も拭き終わったし、今度は私とホノカ様の入浴。お風呂に入りながら、オモチちゃんとローラちゃんに「入る?」って聞いてみた。


「やっぱり嫌みたいだね」

「残念です」

「お風呂好きな子もいるはず。元の世界じゃ、温泉とかお風呂につかる動物の動画も結構あったしね」


 今後のトモダチモンスターに期待しようだって。この世界はモンスターじゃなくて、魔物ですよと伝えたら様式美だと反論された。


「今日は色々と濃い1日でしたね」

「うん。トモダチモンスターは2人増えるし、シスターのこともあるしね」


 建築が渋滞してきたと笑うホノカ様。

 果樹園も途中です。


「なんかネクタルのせいでさ、人よりトモダチモンスターのほうが増えそうだよね」

「ネクタルのクラフト、止めておきますか?」

「でもトモダチモンスター増やすのってハマるんだよなあ」

「あ、なんか分かりますっ」


 だってオモチちゃんもローラちゃんも、トモダチになったとき凄く嬉しい気分になったから。


「なんかこのままじゃ人の村というより、トモダチモンスター村になりそう」

「ンフフフッ、なんて危ない名前の村なんでしょうか。仲間とはいえ魔物の村って」

「じゃあトモダチ村?」

「そ、それは危ないというか、なんか怖くないですか? 友人のふりをしてる村っぽく感じますけど」

「逃げれなそう……こわぁ」


 ホノカ様が言ったんですが?

 お風呂につかってるのにゾクッとしてしまった。

 これはいけないということで、真面目に考えることにした私たち。私たちの名前をもじったものや、ミフルー様の名前をお借りする案も出た。


「うーん、どれもしっくりこないなあ。うーーん……」

「もうなんとか村や、なんとかの街っていうのを、やめたらいいんじゃないでしょうか?」

「異世界郷、みたいな感じかな? 異世界はないけど」

「ですね。いっそのこと初心に帰って妖精郷なんてどうでしょう? オモチちゃんはもちろん、ローラちゃんだって妖精みたいなものですよ、もう」

「あ、いいかもっ、妖精郷。そうしましょっか」

「はいっ」


 頑張ってスローライフの妖精郷を作っていこう。

 名前負けしないような楽園にしないとね、ってホノカ様と決意を固めた。

 といっても今日の作業は時間的になし。夕ご飯のあとは雑談して寝るくらいかな。


「ローラの食べるものを調べよう」

「はい。色々持ってきますね」


 ローラちゃんの食べ物、そして量が分からないから、調べてあげないと。今の私たちが持ってないものが必要だったら、ローラちゃん自身に持って来てもらわないといけないし。

 その結果、ローラちゃんは今持ってるものはなんでも食べられるということが分かった。そして虫歯キングの理由も分かった。

 甘い果実が好きだからっていう単純な理由だったけど。


「ゴリラってムッキムキのわりに草食だったはずだけど、魔物だからかな?」

「1回の食事も多いみたいですし、なんでも食べられるならよかったです」


 と、ここでローラちゃんがなにか迷ってるような雰囲気を出した。そして自身を指し、拠点外……妖精郷の外を指さす。


「外行きたいの? ローラちゃん」

「ホッフ」

「分かった、じゃあ一緒に行こっか」


 立ち上がるホノカ様を持ち上げて、また椅子に座らせるローラちゃん。そしてまた自分を指して、妖精郷の外を指す


「えっと、1人で行ってくる? ですかね?」


 私は、私とホノカ様を指さしたあと、この場も指す。そしてローラちゃんを指して、外を指す。

 頷いたっ。

 やっぱり物凄く賢いっ!


「オッケー、いいよ」


 ホノカ様はそう頷いて指で丸、腕でも丸を作って、了承のジェスチャーをローラちゃんに見せてた。

 ローラちゃんは賢いからすぐに覚えるだろう。賢いですね。私よりも賢い気がします、なんて話してると帰って来たローラちゃん。

 木の皮を見せてきた。


「ローラちゃん、これも食べるの?」


 私もジェスチャーで聞いてみたら、頷いて返事するローラちゃん。これからは木の皮も集める必要があるみたい。1回の量はそれほどでもないけど必要みたいだ。木材の確保のときに回収しておこう。


 最近、バッグとか作ってたから樹皮の在庫がなかったみたいだ。よかった、クラフターズハンマーで素材化できるものだから、集めるのは難しくない。



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※ニシローランドゴリラからローラ。

ローラちゃんが女子なのに虫歯キングなのは、ただの称号だからです。

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