22 だってホノカ様、ドラゴン退治もジャガイモ収穫も同じ感じだったし

「しかしそうなるとさ、シスターに来てって頼むのも迷うね」

「はい」


 娯楽はない。

 貴族に狙われるかもしれない。

 開拓しかすることがない。

 神様は、知られてないミフルー様。


 いいところはといえば、オモチちゃんが可愛い。

 果物と薬草が精霊に祝福されている。

 自然豊かで綺麗な場所。


「そのくらいですか……」

「マイのスイーツは自慢できるレベルだと思う」


 確かに。

 コーヒーロールケーキこそ至高の一品だ。アリーシャさんも気になったみたいで、次回来るときには持って来て欲しいと頼まれた。


「そういえばマイ。タブレットが開けるならさ、ここで出せたりしないの?」

「どうでしょうか。試してみます」


 摘まんだ指先を開く動作で収納箱のタブレットを展開する。コーヒーロールケーキを出そうとしてみるものの、取り出すことはできなかった。


「不思議な能力ですね、マイ様」

「はいっ。過分な力をミフルー様にいただきました」

「やっぱり教会を管理してくれる人は欲しいなあ」

「はい。感謝の気持ちは常にお伝えしたいです」


 でも霊山アーの特殊性があるため、転勤しないで永住してもらわないと情報が流れてしまうと、ホノカ様は考えているようだ。


「その辺りは相談するしかないと思われますよ」

「ですよねー」

「教会に行ってみますか?」

「うん、そうだね。商業ギルドでの目的は済んだし、行こっか」

「オモチちゃんがなんでも食べられるって分かってよかったです。ありがとうございました、アリーシャさんっ」


 オモチちゃんは私たちの話に飽きていたのか、お腹を晒して寝ていた。ヘソ天というポーズだと、ホノカ様に教わった。野生を忘れて完全に信頼してるポーズらしくて、私はとても嬉しくなった。


「オモチちゃん~っ」

「完全なモフラーになったねえ、マイは」


 オモチちゃんのお腹に顔をうずめていると、そんなことをホノカ様に言われた。しかしそれはあなたたちもそうなのではと、私は思った。オモチちゃんを撫でるホノカ様もアリーシャさんも、顔がとろけていらっしゃるのだから。


「またお越しください」


 そう言うアリーシャさんの目は、ショルダーバッグから顔を覗かせるオモチちゃんに向かっていた。


「順調にオモチのファンが増えてるね」

「誰でもこうなっちゃいますよ」

「ぜひ近いうちに」


 7日に1回は顔を出して欲しいらしい。そう言われても、気軽に来れる距離じゃあない。アリーシャさんには諦めてもらおう。

 教会への道すがら、ホノカ様とそんな話をした。


「禁断症状、出なきゃいいけど」


 会いたくて、たまらなくて。

 仕事も手に付かなくなっちゃうそうだ。

 私たちは危ない妖精さんをトモダチにしてしまったようだ。


「こんにちは、神父様。ちょっと相談がありまして」


 寄付をしてお祈りしたあと、人がいなくなったタイミングでホノカ様が声を掛けた。霊山アーのことなので、人に聞かれないほうがいい。だから個室でお話させてもらえるか尋ねる。

 神父様はホノカ様が異世界人様だと察していらっしゃるので、そのことに関係すると思われたようだ。シスター様に礼拝に来る人たちのことを頼んで、私たちを個室に案内してくださった。


「それで本日はどのようなご相談でしょうか」


 少しウキウキした様子の神父様。

 分かる。

 ホノカ様は不思議がいっぱいのお方だし、そんなホノカ様からの相談だ。なにか未知の体験を想像してしまっても仕方がないって。


「実は私たち、ミフルー様にお勧めされた霊山アーで暮らしてるんです」

「あの霊山で、ですか。なんとも峻厳しゅんげんたる神であらせられますな」


 力を持つ神とはこういうものなのかと、神父様は感銘を受けておられるようだ。

 私とホノカ様は難しい言葉が理解できなかったので教えを乞う。


「非常に厳しい神であらせられる。ということですな」

「「え?」」

「違いますかな?」

「私たちには優しい男神様でしたよね? ホノカ様」

「うん」


 たぶんホノカ様なら問題ないから、霊山アーが候補に出てたんじゃないかなと私は思った。

 だってホノカ様、ドラゴン退治もジャガイモ収穫も同じ感じだったし。それを神父様に伝えると、固まってしまわれた。それも仕方ないと思う。私もドラゴンを見て「あ、死ぬ」って思う前にやっつけてたし。


「さすがですな。しかし、そうなるとどのようなご相談なのか想像もできません」

「教会を建てたので、管理してくださるかたが、いらっしゃらないかなと思いまして……」

「場所が場所なので、転属のない人が望ましいんです」

「しかもまだ開拓中ですし、私たちしかいませんし。なのでシスター様が助かるのですが」


 ホノカ様は「食事だけは自慢できるレベルのものを出せますよ」とアピールしている。でも待ってください。まだ来てもらっても、シスター様のお家がありません。建てた教会内だと、休憩とかお昼寝程度の部屋しかないですし。


「ご要望は把握しました。しかしすぐに、というのは難しいですな」


 人選が難しいのは私たちも分かってた。


「分かってます。急ぐわけじゃないもんね、マイ」

「はいっ。お家建てませんと!」

「だよねっ」

「では候補者を選んでおきましょう。街にお越しの際には顔を出していただければ」


 研究畑の人物なら、私たちの要望に合う人がいるだろうと神父様がおっしゃった。私とホノカ様は頷き合ってお礼をする。


「「よろしくお願いします」」


 私たちが建てた教会の規模を伝えて、話し合う。1人でも問題ないだろうけど、念のために2人は候補に挙げてくれるということになった。もちろん、家族で移住してくれてもいいということを伝えておく。


「開拓が仕事になっちゃうんですけどね」

「でも作物なんかはいい物ができますのでっ」


 オモチちゃんを見せて、妖精さんが手伝ってくれることも言っておく。私たちは改めて神父様にお礼を言って、辞することにした。


「どうしよっか。なにか買い物して帰る?」

「小麦と砂糖とコーヒー豆ですか?」


 ハマり過ぎーとホノカ様に笑われながら、小麦と砂糖とコーヒー豆、それから野菜の種を何種類か買って帰ることにした。


 帰りの飛行中に、これからのことを話して行動の方針を立てておく。といっても、来てくれる人のためにお家を建てるくらいしかなかったけど。

 他はオモチちゃんが農業を手伝ってくれるし、畑を広げるくらいだろうか。


「思い付かないもんだね」

「はいぃ」

「まあのんびりやればいいか」

「ですねっ」


 私たちは焦る必要がない。焦らずのんびりが目標でもあるし、このままでもいいのかな。美味しいものを食べて健やかに暮す。

 そんなスローライフを目指さなくては。


 頑張ろう、新たにそう決意を固めていたとき。

 眼下広がる森の中で、何者かの戦闘する姿をホノカ様が発見した。


「介入はピンチのときだけね。様子を見る」

「はいっ」

「オモチはバッグの中に隠れてて」

「キュッ」


 見つからないように高度を落としたホノカ様。森の木々を利用して、戦闘音のする方に接近していく。


「望遠鏡があればよかったな。帰ったらマイにクラフトしてもらおう」

「レシピブックに記載されていればいいですが」


 そこは確かめてみないと分からない。まだグレードアップしたばかりだし、クラフト可能アイテムも膨大なので、私はまだ覚えていなかった。


「ホノカ様、あれって……」

「魔物同士でも戦うのか」

「戦うというより一方的に攻撃されてますね」


 ゴリラの集団が、1体のゴリラに攻撃していた。

 その1体のゴリラは、他のゴリラと違いがあった。


「レアモンスターってことかな? ゴルドブルみたいに」

「金ぴかのゴリラですもんね。きっと珍しいです」


 そのせい、なのかもしれないな。仲間とみなされずに、攻撃されてしまうのは。


「可哀想です、あんなの」

「助けたい? 助けても攻撃してくるかもしれないよ?」

「……そのときは討伐も仕方がないです」


 放置したら誰かを傷つける可能性が大きいんだし。


「じゃ、行くよ」

「私にも1体お願いしますっ」

「気を付けてね、マイ」

「はいっ」


 ホノカ様が奥の4体。私が手前の1体を。地面に降ろしてもらって、ハンマーを装備。ホノカ様が指でカウントダウンを始めた。3、2、1、0──同時に身体強化を掛けて駆けだす私。

 込めた魔力をクラフターズハンマーに乗せ、振り下ろす。ホノカ様命名、ばくれつハンマー。


「やあーっ!」


 広範囲に広がる破壊が、地面も崩して素材にする。つまりゴリラの足元から収納箱に入り、1ブロック分、約1メートルの大きな落とし穴に変わった。足元が消えて突然宙に浮いた慌てるゴリラのアゴを目掛けて、ハンマーを振り上げる。

 よし、尻もちをついた。

 このチャンスに、もう一つの技、ぼっかんハンマーを叩きつける。こうなったらもう反撃はない。退治できるまで地面と同時にゴリラの頭を叩き続けた。


「素材化されるのはいいですけど、どんどん地面に潜っちゃうのがネックです」

「だってそもそもさあ、マイは戦闘職じゃないんだよ?」


 罠も合わせて効率的に狩りをするくらいでいいじゃないと、ホノカ様に言われてしまった。でも私だって戦えるって見せないと、いつまでたってもホノカ様が安心できないと思うんだ。だから私はチャンスがあれば、何度だって戦ってみせる。


「あっ」

「おー、トモダチモンスターだ! 見てマイ、トモダチになりたそうにしてるよっ」


 計算通りって顔してるホノカ様がお可愛らしい。

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