21 船を持ち上げることは人生で1回くらいらしい

「これはまた……」


 絶句しているアリーシャさん。


「凄すぎて販売してはいけないものと言いますか……」


 ネクタルには少しだけだけど若返りの効果があるそうだ。こんなのを売ると、戦争になりかねないと言われた。そして妖精はもちろん、精霊や神様にも好まれる飲み物らしい。

 プニプニしてたけど、やっぱり中身は飲み物だったようだ。


「それでオモチがトモダチになったのかあ」

「ですね!」

「え? あっ! 妖精さんですか。初めて見ました」


 可愛いですねとオモチちゃんを見るアリーシャさん。クゥと挨拶しているオモチちゃん。


「それでアリーシャさんに相談があるんです」

「そそ。オモチが食べちゃダメな食品なんかがあったら、教えて欲しいんですけど」

「えー……私の鑑定、知ってるということですか?」

「まあ、なんとなくだけどね。最初あったときにさ」

「あー……、少々焦りが出てしまってましたか」

「今もオモチちゃんのことを、見ただけで妖精さんとおっしゃってますし」

「うー……やってしまいました。はい、そうです。私の鑑定能力は上級クラスですので、色々見ることが可能です」


 嫌がられることも多いから、気を付けてたそうだ。でも私たちが持ってくるアイテムは貴重なものだらけで、焦りから私たちにバレてしまったということみたい。

 もちろん、私たちのことは鑑定してないので安心してと言われた。


「私は見られても気にしません」

「私もかなあ。むしろコッチは見られる世界だと思ってたよ」

「ホノカ様もマイ様も、もう少し警戒してください……特にホノカ様は言動が危険です」


 あ、今のは私でも分かった。ホノカ様、こっちは見られる世界とか言ったし。そういえば神父様にも気を付けるように言われてたなあ。

 ホノカ様はなにが? って顔してる。


「こっちは見られる世界って、ホノカ様が」


 それか! って顔するホノカ様。それです。


「私、戦闘力に極振りの人生だったしぃ」

「これからは気を付けましょう。街では」


 秘境向きの性格なのかもしれないな、私たちって。


「ところでオモチのついでにさ、アリーシャさん。私も見てもらうことって可能ですか?」

「は、はぁ。問題はありませんけど、見てもらいたがる人なんて普通はいらっしゃいませんが」

「だって面白そうだし。お金は? おいくら万円?」


 ホノカ様はノリノリだ。なぜそんなにも? という気もしたので聞いてみたら、自分の能力をちゃんと把握して、それが証明できるなら働きやすいでしょって言われた。


「なるほどです。能力が証明できれば雇ってもらいやすいということですか」

「そそ。私、入社試験のときにやりすぎてさあ、本社の訓練場を壊しちゃった。それでいきなり借金を……新入社員なのに……黒歴史よ」


 だから証明書があればあんなことにならなかった。ホノカ様はそう呟きながら、椅子の上で膝を抱えて小っちゃくなった。

 アリーシャさんも、そこまでおっしゃるならとホノカ様も見てくれるそうだ。


「まずはオモチちゃんですが、食べられないものはないようです。甘いものを好む性格みたいですね」


 あと働き者だけどお調子者なので、少し注意しておいたほうがいいそうだ。万能作業台と同じものも見えてるみたい。

 つまり、ホノカ様がシャチクでお調子者なのも、アリーシャさんには見えてしまうということ。ホノカ様もそう思ったのか、自ら白状していた。他の情報が知りたいそうだ。

 幸いにもここは個室。情報はここにいる人だけにしか共有されない。


「私にはなんのことか理解できませんが、??コキ???で3000t級タンカー2隻を同時に持ち上げ可能なパワーと見えます。さすがですね、異世界のお方は」

「おお、パワーアップしてる。魔力の分かもっ」


 前までは3000t級タンカー1隻と1500t級船舶1隻だけだったそうだ。

 私にも3000t級タンカーの意味が分かりません、ホノカ様。


「凄く重い大型船のことだよ」


 船を持ち上げることは人生で1回くらいらしいけど。

 船を持ち上げる人生もよく分かりません、ホノカ様。


「船を……持ち上げるのですか? ホノカ様が?」

「事故があったときにね、たまたま近くで仕事してたから私が手伝ったんだ。普通は専門家の仕事だよ」


 船を持ち上げる専門ですか?

 違う違う、事故処理の専門家。

 船を……持ち上げるんですよね?

 どうだろう? いると思うよ。サイコキノは珍しくない能力だったし。


 そんなことをアリーシャさんと話してるホノカ様の世界は、不思議がいっぱいだ。


「ホノカ様は不思議なお方なんです。山をくり抜く作業量よりも、藁のベッドの寝心地のほうを気にしておられましたし」


 山?

 山です。

 くり抜く……?

 すぐくり抜いてらっしゃいました。

 山を……?

 山です。


「2人がアホっぽい会話してるんだけど」


 だってホノカ様が意味が分かりません。

 こんなに小っちゃくてお可愛らしいのに、山をくり抜いたり大型船とか持ち上げるの、意味が分かりません。


「規模が大きくて凄さも分かりづらいですね」

「そうだねえ。5メートル四方の岩、片手で10個ずつくらい?」

「私には絵面が想像できません」

「ホノカ様、これは見てもらわないと分からないと思いますよ?」


 素材化した建材ブロック、1メートル四方のブロックだけど、いっぱい飛んでどんどん建っていく様は不思議な魅力であふれている。

 私の大好きな光景だ。


「機会があれば行ってみたいですね。霊山アーは興味深い地ですし」

「教会も完成しましたし、神父様かシスター様にも来ていただきたいですね」

「頼んでみようか」

「そうですね、ホノカ様っ」


 ミフルー様のことをアリーシャさんに聞いてみたが、神父様と同じようにやっぱり知らなかった。地球の神様なのかな? 知られてない神様の神殿に来てくれる人なんているのだろうか。


「その前に秘境だしね。難しいかも?」

「なにもありませんからねえ」


 まだ生活するだけの場所だ。私は楽しいけど、ホノカ様には娯楽施設が必要だったりするのかなあ。私たちはお酒飲まないし、酒場は不要だろうけど。そうするとなにがあるんだろうか。


「まずはある程度の人が住める環境にしないとダメかもね」

「私たちのお家と教会しかありませんしね」

「でしたら住居、公園、お店、酒場でしょうか」


 あとは住人の働ける場所が必要だそうだ。今のところは開拓しかないけど。

 そうなると若い家族なんかが候補になるんじゃないかと、アリーシャさんに言われた。


「しかし、あまり人には知られないほうがいいかもしれませんね。霊山アーは現状、どこの領地のものでもありませんが、住めるということが発覚すれば領地にしたがる貴族は現れると思います」

「うーん……なるほどぉ。貴族はメンドクサそうだなあ」


 今はこの辺りの領主くらいしか狙ってないそうだ。エゼルテーの街に来るまでにある村で、霊山アーに一番近い村は開拓中の村なんだそうだ。

 先代の頃から始まって、まだ山の麓くらいまでしか開拓が進んでないそうだけど。


「へえ」

「あそこは開拓村だったんですね」

「霊山アーの魔物は強いので、麓の村人たちは結構な戦闘力がある開拓村のはずなんですけどね」


 そんな場所の、更に奥地なのに平気で暮らしてるんだって。

 私たちって。

 だいたいホノカ様のおかげかな。


「ミフルー様もホノカ様は強いって言ってましたね、そういえば」


 神様から強いって言われるホノカ様って、やっぱりとんでもないお人だったんだなあ。さすが異世界人様だ。


「そういえばそうだったけど……私ってそんなに強いの? 一応ランカーだったけどトップ100に入るくらいの強さだったよ? トップ10に入るくらいなら分かるけど、うーん」

「どんな魔境で暮らしていたのですか、ホノカ様は」


 アリーシャさんの中で、ホノカ様が秘境の人から魔境の人にクラスチェンジした。


「お強いのは分かりました。少々お待ちください」


 席を外したアリーシャさんが持って来たのは、霊山アーがある、私たちの住んでいる島国の地図。真ん中に広がる山が霊山アーだ。

 そしてエゼルテーの街くらいからしか、霊山アーの山頂には入れないことが地図から分かった。


「噴火で崩れた後地がルートになってるんだね」

「はい。ここしかありません」


 ホノカ様が霊山アーの北西を指さし、ここにはなにがあるのかと聞いた。地図には森だけが描かれていて、街の情報はない。


「そこは開拓が進んでない場所ですね」

「じゃあ木材はここから取っちゃえばいいか」

「ハゲ山を回避ですっ」


 自然豊かな山頂を、これで失うことはなくなった。


「まあそんな訳で、霊山アーの開拓はエゼルテー伯くらいしか狙っていません」


 しかも若干あきらめ気味なのだそうで。

 だからこそ、山頂で暮らしてる私たちのことが発覚すると、取り込もうとするはずだと言われた。

 しかもホノカ様は異世界人様だし。


「ですのでネクタルの売買は、やめておいたほうがいいでしょう」

「じゃあこれまで通り、回復の丸薬を持ってくればいいですか?」

「お願いします、マイ様。あと仙桃があればいくらでも」

「えっと……」


 私はホノカ様を見る。ネクタルの材料だし、トモダチを増やせるアイテムだし、オモチちゃんの好物だし。


「ごめんね、アリーシャさん。仙桃は材料なんです。オモチのトモダチも増やせる可能性があるからさ」

「アリーシャさん、すいません」

「いえ、そういうことであれば」


 でも余裕があったら持って来てくれとはお願いされた。



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 ホノカの暮らしていた日本は、ダンジョンがポコポコ生まれるローファンタジージャパン。

 そこでダンジョンコアを潰したり獲得する系の、RTA会社に勤めていた社員。

 RTAになってしまうのは、早い者勝ちなので仕方ない。


 という設定はあるけど、出しそうにないので後書きで放出しておきます。

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